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Chapter7.迷える機甲と赦しの花
7-4.霊峰の天使
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光が晴れた先は一面に白い花の咲き乱れる場所だった。
視界を下界に移せば、ザフィーア修道院と湖が見えた。
こんな景色は既視感がある。そんな風にアルマが思ったと同時だった。
「……よかった」
聞き馴染みも無い、少し掠れた少女の声が響く。ふと、その声を探ると、目の前に輝かしい光の球が現れ、やがて人の形を形成した。
そこに現れたのは──二十歳の自分よりも僅かに年下といった見てくれの少女だった。
瞳の色は自分とどこか似た空色。癖も無い髪は蜂蜜のような金色で、彼女はエーデルヴァイスの正装にどこか似た純白のワンピースを纏っていた。
そんな彼女はアルマに近付くと、三つ編みを摘まんで悪戯気に笑む。
「……よく頑張ったわね私のお花。しかし貴女、私に似た道を辿るなんて、どんな運命をしてるのかしら?」
不思議ね。なんて彼女は笑んで目を細める。
礼拝堂の玻璃の絵とは違うが、間違いない。きっと彼女が霊峰で花となった天使だ。
恐らく、今まで彼女がテオファネスに干渉していたのだとアルマは直ぐに見当が付いた。
……幾ら赦しの力といえ、侵食を和らげ寿命を長引かせた事も不自然と思った。
その上、あの死線を彼が生き残った事もそうだ。何もかも全て奇跡に等しいとしか言えやしないのだから。
「どうして……貴女は私達を天使として選ぶの、私を天使にしたの、彼を……」
どうして生かしたのか。と、アルマが戦きつつ尋ねると、彼女は頤に手を当てて考えるそぶりをする。
「貴女とあの人に関しては、自分と彼を見てるようで、力になりたくなっただけよ」
感慨深そうに彼女は言う。ふと、結び付くのは彼女が恋した男の話だ。
これが正しければ……彼女は恋した男を不死の病の苦しみから救い出した。確かに機甲化したテオファネスも死を辿る侵食なので似た状況に違いない。
「天使として選ぶのは私の意思じゃないけど……とても簡単な話。少女から女になる娘はとてつもなく純粋な想いの力を秘めているから。それが一際強く、この山を臨む場所で魂の輝きが強い子達が私の代わりとして選ばれてるの。自分が天界の掟を破った事が原因して人間の女の子に不思議な力を持たせるのは悪いとは思ってるわよ?」
少し申し訳無さそうな半面、ふて腐れるように言うので、アルマは否定の意を込めて首を振った。
「別にそこは困ってないよ。どうして自分かと散々思ったけど、それを人の為に使える事は誇らしい事だって思えたもの」
確かにこれが理由となり、仲間を人質に取られ、窮地に追いやられた事もあった。それを除けば悪い事なんて何一つ無かったに違いない。
「私達に伝わる貴女の話が本当ならば、その不幸の上で誇らしいなんて言うのはおかしな話かも知れないけど……それでも私は霊峰の加護を授かったから大事な同僚に出会えて、大好きな人が出来て……」
なんと形容して良いか分からない。言い淀んで三つ編みを弄ると、彼女は「それなら良かった」とはにかむように笑む。
「私は別に不幸じゃ無いわ。ただ、天使と人間じゃ寿命は違うからね。私ね、愛した人が老衰するまで連れ添ってたわよ。最後の時にありがとう愛してるって言ってくれたもの。今だってその魂は私に連れ添っている。子供達だって居るし、私は一人じゃないもの」
伝わる話とは全く違っていた。
……そう、彼女は老衰した彼の魂を運び自らの思念で霊峰に咲く花に姿を変えたのだ。それを知り、アルマは驚くものの、どこか安堵してしまう。
「そうそう貴女のような〝火曜の天使〟は私に性質が最も近いのでしょうね……。なんだか、自分に似た匂いを強く感じるから」
そう言って、彼女はアルマを見つめて、またも悪戯気に笑む。
「でも貴女と、あともう一人の女の子はじきに力が失うわね。でもそれが花の終わりじゃない。実を結び次に残すの、そして新しい時代が始まる。必ず必ず幸せになりなさい」
