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Chapter2.人より人らしく
2-4.遅い昼食にて気まずい再会
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散歩から帰れば直ぐに昼食の時間だった。こうも快晴な日は、昼食後午後一番に洗濯物を取り込んで、子供達の昼寝の寝かしつけを行うが、アルマは子供達が去ったのを見計らって直ぐに一人分の昼食を用意していた。
──朝食はここに来る車の中で取ったから必要無いだろうが、昼食から与えてやって欲しい。去り際にあの女性軍人カサンドラから言われたからである。
何やら、彼はあんな身体でも普通に食事をするそうだ。半分が機械で半分が人間。とはいえ、ほぼ人間寄りとは聞いているので、それは頷けるが……果たしてこの量で足りるだろうかとトレーの乗せた食事量を見てアルマは思う。
穀物をたっぷり練り込んだパンに馬鈴薯。雑多な野菜を切り込んで煮込んだミルクスープ。それからアルマの実家から送られた羊乳のチーズに、散歩の最中に取ったベリーが幾らか。
成人男性の食事にしては侘しい量な気がしてならない。最も身近だった成人男性……父親が本当によく食べたので、少しばかり不安に思ってしまった。しかし、それ以上の不安は彼と顔を合わせる事だ。
カサンドラが冷ややかに叱責した今朝の悶着以来彼と会っていない。まず、どんな態度で接すれば良いか分からなかった。物音一つもしないので、大人しく部屋で過ごしていると思しいが如何なものか……。アルマは、トレーを持ってスタスタと階段を上っていった。
そうして三階まで辿り着き、彼に当てた部屋を叩扉して間もなく──恐る恐る、ゆっくりといった調子でドアが開く。
「……あ」
戸惑った調子の彼は、心底緊張した面でアルマを見下ろしていた。
着替えたのだろう。彼はくすんだ青色の患者衣を纏っていた。他に服なんて無いのだろうと想像は容易いが……これではいよいよ療養所の患者のようである。
「えっと、あの……」
視線も合わせず、吃った調子で彼は切り出した。もはや自分の緊張が軽く思えてしまう程。その様にかえって心が凪いでしまった。
「昼食を持って来ました。中に入れて下さい」
精一杯な丁寧語で毅然と言って間もなく。彼はドアを引いてアルマを室内へと招き入れた。
彼は終始、形の良い薄い唇をモゴモゴと動かしていた。
恐らく何か言いたいのだろうと察するが、面倒に思えてアルマはあえて訊かなかった。だが数拍後「ありがとう」と礼を言われて、とりあえずアルマが頷きつつ「あの……」と言葉を出すと、同じ言葉が重なり合った。
しかし彼は、手をそっとアルマに指し示し、先に言えと促す。
「昼食遅くなってすみません。成人男性って結構な量を食べるのは知ってますけど、これで足りますか?」
「全然大丈夫……」
返事は即答だが、余程緊張しているのだろう。テオファネスの声は酷く震えていた。寧ろどこか怯えているようにさえ思えてしまう程。
────普通だったら逆でしょう。
あれが機甲の特性とはいえ、あんな脅しをされたのだ。それに凶暴な影に手を伸ばされたりもして……。無論、影の件は自分で分かってもいないだろうが。
怒らぬよう怯えぬよう、何食わぬ所作でテーブルの上にトレーを置くと、彼はソファに座して何か言いたげにアルマを見上げた。
「……で、何か?」
あえて訊いてやれば「朝の事、どうしても謝りたかった」と一言詫びた後、彼は続け様に口を開く。
「……俺の事少しは聞いてるかもだけど、厳令背いて、ここに隠れてろって無理じゃないのかって思って。そりゃ死にたくないし、自分がどうなるかとか不安を覚えたのは事実で。アルマさんの気分を酷く害した。俺、自分の言った言葉は頭に残って覚えてる。人の男なら絶対にありえないような事を言った。許して貰おうと思わない」
