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第二章 始まる逢瀬
2-1.強引過ぎる逢瀬と執着
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(どうしてこうなってしまったのだろう……)
全てを悔やんでも、後の祭りに違いない。
一つの掟破りが、まさかこのような明後日の方向に向かうなんて誰が予想したものだろうか。ネーベルは湖面に映る自分の顔を見て深いため息を吐き出した。
彼の話では、こうだった──
霧の魔女の家を探す最中、森で狼の群れと鉢合わせしたそうである。
初めは牙を出して警戒してきたそうだが……彼曰く、少し威圧しただけで狼は臆してしまい懐いたそうだ。結果、あのように懐かれてしまい、たった一日で群れの長に等しい立場へと成り上がったそうで……。
確かにあの群れはネーベルにも少しは懐いている。しかし上下関係などはなく、まさに隣人。共存者としてだ。前代の霧の魔女に、その前の霧の魔女……と、長い年月をかけて信用を築いてきたからこそ襲われる事が無い。
しかしラルフはそれをたった一日で。まさに破天荒……否や異端者。人狼の肩書きだからこそ成し遂げる事が出来た奇跡だったのだろうかと思えてしまう。
ラルフ本人さえも、あの軽妙な口調で『なんか懐かれちまったよ』としか言っていない。
その真相なんて到底分かる筈も無いが、ラルフが彼らの言葉を理解しているように窺える事から、本当の人狼なのだろう……。と、考える他も出来なかった。
そんな事はさておき。ネーベルが困窮したのは、彼の執着だった。
ラルフは一目惚れと言った。だから、こうもしつこいのは納得する。それでもネーベルからしてみれば、いい迷惑だった。
一日限りでは終わらない関係、去り際に唇を奪った彼が言った言葉……。
あの事は全て忘れようとネーベルも思っているが、如何せん記憶が鮮烈過ぎた。
思い出すだけで顔に煩わしい熱が昇り、行き場の無いムズ痒さが体中に這いつくばる。
──唇は柔らかかった。洗髪料の香りだろうか。ほんのりとサボンの香りと陽だまりの匂いがした。月明かりで照らされた彼の睫は意外と長いもので……。
(私、何て事を思い出してるのよ……)
目を細めたネーベルは、記憶を払うように首を横に振る。しかしどうにもスッキリしない。ネーベルは湖面に手を伸ばして、勢いよく顔を洗い始めた。
これで頭も少しは冷えた筈──と思うが、霞むだけで消えやしなかった。
(もう、どうすればいいのよ)
水濡れた顔のまま。目を細めたままのネーベルは、澱を吐き出すように息をつく。
今現在、あの日から三日が経過する。
翌日も昨日も彼はやって来て……結局、今まで通りの日常には戻れる事は無かった。
あの日一日限りであって、無かった事にして欲しいと、ラルフ当人に伝えたが『勝手に決めるな』『俺の勝手だ』と言う始末。何とも傲慢な男だった。
率直で迷惑で仕方ない。しかしキッパリと『迷惑です』とは言い難い。
狡猾で意地悪だけではなく、傲慢と……まさに最低三拍子が揃ってしまったが、それでも何故か憎めない。あんなに優しかったからだろうか。
────いずれ気が向いた時それで自分を許してやれ。それでいいだろ?
