【R18】水声の小夜曲

日蔭 スミレ

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第五章 慟哭

5-4.強制自白※

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 深夜二時。ルードヴィヒは読書を止めて静かに部屋を出た。

 ──今日は溜め込んだ仕事があるから一緒に眠れない。そう言って、イルゼに嘘を吐くのは良心が痛んだが、どうしても外せない用事があった。
 あの後、ヘルゲは無事に城にイルゼの義姉を迎え入れたようだ。そうザシャから報告を受けたのは、夜の九時を回った頃だろう。 
 とりあえず、ヘルゲの部屋で丁重にもてなしているとの事だが、その後どうなったかは分からない。一応は自分からも話を聞くべきだ。それを言えば、夜中にでも……と提案され今に至る。
 夜中ではあるが、廊下に嵌められた硝子窓の外は仄かに明るい。北国ならではの白夜だ。これが夏至前後の一ヶ月以上は続くが、この所為もあって北国は夏の不眠者が多いらしい。逆に冬ともなれば、夜が延々と明けやしない。そりゃ病む人間も多いだろう。世界の南方で暮らす人間がどれだけ幸せなのかと、どうでも良い事を思いつつ、ミヒャエルは長い階段を下っていった。
 そうして、使用人の部屋にと宛てている城の中階層に差し掛かった途端に微かに女の声がした。まじまじ聞かずともよく分かる。くぐもっていながらもどうにも艶やかだ。それもヘルゲの部屋の目の前まで来れば鮮明に聞こえてくる。

(あぁ、こりゃ喰ったな……)

 間違いなく真っ最中に違いない。ルードヴィヒは目を細めて、ヘルゲの部屋を叩扉もせずに開くと、案の定の光景が飛び込んでくる。
 同じ顔の男二人の間で裸体を晒した女の姿が見えた。四肢は細いが、胸が大きく膨らんでおり、腰回りがむっちりとした女だ。髪はヨハンと全く同じ焦げ茶色。色白の肌によく映えており、確かにどこか妖艶さを持つ美人な女だった。まぁ、自分の趣味で無いが……。

「お、来た来た~。聞いてよ。俺の兄弟すげぇ優しいんだよ。俺も喰っても良いって」

 もう、そんなの見て分かっている。それも口に怒張したペニスを咥えさせているのだから。ルードヴィヒは心底呆れて眉間を揉んだ。チラリと女と目が合ったが、まるで縋るような視線だった。綺麗な顔立ちは涎と涙でグチャグチャに汚れており、怒張した肉棒を咥えた赤々とした唇は白濁が伝って汚れている。

「おや、遅かったですね」

 丁寧な口ぶりヘルゲは言うが、獣の交尾のように女を背後から組み敷いて言っているのでどこか滑稽だ。

「ちょっと、ザシャ。フェラチオやめさせて……」

 ため息交じりに言うと「何、混ざる?」なんて言うものだから、ルードヴィヒは心底呆れた。

「女を嬲る趣味は無い。あと、そういう事する相手はいる。そこの貞操概念はある」

 ついでに、見ていたって微塵も欲も奮い立たない。呆れたように言えば、ザシャは「へいへい」と軽い調子で答えて彼女の口から陰茎を抜き出した。
 相当苦しかったのだろう。顔を赤々と染めた彼女は陸に打ち上げられた魚のようにはくはくと口を大きく開いて荒い息を吐く。
 ルードヴィヒはベッドの前まで歩み寄り、彼女に視線を合わせるようにしゃがみ込むと、彼女は恥じたのか、シーツを必死に掴んで顔を隠そうとする。
 そんな所作が妙に苛立った。おとがいを力強く掴んで上を向かせると、彼女は惨たらしく嫌々と首を横に振るう。

「ヨハンの妹のリンダだっけ? あんたで間違いない?」

 平坦な口調でけば彼女は嗚咽を溢しつつも頷いた。

「ねぇ。あんたさ、どうしてイルゼの髪を切ったの? っていうかヨハンのやましい事とか何か知らない?」

 極めて穏やかにくと、リンダは目を丸く瞠って首を横に振るう。

「知らない、知らないわ!」

「知らない訳がないでしょー。馬鹿なの? 自分がイルゼの髪を切ったじゃん。ってゆーかさ、俺がどんだけ金を積んであんたの借金返して、二度と金に苦しまないようにしてやったか分かってるの? 一生面倒見てあげよーってしてるんだけど」