でも謝りたいんだ。と、テオファネスは真っ直ぐに視線を向けて言うが、アルマは首を横に振るう。
「それより、スープが冷めますよ」
話があるなら食後に聞く。と、極めて静かに告げると、彼は無言で祈りを捧げた後、食事を取り始めた。
──朝食はここに来る車の中で取ったから必要無いだろうが、昼食から与えてやって欲しい。去り際にあの女性軍人カサンドラから言われたからである。
何やら、彼はあんな身体でも普通に食事をするそうだ。半分が機械で半分が人間。とはいえ、ほぼ人間寄りとは聞いているので、それは頷けるが……果たしてこの量で足りるだろうかとトレーの乗せた食事量を見てアルマは思う。
穀物をたっぷり練り込んだパンに馬鈴薯。雑多な野菜を切り込んで煮込んだミルクスープ。それからアルマの実家から送られた羊乳のチーズに、散歩の最中に取ったベリーが幾らか。
成人男性の食事にしては侘しい量な気がしてならない。最も身近だった成人男性……父親が本当によく食べたので、少しばかり不安に思ってしまった。しかし、それ以上の不安は彼と顔を合わせる事だ。
カサンドラが冷ややかに叱責した今朝の悶着以来彼と会っていない。まず、どんな態度で接すれば良いか分からなかった。物音一つもしないので、大人しく部屋で過ごしていると思しいが如何なものか……。アルマは、トレーを持ってスタスタと階段を上っていった。
そうして三階まで辿り着き、彼に当てた部屋を叩扉して間もなく──恐る恐る、ゆっくりといった調子でドアが開く。
「……あ」
戸惑った調子の彼は、心底緊張した面でアルマを見下ろしていた。
着替えたのだろう。彼はくすんだ青色の患者衣を纏っていた。他に服なんて無いのだろうと想像は容易いが……これではいよいよ療養所の患者のようである。
「えっと、あの……」
視線も合わせず、吃った調子で彼は切り出した。もはや自分の緊張が軽く思えてしまう程。その様にかえって心が凪いでしまった。
「昼食を持って来ました。中に入れて下さい」
精一杯な丁寧語で毅然と言って間もなく。彼はドアを引いてアルマを室内へと招き入れた。
彼は終始、形の良い薄い唇をモゴモゴと動かしていた。
恐らく何か言いたいのだろうと察するが、面倒に思えてアルマはあえて訊かなかった。だが数拍後「ありがとう」と礼を言われて、とりあえずアルマが頷きつつ「あの……」と言葉を出すと、同じ言葉が重なり合った。
しかし彼は、手をそっとアルマに指し示し、先に言えと促す。
「昼食遅くなってすみません。成人男性って結構な量を食べるのは知ってますけど、これで足りますか?」
「全然大丈夫……」
返事は即答だが、余程緊張しているのだろう。テオファネスの声は酷く震えていた。寧ろどこか怯えているようにさえ思えてしまう程。
────普通だったら逆でしょう。
あれが機甲の特性とはいえ、あんな脅しをされたのだ。それに凶暴な影に手を伸ばされたりもして……。無論、影の件は自分で分かってもいないだろうが。
怒らぬよう怯えぬよう、何食わぬ所作でテーブルの上にトレーを置くと、彼はソファに座して何か言いたげにアルマを見上げた。
「……で、何か?」
あえて訊いてやれば「朝の事、どうしても謝りたかった」と一言詫びた後、彼は続け様に口を開く。
「……俺の事少しは聞いてるかもだけど、厳令背いて、ここに隠れてろって無理じゃないのかって思って。そりゃ死にたくないし、自分がどうなるかとか不安を覚えたのは事実で。アルマさんの気分を酷く害した。俺、自分の言った言葉は頭に残って覚えてる。人の男なら絶対にありえないような事を言った。許して貰おうと思わない」
でも謝りたいんだ。と、テオファネスは真っ直ぐに視線を向けて言うが、アルマは首を横に振るう。
「それより、スープが冷めますよ」
話があるなら食後に聞く。と、極めて静かに告げると、彼は無言で祈りを捧げた後、食事を取り始めた。
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