こじつけがましい提案だったが、その言葉でどれだけ救われた事か。そう言って、後ろを向かせないように気遣ってくれた事が本当に嬉しかった。そんな部分を考えると、決して悪い人ではなく、馬鹿が付く程に前向きで明るい人なのだろうと思えてしまう。
拒絶する程に嫌ではなかった。それでも心底迷惑に思う。
街に赴いた際に城を訪ね、彼の兄に告げる事も浮かんだ。だが、厄介事を招きかねないとも理解出来る。だからと言って、また変装する事も気が引ける。白昼堂々人前で顔を晒すのは当然のように抵抗があった。
しかし、この状態が続く事はラルフにとっても良くない事だとはネーベルも充分理解していた。城の使用人達に混乱を招かぬよう──ルーカスの言葉から連想出来るが、不審感や非難を買うに違いないと容易に想像出来たからだ。
──果たして、どうしたら彼が諦めてくれるだろうか。どうしたら、物事が全てが穏便に片付き、今までの日常へと戻れるのだろうか。
ネーベルは再び深い吐息をついて、湖面をのぞき込む。
誰かに愛されるなんて誰が想像したものだろうか。魔女が愛されるなんて話は物語の中でも聞いた事もない。
物語の魔女と現実の魔女は違うとは言え、基本的には忌まれた者に変わりない。善良の白魔女である霧の魔女だって異端として忌まれている。そして物語の魔女といえば、凄惨な終焉を迎える存在には違いないだろう。
……それは狼も同等だ。
詳しく彼を知らないが、異端と称された人狼と呼ばれる時点で、彼も同じ括りだろうと思う。狼が誰かを愛した物語があったとしても、それも悲しい終わりを迎える。
そもそもだ。そんな嫌われた者同士の物語なんて読んだ事も無い。
もしも、自分が王女や貴族の娘で、ラルフが王子や普通の貴族の子息ならば、あれは運命的な出会いになって、幸せな結末だって考える事も出来る。だが、現実はそうではない。
水面に映った自分の顔を呆然と睨みつつネーベルは小さな唇を開く。
「……もう本当にどうすればいいのよ」
滞った澱を一気に吐き出すように独りごちたと同時だった。
「なーにをどうするんだ? 家に居ねぇと思ったら、こんな場所で何を一人でしけた面してんだよ」
背後から響いた声は相変わらずに軽妙なもの。少し癖のある低い声はもうこの数日間で聞き慣れてしまった。
当然それが誰かなんて、ネーベルは振り向かなくたってもう分かっている。
(貴方の所為なんですけど)
ジト……と瞳を細めたネーベルは、心の中でそう呟くだけで返事はしなかった。
「おい、魔女。無視かよ」
無視に苛立ったのだろうか。低く言われてネーベルは心底面倒臭そうに振り返る。そこには案の定、人狼王子……ラルフ・フェルゲンハウアーの姿があった。
それも、数日前にすっかり仲良くなってしまった狼の群れを舎弟のように引き連れて。
「……また来たのですか、ラルフ様」
ネーベルは、彼にウンザリとした口ぶりで言った。
あちらは侯爵家子息。こちらはただの魔女。不敬とはネーベルも理解している。けれど、この程度の態度では彼は全く動じない。それどころか、軽くあしらい、撥ね除けてしまうので全く問題無い。そう、しつこい。それもこの三日間でネーベルが知った事だった。
そんな彼の性格は、少しばかり傲慢な部分があるが、決して高慢では無い。逆を言ってしまえば、高貴な身分の癖に口が悪い事があまりにも目立つ。もはや、どこかのゴロツキか盗賊の一味かと言う程に口が悪いだろう。その上、口を開けば牙の如き鋭い犬歯が見えるもので妙に柄の悪さが際立つ。そんな野性的な獰猛さを含んだ容姿ではあるが、強くしなやかな精悍さを持ち素敵だとはネーベルは思う。
……ただし、口をきかなければの話である。
「本当によく飽きませんね、あれから毎日毎日と……」
濡れたままだった顔をリネンで拭いながら、ネーベルは棘を含ませて言ってみる。
「当たり前だろ。お前に会いたいから逢瀬に来ているんだ」
