迷える機甲と赦しの花

日蔭 スミレ

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Chapter3.謝罪の言葉

3-2.思いのままの懺悔を

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「で、謝りたい事ときたい事って……」

 いつものようにソファに二人で座して直ぐ、テオファネスは直ぐにアルマに切り出した。「その……初日に私が貴方に言った暴言を」

 おどおどとアルマが告げると、彼は疑問符を浮かべたような顔をした。
 しかし、何か思い出したようで、彼は軽く笑むと──「最低、この人でなしって?」と、あっさりとした調子で唱えた。それを聞き、アルマは今にも泣きそうな顔になってしまう。こんな顔は見せたくも無い。そもそも泣くなんてお門違いもはなはだしい。傷付いたのは彼の方に違いないのだから。

「いくら腹が立ったとはいえ、酷い事を言ったってずっと思ってた。謝りたかったけど、どう切り出したら良いかずっと分からなかったの……」

 ごめんなさい。と、俯き素直に告げると、テオファネスはクスクスと笑み、アルマに顔を上げるように言う。

「いや。あれは……そもそも俺が悪いから。アルマが怒って普通だろ?」

「とは言っても、言って良い事と悪い事くらいあるでしょ……」

「それを言ったら同じ。俺はそこ、気にしてないから」

 で、きたい事の方は? 促されて、アルマは戸惑いつつ彼を見上げた。

「……テオを部屋に閉じ込めてる事だよ。本当は外に出たいと思わないの? 私、自分の都合しか話さなさかったのに、テオは何から何まで受け入れた。終戦まで隠しておいてほしいとの依頼だけど、部屋から出すなと言われてない。修道院は敷地も広いし……一般開放される日曜以外は近辺に人通りも無いの。だから、人の目につかない配慮なんていくらだって出来る筈。私の提案って最低だなって思ったの」

 人権を踏みにじっている。そう付け添えると、彼は複雑な面持ちでアルマをジッと射貫いた。

「いや……それも別に。アルマはもう俺を見慣れただろうけど、事実、俺の姿を見たら誰だってギョッとすると思う。子供だったら泣かれたっておかしくない。それに俺だって好奇の目に晒されるのは気分良くないから、それは別に構わないんだが」

 こんな返答を言わせる自分が嫌だった。どうして自分はもっと上手な言葉選びが出来ないのか。そう思うとアルマは直ぐに酷い自己嫌悪にさいなまれる。

「ごめんなさい。そう言わせたい訳じゃなくて……」

「だからいいよ。そこはアルマが謝る必要無いと思うが……」

 本当に気にしていないのか、あっさりと告げる彼の表情は変わらなかった。

「でも、私の言った制限って、テオを人と見なしていないみたいで何だか凄く……」

 最低だと思った。と、言い切る前に頭頂部に暖かい感触を覚えた。
 ぽふぽふと髪を撫でられている。それが分かると妙に照れ臭い。アルマが目を丸くすると、彼は口角を緩めて軽く笑む。

「俺は自分の意思でアルマに従ってるだけだよ。だけど、アルマって本当に優しい子だな。そう言ってくれるだけで嬉しくなる」

 そう言って、彼は更にアルマの後ろ髪をぽんぽんと撫でた。

「そ、そんな事は無いでしょ、ちょ……ちょっと子供みたいに頭ぽんぽんってしないで! と、いうか……貴方、マッサージで赤面してたのに自分から触るのは平気なわけ?」

 妙に胸の奥がくすぐったい。恥ずかしさのあまり早口で言えば、彼は直ぐに手を引っ込める。

「そう悲しそうな顔をされると妙に幼く見えた所為かな。妹見てるみたいな気分になって……兄貴としての本能が働いたというか……」

 自分とそう歳も変わらぬ妹が居たとは聞いていたので、これには納得した。しかし、何だかこれはこれで恥ずかしい。アルマは目を細めて息を抜く。

「それでも事実テオは人と何も変わらないでしょ。だから本当に申し訳無かったなって思うわけ。だから謝りたかった……」

「だから、謝る必要無いから。これ以上は水掛け論になりそうだし、もう止めにしよう?」

 だからアルマは謝るの止めて。と彼は笑んだ後、仕切り直すように話を切り出した。

「そりゃ外に出たいといえば出たいとは思うけどな」

 それを聞いて、やはりかと思った。直ぐで謝罪を入れそうになるが、次に彼が言葉を出した方が早かった。

「……俺さ、絵を描くの好きなんだ」

 物凄い意外だと思った。アルマが目を丸くすると「そんなに意外か……」と彼は照れ臭そうに頬を掻き、話を続けた。

「ここに来る時しか外は出てないしな。日中に窓の外を眺めてて、自分の足で歩いて風景を見たいと思ったし、こんな素晴らしい自然だ。外で絵が描けたら……とかはまぁ、少しは想像した。それに空気が澄んでいる所為か、夜は月や星が綺麗だって夜中に起きた時に外を眺めて感動した。でも、俺は匿って貰ってるんだ。そこまで望んじゃいけないの分かってるよ」

 だから、時折……週に一度でも調整して外に出してくれたら嬉しいと思う。……と、告げた時には、本能的に彼の腕に抱きついていた。

「行こう、外……!」

「え?」

 テオファネスは目を丸くして、素っ頓きょうな声を上げる。
 いきなり腕に抱きつかれ、突飛も無い事を言われて無理も無いだろうが、アルマはそれでも必死だった。

「……勿論その話は、院長先生やエーデルヴァイスの皆に言う。きっと可決されるし、させてみせる。それに今は皆寝静まってる時間帯。外に出ようがバレやしない。そもそも、私が消灯後に宿舎から抜け出して来た事自体だいぶマズイ事だよ。それも夜着だし。自慢じゃ無いけど私は誰より説教慣れしてるから、今更もう何も怖くもないよ。星でも月でも見せてあげる!」

 ──外に出よう? と、念を押すように告げて数拍後。彼は額に手を当てて、やれやれと首を横に振るう。

「……アルマって大胆な程行動的で、後先をあまり考えないんだな」

 それはもう、物凄く呆れた調子で言われたのでアルマは頬を膨らませる。こちとら、目一杯気遣って提案した事だと言うのに。しかし、テオファネスの笑み方はやはりどこか優しかった。

「思えば、初日に寝坊して前見ないで俺にぶつかって来るし。ぐしゃぐしゃの三つ編みの件だとかさ。でもそういうおてんばな部分、俺は結構好きかも……」 

 ──喜んで、共犯者になるよ。そう言うなり、彼はスッと立ち上がり、絡みついたアルマの手をやんわりと離して、そっと手を握りしめる。

「じゃあ俺の天使様──迷える機甲マキナを外へと導いてくれ」

 祈るようなそぶりをして、彼は軽く笑むが直ぐに顔をらす。
 きっと照れているだろうと直ぐに分かった。何せ、彼の声が震えていたのだから。しかし〝俺の天使様〟と──その言葉にアルマも妙に気恥ずかしくなる。

「……分かった、任せなさい」

 アルマは羞恥で震えた声で答えるなり、彼の手を強く握り返した。
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