 悪い条件じゃないでしょ。恩知らずにも甚だしくない? と、こうかつに笑んでやれば、彼女は途端にブルブルと身震いした。 

 ひ弱な女を精神的に追い詰める。ましてや強姦さえも咎めずに見て見ぬ振り。最低な事をしている自覚は大いにあった。それでも、腹の奥に燻った怒りは冷めやしない。〝こんな自分が幸せでも良いかな〟と自己卑下の呪縛をイルゼに与えた原因の一つに違いない。彼女がどれだけ苦しみ、涙を堪えて生きてきたなんて想像出来まい。苛立ったルードヴィヒが舌打ちを入れたと同時だった。

「じゃあ、こういうのはどうです? ちゃんと言わなかったら僕は貴女の膣内で射精しますね。ヘルゲにも同じようにして貰います。表面上では夫婦ですけど、一生こうして性欲処理の肉奴隷になって貰いましょう。孕んだら勿論産んで貰います。可愛い兄弟の子供ですもの。僕は兄弟共有で全く構いません。そもそも、貴女、僕と結婚出来る事を幸運だって馬車で泣いて喜んでましたしねぇ」

 背後でゆるゆると抽送を続けるヘルゲは悪い笑みを浮かべながらも甘く囁く。それに畏怖したのだろう。リンダは嫌だ。と泣きじゃくり、助けてと譫言のように呟いた。

「嫌だ、助けてじゃ答えになってませんよ。ほら、早くしないと達してしまいそうなんですけど」

 甘やかにヘルゲが言うと、彼女はブンブンと首を横に振るう。

「……あぅ……ン。っんぁ。兄さんに、指示されたからよ! べ、別に、私あの子を殺そうとか思ってないわ! 確かにママを殺した男の実の娘だし、憎たらしくて仕方ないけどぉ、ンっ、あぁ……当たり前じゃない!」

 私、何も悪くない! と、彼女は言い放つ。呂律も回っていない割に言わんとしている事はなんとなくで伝わった。

「へぇ。あっそ。それで仕方ないって? 何も罪も無い義妹をしいたげたの?」

 ルードヴィヒが冷ややかに切り返せば、彼女は大粒の涙を溢し、酸素を求めるよう艶やかな唇をぱくぱくと動かした。
 この唇を塞いで喉を潰せば簡単に殺せるのではと思った。絶頂を迎えながら死を迎えるなど飛んだ多幸感を味わえるに違いない。理性が消し飛びそうな程の冷ややかな殺意が腹の中に疼き、怒りと抑圧で指は震え始める。すると、素っ裸のままのザシャは、彼女の髪を優しく梳くように撫で、頬や瞼に軽い口付けを落とし始めた。

「ねーリンダ? そういうの何て言うか知ってる? ガキみたいな腹いせだよ? ね。素直に全部言って。うちの旦那様、だいぶいかれてるけど頭だけは良いんだよ。勿論、話せば分かる相手なんだしさ。素直になれば、あんたに害なんか与えやしないよ」

 きっと殺意を汲み取ったのだろう。そう言ったザシャに目配せをされると「やめろ」とでも言っているようにさえ見えた。
 確かに殺すなと言ったのは自分自身。ルードヴィヒはリンダのおとがいから手を離して澱を吐き出すように深く息をつく。それから二拍、三拍と経過して、リンダは震えた唇を僅かに開いた。

 ────兄さんはあの子に醜い執着を持っているわ。眠るあの子に散々に気持ちが悪い事してきたの。あの子を決して手放す気はない。だからローレライの岩の上のボロ屋敷に閉じ込めて人目に晒さぬように外に行かせなかった。いまいましい上、何も出来ない不幸な子に仕立て上げてきたの。きっと私が、あの子を厭うのを知ってるからでしょ。もっと惨めになるように頼まれたわ。それと口封じの為に兄さんは、毎月私に金を与えてくれた。

 力なくリンダはそう答えて、そのまま意識を手放した。
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