それが何か悪いか。と自信満々に鼻を鳴らして言われてしまい、ネーベルは早速面倒臭くなった。
……逢瀬。
それは、男女が密やかに愛情を深める事を示す。端から見れば、これは逢瀬かも知れないが、相手の感情が一方的だから違うだろうとネーベルは思う。
確かに彼は、初めて顔を見知られた赤の他人であって、初めて唇を奪われた相手だ。全くもって意識も無いと言えば嘘になる。だが、そこに男女間に生じる砂糖菓子のように甘ったるい感情なんて持ち合わせていない。逢瀬とは違う。そう言いたかったが、言ったところで意味は無いだろうと理解出来る。
きっと『お前がどう思っても俺の勝手だ』と言うだけだろう。何せ彼は都合良すぎて傲慢だ。もう面倒臭い。それが分かりきっているからこそ、ネーベルは視線で「違う」と訴える他無かった。
「そう怖い顔するなよ。美人が台無しだろうが」
そう言って、ラルフは当たり前のようにネーベルの隣に腰掛けた。
別にラルフは嫌いでは無い。だが、自分が愛されるなどおかしな事だと分かている。ネーベルはすぐに彼から距離を取ろうと立ち上がろうとしたが……。
「おい、どうした?」
手を引っ張られて無理矢理地面に座らされた。
──こんなのは狡いだろう。そんな風にネーベルは思う。
身分差や異端同士というのは隅に置いても、男と女だ。全く別の生き物に違わない。力で叶う筈もない。背丈だって頭一つ以上も違うのだ。年の差は二つ三つと大差は無いが、明らかに年上だと分かる大人の男だ。
(狡いわ……)
ネーベルは心の中で呟いて、彼を恨めしく睨む。すると、ラルフは眉を少し下げてやれやれと首を横に振った。
「分かってるよ、もう来るなって言いたいんだろ?」
「ならば、どうしてですか。流石に色々とまずいのは貴方だって分かってる筈ですよね」
意を決してネーベルは言葉を続けた。
──身分だって違う。侯爵が城に戻ってこれがバレてしまえば咎められるに違いない。街の人達に知られてしまえば、顰蹙を買い、領主としての立場が悪くなってしまう事も充分に考えられる。自分だって、不敬罪で囚われる可能性だって無きにしも非ず。ネーベルはやんわりとした〝拒絶〟の言葉を選び、ラルフに伝えた。
しかし彼からの返事は無い。隣に座る狼の背中を撫でて、湖の方をただ呆然と見つめているだけだった。
もうこの三日で分かったが、ラルフは返事が早い。間を挟むという事は、少しは真剣になって考えてくれているのだろうか……と、そんな風にネーベルは思うが──
「ならば、お前はこれからその丁寧で畏まった口調をやめろ。俺に様もするな」
まるで違う生き物のように言うな。と、荒っぽく付け添えて。彼はようやくネーベルに顔を向けた。
全くもって脈絡が無い返事だ。ネーベルの頭に一瞬にして血が上った。
「ラルフ様、私の話を聞いていましたよね……」
この人は、物事対しての危機感というものを持ち合わせていないのだろう。なんて傲慢でいい加減なのだろう。静かに憤激したネーベルは彼から視線を逸らした。
「なぁ。つまり、お前が言いたいのは身分の事だろ? それと立場の問題だろ?」
返答する気にもなれず、ネーベルは返事の代わりに頷いた。
──至って簡単な事だと思うけどな。と、前置きして彼は緩やかに言葉を紡ぎ始めた。
「俺は嫡男じゃ無い。その上、この立場だ。貴族として公に出る事は許されない。つまり縁談なんて無いって事だ。兄貴だって、きっといずれ結婚する。俺があの城で一生暮らせるとは思えない。全て捨てて城を出て行くだけだ。そうなってしまえば、どちらにせよ貴族だ魔女だの関係ない」
ラルフはネーベルにヘラリと笑って続けた。
「それに、俺の名は領地中で知られているが、肖像も無いから顔だけは誰にも知られてない。偽名を名乗れば外で生きていける。ろくに喋った事も無いが、これが俺にしてくれた父さんの優しさだとは思う」