そう告げて彼女はアルマにニコリと笑む。するとスッと彼女の姿が消え失せ、視点が変わり、アルマは霊峰を見つめていた。
光が晴れた先は一面に白い花の咲き乱れる場所だった。
視界を下界に移せば、ザフィーア修道院と湖が見えた。
こんな景色は既視感がある。そんな風にアルマが思ったと同時だった。
「……よかった」
聞き馴染みも無い、少し掠れた少女の声が響く。ふと、その声を探ると、目の前に輝かしい光の球が現れ、やがて人の形を形成した。
そこに現れたのは──二十歳の自分よりも僅かに年下といった見てくれの少女だった。
瞳の色は自分とどこか似た空色。癖も無い髪は蜂蜜のような金色で、彼女はエーデルヴァイスの正装にどこか似た純白のワンピースを纏っていた。
そんな彼女はアルマに近付くと、三つ編みを摘まんで悪戯気に笑む。
「……よく頑張ったわね私のお花。しかし貴女、私に似た道を辿るなんて、どんな運命をしてるのかしら?」
不思議ね。なんて彼女は笑んで目を細める。
礼拝堂の玻璃の絵とは違うが、間違いない。きっと彼女が霊峰で花となった天使だ。
恐らく、今まで彼女がテオファネスに干渉していたのだとアルマは直ぐに見当が付いた。
……幾ら赦しの力といえ、侵食を和らげ寿命を長引かせた事も不自然と思った。
その上、あの死線を彼が生き残った事もそうだ。何もかも全て奇跡に等しいとしか言えやしないのだから。
「どうして……貴女は私達を天使として選ぶの、私を天使にしたの、彼を……」
どうして生かしたのか。と、アルマが戦きつつ尋ねると、彼女は頤に手を当てて考えるそぶりをする。
「貴女とあの人に関しては、自分と彼を見てるようで、力になりたくなっただけよ」
感慨深そうに彼女は言う。ふと、結び付くのは彼女が恋した男の話だ。
これが正しければ……彼女は恋した男を不死の病の苦しみから救い出した。確かに機甲化したテオファネスも死を辿る侵食なので似た状況に違いない。
「天使として選ぶのは私の意思じゃないけど……とても簡単な話。少女から女になる娘はとてつもなく純粋な想いの力を秘めているから。それが一際強く、この山を臨む場所で魂の輝きが強い子達が私の代わりとして選ばれてるの。自分が天界の掟を破った事が原因して人間の女の子に不思議な力を持たせるのは悪いとは思ってるわよ?」
少し申し訳無さそうな半面、ふて腐れるように言うので、アルマは否定の意を込めて首を振った。
「別にそこは困ってないよ。どうして自分かと散々思ったけど、それを人の為に使える事は誇らしい事だって思えたもの」
確かにこれが理由となり、仲間を人質に取られ、窮地に追いやられた事もあった。それを除けば悪い事なんて何一つ無かったに違いない。
「私達に伝わる貴女の話が本当ならば、その不幸の上で誇らしいなんて言うのはおかしな話かも知れないけど……それでも私は霊峰の加護を授かったから大事な同僚に出会えて、大好きな人が出来て……」
なんと形容して良いか分からない。言い淀んで三つ編みを弄ると、彼女は「それなら良かった」とはにかむように笑む。
「私は別に不幸じゃ無いわ。ただ、天使と人間じゃ寿命は違うからね。私ね、愛した人が老衰するまで連れ添ってたわよ。最後の時にありがとう愛してるって言ってくれたもの。今だってその魂は私に連れ添っている。子供達だって居るし、私は一人じゃないもの」
伝わる話とは全く違っていた。
……そう、彼女は老衰した彼の魂を運び自らの思念で霊峰に咲く花に姿を変えたのだ。それを知り、アルマは驚くものの、どこか安堵してしまう。
「そうそう貴女のような〝火曜の天使〟は私に性質が最も近いのでしょうね……。なんだか、自分に似た匂いを強く感じるから」
そう言って、彼女はアルマを見つめて、またも悪戯気に笑む。
「でも貴女と、あともう一人の女の子はじきに力が失うわね。でもそれが花の終わりじゃない。実を結び次に残すの、そして新しい時代が始まる。必ず必ず幸せになりなさい」
そう告げて彼女はアルマにニコリと笑む。するとスッと彼女の姿が消え失せ、視点が変わり、アルマは霊峰を見つめていた。
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