【R18】氷雪のフリージア

日蔭 スミレ

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〝フリージア〟

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 遙か北方──頂に万年雪フィルンを乗せた山脈が走っており、麓は広大な永久凍土ツンドラ地帯が地平線の彼方まで広がっていた。

 当たり前のように、その地の冬は長く厳しい。

 冬至となれば夜は明けず、ひっそりとした静寂が訪れる。聞こえる音は、氷のつぶてや雪を叩き付ける風の音だけ。風も無く晴れた日には、極光オーロラが空に煌々と輝くが青白い氷と雪一色の世界にそれ以外に一切何も無い。

 近隣の国々ではこの地を〝世の果て〟または〝白き地獄〟と呼ぶそうだ。詩となり、歌となり、古くよりそう語り継がれている。
 だが、このような過酷な地を敬い愛して、住まい続ける民は古くよりいた。

 民の名は──氷牙ひようがの民、フリージアと言う。

 髪は皆、雪によく似た白金髪。その瞳はまるで氷河の如く冷たき青をたたえており、肌の色も新雪のよう白く滑らかだ。纏う装束は、星の祝福を象る独特な紋様を刺繍した深い青の分厚い不織布フェルト製。その上に馴鹿トナカイの毛皮をなめしてこしらえた長靴ちようかや防寒具を纏っている。
 
 彼らは、何よりも精霊と星の教えを信仰していた。
 そして、誰もが〝げつこうを宿す誇り高き戦士〟だった。


 現在、北の国々は戦が絶えない激動の時代だった。それも気が遠くなる程に長く続いているもので、かれこれ二十年以上が経過する。
 それは永久凍土ツンドラの民、フリージアも例外でなかった。

 ……全ては〝ソルヤナ〟という針葉樹林タイガの向こう側へ下った〝かつての同胞〟の為。

 男も女も関係無く大人は皆、戦地に向かっている。
 それは現在十六歳になろうとしているレイヤの父母も同じだった。

 だが、未だかつて永久凍土ツンドラに戻って来た戦士は誰一人としていない。
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