父さん。と、侯爵を示す言葉を出した彼の面持ちは、寂しげにネーベルに映った。
呪術や占術の依頼を数え切れない程にこなしてきたからだろうか。落ち着きを完全に取り戻した状態だからこそ、ネーベルはその感情を見透かす事はあまりにも容易かった。
それは紛れもなく、底知れない侘しさや孤独だろうと……。
本人も言っただろう。母の魂を貪り食い生まれた忌まれた人狼王子と……。それに、彼が夫人の不貞の子とはミステルではあまりに有名過ぎた。
しかし、あまりに繊細過ぎる問題だ。ネーベルは黙って彼の続きの言葉を待った。
「……異端同士でもあるが、魔女のお前とはきっと対等でいられると思った。初めてお前の素顔を見て、お前をもっと知りたくなった。ただ、俺は……お前とは対等な関係を築いていきたいって思った」
──だから、少しくらい俺に心を開いてくれないか。と、言葉を添えて。彼はネーベルの手を絡めて繋ぎ、きつく握りしめる。
多分、肝心な結論を先に言って、理由は後に言うだけなのだろう。否や、理由なんて必要で無ければ言わないだけなのだろう。だから、いい加減だと思った事はネーベルも訂正したいと感じてしまった。
「……それでも私は恋愛を経験した事がありません。本で読んだ程度の知識しか無いです。そもそも人と必要以上に接触をしないですから、心を開く事が良く分からないです」
少しの間を経てネーベルは、本心を告げる。
対等でありたいと言われて、心の底がムズ痒い思う、しかしこれは、ただの照れ臭さや恥ずかしさであり、恋心でも無いと思った。
「でも対等になったら、ラルフ様の望む関係に絶対にならなければいけないようで……」
やや憶しながらも、ネーベルが言う。すると、ラルフは「そうなれたら本望だ」と笑い交じりに言って、鋭い目を細めた。
「恋愛に関しては、俺だって同じだがな。それでも今の関係はもう他人でも無いだろ。ならば聞くぞ。お前は俺の事を呪いたい程に嫌いだとか、今ここから消したいと思うか?」
「え?」
突飛も無い事を言われてネーベルは目をしばたたく。全くもって意図を汲み取れない。
「本音で言ってみろ。別にそれで怒りもしないし傷付きもしねぇ」
「嫌いじゃないですよ? 確かに迷惑とかしつこいとは思いますが」
流石に全てをハッキリと言ってしまうのは気が引けてしまう。それでも、語尾を濁しながらもネーベルは本心を答えた。すると、ラルフはたちまち豪快な笑い声を上げる。
「だろうなぁ~そうだろうとは分かってた。だって、お前本当に何も言わねぇし睨むだけでよ。反応がいちいち可愛いからつい虐めたくなった」
……つまり、しつこくしたのは確信犯だったのだと。
感情を幾らか見透かす事は出来ても、魔女は全知で無い。当然根深い心理と行動までは読み取る事なんて出来る筈も無い。
(やっぱり、意地悪だわ!)
本当に腹立たしい男だ。それなのに何だか滑稽に思えて笑いが込み上げてきた。ネーベルは肩を震わせてククと押し殺した笑いを溢す。
「つまりな。心を開くって、そうやって思った事を言えって事だ。あとな、お前は独り言でも畏まった言葉を言うならば別だが、普段の言葉で話せれば最高だって話だ」
そう言ってラルフは、ネーベルの頭を乱暴に撫でる。
この無骨な手に撫でられたのは、城で阿鼻叫喚した時以来だろう。暖かな擽ったさに、身が竦んでしまうが、それは決して不快ではないと、ネーベルはその時初めて理解した。
「ちょっとっ、やめっ……髪がクシャクシャになっちゃうじゃない!」
ただでさえ、ふわふわとした猫っ毛だから尚更だろう。魔女だから身なりなんてさほど気にしないとは言え、クシャクシャになってしまえば、みっともないとは思えてしまう。
ネーベルはラルフの手から逃れようと身を捩る。すると体勢が崩れ、草の上にごろんと仰向けに倒れてしまった。
「……なんだよお前。普通に喋れるじゃねぇか」
