欠陥だらけの彼は箱庭で救世主と呼ばれる【イラスト付き】

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一 実践講習(1)

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 一 実践講習(1)


 ソラシマ――それは、東京湾の海上に建設された、数千本もの巨大な柱で中空に浮いている環境配備型中空実験都市だ。新宿と世田谷を合わせた程の面積で、居住区と商業区、プラントエリアがある。また、地下にも空間があり、いくつかの区が存在する。そこにも居住区があるが、ほとんどはプラントや設備エリアになっている。
 移住区と商業区のほとんどは東京都の管理下にあるが、プラントエリアを中心に、島のおよそ三分の一は国有区の『実験区』として国が管理している。対外的な発表では未来型都市の研究開発を目的としており、実験施設の集まる研究センターは災害防壁と称される巨大な壁で断割され、内外の干渉が制限されているため、区の実態はブラックボックス化されている。

 そんなソラシマは、人々の夢も闇も抱え込む未知なる場所。
 そして、ソラシマ第三高等学校、通称『ソラシマ三高』は、そんな人工島の実験区の中にある。



◆◇◆◇◆◇


 たわわな二つの丘陵が、薄い桜色の秘めやかな布地を内側からはち切れんばかりに押し付け、その上に覆われた夏服の薄いセーフカラーにその形を浮き上がらせる。

 彼女が中空に映し出された教材用モバイル端末の3Dモニターに手を浸し、ブンブンと豪快に画面をスクロールする度、まるで耐震強度実験の模擬ハウスのように、二つのそれを惜しげもなく揺り動かす。

 そしてそれを横目で見つめながら、彼は思うのだ。
 その、時代を超えて愛される妙味に富んだ完璧な存在を前に、自分がそれを覗き見ようとする行為を誰が批判できようか、と。

 しかしだ。
 そんな高校一年の彼、多綱魁地(たづなかいち)は、それを独り飲み込んだ。声高々に主張できないのはもちろんのこと、休み時間の他愛もない男子トークに託けて、それに共感を求められるような仲間もいない。
 それには理由がある。人見知りでネットゲームばかりやっている半引き篭もりの彼には、気軽に話せるリアル世界の友人はいないし、もちろんそんな彼に近付いてその欲求を満たしてくれるような艶やかな女子もいなかった。

 孤高の存在。そんなパラメータ設定を自らのプロパティに当てがったのは、半分の理性と半分の言い訳。
 彼自身、女の子と恋愛ゲームのような学園生活を送ってみたいという願望がないわけではない。なにせそれは、理性が司る主義主張や虚栄の類とは異なる領域から、実にナチュラルに湧き出るものだからだ。
 しかし、ネットで癖のついた雑で粗暴な言葉遣いと、近視で睨みがちな目付きに加えて高身長の威圧感が災いした。ソラシマ三高に入学後、周りからは早々に不良だと決めつけられて、ドーナツ化現象勃発。誰も近寄らなくなり、色の付いたイベントは自ずと現実から遠のいていった。

 実際、見た目はそこそこ悪くはないし、キャラしだいではモテそうなものであるが、完全に性格が足を引っ張って童貞を貫いているタイプの人間。他人が固めた印象を打破する勇気さえもなく、自分を偽ってそれを良しとした時点で、この現実は不滅の必然性を持つに至った。


 チラ見をキメ込み、魁地は思う――もし、たわわなそれを指でぐいと押し込んだなら、どんな挙動を示すのだろう。
 若々しく弾けるような弾力が指を押し返し、押して押されての押し競饅頭。それとも、柔らかなそれが指を包み込み、ソフトに絡みついてくるフカフカのマシュマロテンピュール。

 一人に慣れ過ぎた彼の妄想は、際限を知らない。

 それが健全とは彼自身思ってはいないが、隣で揺れ動く巨乳を前に、思う思わないなど因中有果。最初から決定権は理性の外側にあるのだ。
 だが。
 大丈夫、最終的には今ハマっているギャルゲーのオトハちゃんが俺を癒してくれるさ、などと、余裕かまして自分に言い訳を唱えていられたのも束の間。

 横から聞こえてきた、「何よ? さっきからこっち見て」という突然のセリフに、彼は一瞬で凍り付くことになった。
 ドクンと打ち鳴る心の臓を押さえながら、彼は固着していた横目を素早く逸らす。

 心臓が肋骨よりも外に飛び出すところだった……。ってか、なんでバレたんだ。

 これで何度目か、彼は学ぶと言うことを知らない。胸元チラリの流し目スキルなぞ女にバレバレの初級者最弱チートなんてのは世の常ってもんで。残念ながら愚鈍な彼の中にはそのアルゴリズムがなかった。

「ちょっと、無視してんじゃないわよ。さっきこっち見てたでしょ」

 彼女は眉間にしわを寄せながら、鋭利な目付きで彼を刺す。

 万事休す。ポケットに手を入れたところで、そこには起死回生の言い訳などあるはずもなく。これ以上何を言っても何も生まないし、それはむしろ状態を悪化させるだけの愚行。学習能力がない彼でも、それだけは脳でなく体が覚えていた。

 これ以上はヤバい。馴れ合いの友達ごっこで交友を深めるつもりは毛頭ないが、ここまで拒絶されると逆に目立ってしまいかねない。かくなる上は、あれっきゃない!
 ――と、彼は状況を打破……否、誤魔化すため、例の常套手段に打って出る。

「Zzzz――」

「こら、あんたねぇ。寝たふりすんなってば……ったく、いつもいつも」

 彼はエクトプラズムでも吐き出すように、どう発音したらいいかも分からないZを連ね、ヨダレを垂れ流して寝たふりをした。痛覚に食い込んでくる彼女の鋭い視線に耐えながら、彼は必死に閉じた目を瞑り続ける。

 ――やり切るんだ。中途半端な演技はご法度!
 そして、見事に彼の脳内はθ波で満たされていく。

 Zzzz――。
 そうして嘘を真実に昇華した彼は、机に突っ伏したままオーロラ姫のもとへと逃げ去ることに成功した。


 そんなこんなでいつものように彼女の視線をかわした彼。
 だが、どうやらその時、彼に向けられていた残り二つの視線には気付いていなかったようだ。彼が机に張り付いて眠っている間も、その眼は彼の背中を撫で回していた。

「多綱魁地……ようやく、あなたの本性、見れるんですね」
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