倒れたネーベルの顔の横に手をついて、彼は嬉しそうに見下ろしてきた。
この間とは正反対。これでは、まるで押し倒されたかのようで……羞恥が込み上げて胸がトクリと鳴った。けれど、真っ直ぐ向けられた瞳から視線を逸らす事が出来なかった。
別に不純な事をしている訳でもない。じゃれつくような戯れに過ぎないだろう。
それでも、相手は異性には違いない。それも自分に真摯に向き合い好きだと言って唇を奪った相手だ……当然ネーベルも妙に意識してしまう部分はあった。
「少しずつ慣れていけばいい。まず初めの課題だ。霧の魔女、俺の名前を呼んでみろ」
優しく諭すように彼は言う。見上げた彼の顔は目付きは鋭いのに、こんなにも優しい笑みをする事が出来るのだとネーベルはその時初めて知った。
「……ラルフ」
ネーベルはポツリと彼の名を呟く。すると、顔を綻ばせた彼は「よく言えた」と、ネーベルの額にそっと唇を寄せた。
全てを悔やんでも、後の祭りに違いない。
一つの掟破りが、まさかこのような明後日の方向に向かうなんて誰が予想したものだろうか。ネーベルは湖面に映る自分の顔を見て深いため息を吐き出した。
彼の話では、こうだった──
霧の魔女の家を探す最中、森で狼の群れと鉢合わせしたそうである。
初めは牙を出して警戒してきたそうだが……彼曰く、少し威圧しただけで狼は臆してしまい懐いたそうだ。結果、あのように懐かれてしまい、たった一日で群れの長に等しい立場へと成り上がったそうで……。
確かにあの群れはネーベルにも少しは懐いている。しかし上下関係などはなく、まさに隣人。共存者としてだ。前代の霧の魔女に、その前の霧の魔女……と、長い年月をかけて信用を築いてきたからこそ襲われる事が無い。
しかしラルフはそれをたった一日で。まさに破天荒……否や異端者。人狼の肩書きだからこそ成し遂げる事が出来た奇跡だったのだろうかと思えてしまう。
ラルフ本人さえも、あの軽妙な口調で『なんか懐かれちまったよ』としか言っていない。
その真相なんて到底分かる筈も無いが、ラルフが彼らの言葉を理解しているように窺える事から、本当の人狼なのだろう……。と、考える他も出来なかった。
そんな事はさておき。ネーベルが困窮したのは、彼の執着だった。
ラルフは一目惚れと言った。だから、こうもしつこいのは納得する。それでもネーベルからしてみれば、いい迷惑だった。
一日限りでは終わらない関係、去り際に唇を奪った彼が言った言葉……。
あの事は全て忘れようとネーベルも思っているが、如何せん記憶が鮮烈過ぎた。
思い出すだけで顔に煩わしい熱が昇り、行き場の無いムズ痒さが体中に這いつくばる。
──唇は柔らかかった。洗髪料の香りだろうか。ほんのりとサボンの香りと陽だまりの匂いがした。月明かりで照らされた彼の睫は意外と長いもので……。
(私、何て事を思い出してるのよ……)
目を細めたネーベルは、記憶を払うように首を横に振る。しかしどうにもスッキリしない。ネーベルは湖面に手を伸ばして、勢いよく顔を洗い始めた。
これで頭も少しは冷えた筈──と思うが、霞むだけで消えやしなかった。
(もう、どうすればいいのよ)
水濡れた顔のまま。目を細めたままのネーベルは、澱を吐き出すように息をつく。
今現在、あの日から三日が経過する。
翌日も昨日も彼はやって来て……結局、今まで通りの日常には戻れる事は無かった。
あの日一日限りであって、無かった事にして欲しいと、ラルフ当人に伝えたが『勝手に決めるな』『俺の勝手だ』と言う始末。何とも傲慢な男だった。
率直で迷惑で仕方ない。しかしキッパリと『迷惑です』とは言い難い。
狡猾で意地悪だけではなく、傲慢と……まさに最低三拍子が揃ってしまったが、それでも何故か憎めない。あんなに優しかったからだろうか。
────いずれ気が向いた時それで自分を許してやれ。それでいいだろ?
こじつけがましい提案だったが、その言葉でどれだけ救われた事か。そう言って、後ろを向かせないように気遣ってくれた事が本当に嬉しかった。そんな部分を考えると、決して悪い人ではなく、馬鹿が付く程に前向きで明るい人なのだろうと思えてしまう。
拒絶する程に嫌ではなかった。それでも心底迷惑に思う。
街に赴いた際に城を訪ね、彼の兄に告げる事も浮かんだ。だが、厄介事を招きかねないとも理解出来る。だからと言って、また変装する事も気が引ける。白昼堂々人前で顔を晒すのは当然のように抵抗があった。
しかし、この状態が続く事はラルフにとっても良くない事だとはネーベルも充分理解していた。城の使用人達に混乱を招かぬよう──ルーカスの言葉から連想出来るが、不審感や非難を買うに違いないと容易に想像出来たからだ。
──果たして、どうしたら彼が諦めてくれるだろうか。どうしたら、物事が全てが穏便に片付き、今までの日常へと戻れるのだろうか。
ネーベルは再び深い吐息をついて、湖面をのぞき込む。
誰かに愛されるなんて誰が想像したものだろうか。魔女が愛されるなんて話は物語の中でも聞いた事もない。
物語の魔女と現実の魔女は違うとは言え、基本的には忌まれた者に変わりない。善良の白魔女である霧の魔女だって異端として忌まれている。そして物語の魔女といえば、凄惨な終焉を迎える存在には違いないだろう。
……それは狼も同等だ。
詳しく彼を知らないが、異端と称された人狼と呼ばれる時点で、彼も同じ括りだろうと思う。狼が誰かを愛した物語があったとしても、それも悲しい終わりを迎える。
そもそもだ。そんな嫌われた者同士の物語なんて読んだ事も無い。
もしも、自分が王女や貴族の娘で、ラルフが王子や普通の貴族の子息ならば、あれは運命的な出会いになって、幸せな結末だって考える事も出来る。だが、現実はそうではない。
水面に映った自分の顔を呆然と睨みつつネーベルは小さな唇を開く。
「……もう本当にどうすればいいのよ」
滞った澱を一気に吐き出すように独りごちたと同時だった。
「なーにをどうするんだ? 家に居ねぇと思ったら、こんな場所で何を一人でしけた面してんだよ」
背後から響いた声は相変わらずに軽妙なもの。少し癖のある低い声はもうこの数日間で聞き慣れてしまった。
当然それが誰かなんて、ネーベルは振り向かなくたってもう分かっている。
(貴方の所為なんですけど)
ジト……と瞳を細めたネーベルは、心の中でそう呟くだけで返事はしなかった。
「おい、魔女。無視かよ」
無視に苛立ったのだろうか。低く言われてネーベルは心底面倒臭そうに振り返る。そこには案の定、人狼王子……ラルフ・フェルゲンハウアーの姿があった。
それも、数日前にすっかり仲良くなってしまった狼の群れを舎弟のように引き連れて。
「……また来たのですか、ラルフ様」
ネーベルは、彼にウンザリとした口ぶりで言った。
あちらは侯爵家子息。こちらはただの魔女。不敬とはネーベルも理解している。けれど、この程度の態度では彼は全く動じない。それどころか、軽くあしらい、撥ね除けてしまうので全く問題無い。そう、しつこい。それもこの三日間でネーベルが知った事だった。
そんな彼の性格は、少しばかり傲慢な部分があるが、決して高慢では無い。逆を言ってしまえば、高貴な身分の癖に口が悪い事があまりにも目立つ。もはや、どこかのゴロツキか盗賊の一味かと言う程に口が悪いだろう。その上、口を開けば牙の如き鋭い犬歯が見えるもので妙に柄の悪さが際立つ。そんな野性的な獰猛さを含んだ容姿ではあるが、強くしなやかな精悍さを持ち素敵だとはネーベルは思う。
……ただし、口をきかなければの話である。
「本当によく飽きませんね、あれから毎日毎日と……」
濡れたままだった顔をリネンで拭いながら、ネーベルは棘を含ませて言ってみる。
「当たり前だろ。お前に会いたいから逢瀬に来ているんだ」
それが何か悪いか。と自信満々に鼻を鳴らして言われてしまい、ネーベルは早速面倒臭くなった。
……逢瀬。
それは、男女が密やかに愛情を深める事を示す。端から見れば、これは逢瀬かも知れないが、相手の感情が一方的だから違うだろうとネーベルは思う。
確かに彼は、初めて顔を見知られた赤の他人であって、初めて唇を奪われた相手だ。全くもって意識も無いと言えば嘘になる。だが、そこに男女間に生じる砂糖菓子のように甘ったるい感情なんて持ち合わせていない。逢瀬とは違う。そう言いたかったが、言ったところで意味は無いだろうと理解出来る。
きっと『お前がどう思っても俺の勝手だ』と言うだけだろう。何せ彼は都合良すぎて傲慢だ。もう面倒臭い。それが分かりきっているからこそ、ネーベルは視線で「違う」と訴える他無かった。
「そう怖い顔するなよ。美人が台無しだろうが」
そう言って、ラルフは当たり前のようにネーベルの隣に腰掛けた。
別にラルフは嫌いでは無い。だが、自分が愛されるなどおかしな事だと分かている。ネーベルはすぐに彼から距離を取ろうと立ち上がろうとしたが……。
「おい、どうした?」
手を引っ張られて無理矢理地面に座らされた。
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意を決してネーベルは言葉を続けた。
──身分だって違う。侯爵が城に戻ってこれがバレてしまえば咎められるに違いない。街の人達に知られてしまえば、顰蹙を買い、領主としての立場が悪くなってしまう事も充分に考えられる。自分だって、不敬罪で囚われる可能性だって無きにしも非ず。ネーベルはやんわりとした〝拒絶〟の言葉を選び、ラルフに伝えた。
しかし彼からの返事は無い。隣に座る狼の背中を撫でて、湖の方をただ呆然と見つめているだけだった。
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「ならば、お前はこれからその丁寧で畏まった口調をやめろ。俺に様もするな」
まるで違う生き物のように言うな。と、荒っぽく付け添えて。彼はようやくネーベルに顔を向けた。
全くもって脈絡が無い返事だ。ネーベルの頭に一瞬にして血が上った。
「ラルフ様、私の話を聞いていましたよね……」
この人は、物事対しての危機感というものを持ち合わせていないのだろう。なんて傲慢でいい加減なのだろう。静かに憤激したネーベルは彼から視線を逸らした。
「なぁ。つまり、お前が言いたいのは身分の事だろ? それと立場の問題だろ?」
返答する気にもなれず、ネーベルは返事の代わりに頷いた。
──至って簡単な事だと思うけどな。と、前置きして彼は緩やかに言葉を紡ぎ始めた。
「俺は嫡男じゃ無い。その上、この立場だ。貴族として公に出る事は許されない。つまり縁談なんて無いって事だ。兄貴だって、きっといずれ結婚する。俺があの城で一生暮らせるとは思えない。全て捨てて城を出て行くだけだ。そうなってしまえば、どちらにせよ貴族だ魔女だの関係ない」
ラルフはネーベルにヘラリと笑って続けた。
「それに、俺の名は領地中で知られているが、肖像も無いから顔だけは誰にも知られてない。偽名を名乗れば外で生きていける。ろくに喋った事も無いが、これが俺にしてくれた父さんの優しさだとは思う」
父さん。と、侯爵を示す言葉を出した彼の面持ちは、寂しげにネーベルに映った。
呪術や占術の依頼を数え切れない程にこなしてきたからだろうか。落ち着きを完全に取り戻した状態だからこそ、ネーベルはその感情を見透かす事はあまりにも容易かった。
それは紛れもなく、底知れない侘しさや孤独だろうと……。
本人も言っただろう。母の魂を貪り食い生まれた忌まれた人狼王子と……。それに、彼が夫人の不貞の子とはミステルではあまりに有名過ぎた。
しかし、あまりに繊細過ぎる問題だ。ネーベルは黙って彼の続きの言葉を待った。
「……異端同士でもあるが、魔女のお前とはきっと対等でいられると思った。初めてお前の素顔を見て、お前をもっと知りたくなった。ただ、俺は……お前とは対等な関係を築いていきたいって思った」
──だから、少しくらい俺に心を開いてくれないか。と、言葉を添えて。彼はネーベルの手を絡めて繋ぎ、きつく握りしめる。
多分、肝心な結論を先に言って、理由は後に言うだけなのだろう。否や、理由なんて必要で無ければ言わないだけなのだろう。だから、いい加減だと思った事はネーベルも訂正したいと感じてしまった。
「……それでも私は恋愛を経験した事がありません。本で読んだ程度の知識しか無いです。そもそも人と必要以上に接触をしないですから、心を開く事が良く分からないです」
少しの間を経てネーベルは、本心を告げる。
対等でありたいと言われて、心の底がムズ痒い思う、しかしこれは、ただの照れ臭さや恥ずかしさであり、恋心でも無いと思った。
「でも対等になったら、ラルフ様の望む関係に絶対にならなければいけないようで……」
やや憶しながらも、ネーベルが言う。すると、ラルフは「そうなれたら本望だ」と笑い交じりに言って、鋭い目を細めた。
「恋愛に関しては、俺だって同じだがな。それでも今の関係はもう他人でも無いだろ。ならば聞くぞ。お前は俺の事を呪いたい程に嫌いだとか、今ここから消したいと思うか?」
「え?」
突飛も無い事を言われてネーベルは目をしばたたく。全くもって意図を汲み取れない。
「本音で言ってみろ。別にそれで怒りもしないし傷付きもしねぇ」
「嫌いじゃないですよ? 確かに迷惑とかしつこいとは思いますが」
流石に全てをハッキリと言ってしまうのは気が引けてしまう。それでも、語尾を濁しながらもネーベルは本心を答えた。すると、ラルフはたちまち豪快な笑い声を上げる。
「だろうなぁ~そうだろうとは分かってた。だって、お前本当に何も言わねぇし睨むだけでよ。反応がいちいち可愛いからつい虐めたくなった」
……つまり、しつこくしたのは確信犯だったのだと。
感情を幾らか見透かす事は出来ても、魔女は全知で無い。当然根深い心理と行動までは読み取る事なんて出来る筈も無い。
(やっぱり、意地悪だわ!)
本当に腹立たしい男だ。それなのに何だか滑稽に思えて笑いが込み上げてきた。ネーベルは肩を震わせてククと押し殺した笑いを溢す。
「つまりな。心を開くって、そうやって思った事を言えって事だ。あとな、お前は独り言でも畏まった言葉を言うならば別だが、普段の言葉で話せれば最高だって話だ」
そう言ってラルフは、ネーベルの頭を乱暴に撫でる。
この無骨な手に撫でられたのは、城で阿鼻叫喚した時以来だろう。暖かな擽ったさに、身が竦んでしまうが、それは決して不快ではないと、ネーベルはその時初めて理解した。
「ちょっとっ、やめっ……髪がクシャクシャになっちゃうじゃない!」
ただでさえ、ふわふわとした猫っ毛だから尚更だろう。魔女だから身なりなんてさほど気にしないとは言え、クシャクシャになってしまえば、みっともないとは思えてしまう。
ネーベルはラルフの手から逃れようと身を捩る。すると体勢が崩れ、草の上にごろんと仰向けに倒れてしまった。
「……なんだよお前。普通に喋れるじゃねぇか」
倒れたネーベルの顔の横に手をついて、彼は嬉しそうに見下ろしてきた。
この間とは正反対。これでは、まるで押し倒されたかのようで……羞恥が込み上げて胸がトクリと鳴った。けれど、真っ直ぐ向けられた瞳から視線を逸らす事が出来なかった。
別に不純な事をしている訳でもない。じゃれつくような戯れに過ぎないだろう。
それでも、相手は異性には違いない。それも自分に真摯に向き合い好きだと言って唇を奪った相手だ……当然ネーベルも妙に意識してしまう部分はあった。
「少しずつ慣れていけばいい。まず初めの課題だ。霧の魔女、俺の名前を呼んでみろ」
優しく諭すように彼は言う。見上げた彼の顔は目付きは鋭いのに、こんなにも優しい笑みをする事が出来るのだとネーベルはその時初めて知った。
「……ラルフ」
ネーベルはポツリと彼の名を呟く。すると、顔を綻ばせた彼は「よく言えた」と、ネーベルの額にそっと唇を寄せた。
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普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
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他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
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