【R18】水声の小夜曲

日蔭 スミレ

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第四章 熱情

4-6.深まる疑念※

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 彼女の胎内から自身を引き抜いて、後処理をして間もなくイルゼは眠りに落ちてしまった。ルードヴィヒは甘やかな行為の余韻に浸りながら、すっかり眠りに落ちたイルゼの髪を撫でつつ瞼を伏せる。

 ……イルゼは正真正銘の処女だった。しかし、明らかに不自然だっただろうと思う。
 考える程に、どうにもこれが厭な程胸の奥につっかえたのだ。

 通常、処女は膣内で快楽を得られる筈も無い。

 こうも反応が良くなるのは、何十回も行為を重ねてからの筈。媚薬に漬ければ話は別だろうが、そんな小細工は当たり前のように無かった。体質の個人差はあろうが、それでも明らかにおかしいのだ。指を挿入した時点で感じた事だが、まるで散々にほぐされているように窺えたからだ。

 ……ふと性的虐待の疑念が浮かび上がる。

 否、彼女の境遇を掘り下げる程に浮かぶものは、それしか無い。
 ワケアリな自分が言うのもなんだか、彼女とて相当なワケアリだった。そもそも再会のきっかけが、義姉相手に包丁を振り回した事で捕縛された事が発端というくらいなのだから……。

 イルゼの義姉は娼婦だ。憂さ晴らしに自分の客に厭らしい事でもさせた事があってもおかしくないとは容易く想像出来る。だが、イルゼは街に降りない生活を続けていた。勿論、降りた事もあるだろうが、義姉が働く時間帯を考慮すると、どうにもこれは考えられなかった。

 ……と、なれば疑わしいのは義兄、ヨハンの方だ。

 はじめこそはただ単純に義妹思いな義兄なのだろうとは思った。しかし、イルゼが今後の話を打ち明けた途端にヨハンは豹変した。
 本当に大事に思うなら、彼女を傷付けるような言葉は吐く筈が無い。それなのに〝何も出来ない子〟とまで彼は豪語した。
 その様ときたら、まるで必死に手放さないようにしているように思えて仕方ない。

 ルードヴィヒは深く息をつき、睫を持ち上げた。イルゼの穏やかな寝顔を見ると、僅かに安堵するが、どうにも考え出せば不穏な気持ちが募る一方だった。しかし、考えたって仕方ない。もはや行動に出なければ、真実など知れやしないのだ。ルードヴィヒは起き上がり、イルゼの肩まで上掛けを被せると静かに部屋を後にした。

 外は、白み始める一歩手前といった頃合いだろうか。薄明るくなりつつある藍色一色に色付く空を横目に廊下を歩み階段を下る。ルードヴィヒが向かった先は、城の中間層。使用人達の部屋のある階だった。
 少しばかり廊下を歩んで幾許か。一室を叩扉もせずに開くと、彼はツカツカと部屋の中に踏み入った。
 窓際には簡素なベッドが一つ。こんもりと上掛けがふくれあがっている様から就寝中……と窺える。しかし、ルードヴィヒがもう一歩を進めた所で、ベッドの中に居た者は音も無く跳ね置き、どこから取り出したかも分からない刃を構える。それに感心したと同時だった。直ぐさま背後に人の気配とギラリと金属質な光沢が見えた。僅かに下方に視線を向けると銀色のナイフが映る。しかし、彼はそれに驚く事も無く直ぐに後ろを振り向いた。

「おはよ。っていうか、それ物騒だからいい加減にやめろし」

 軽い調子で言うと、首元に当てられたナイフは直ぐに引っ込んだ。

「いやいやいや。あんたが〝城に土足で踏み入る奴が居たら、容赦なく排除しろ〟って言ったじゃん? 元盗賊が寝首を刈られる程ダセェ事は無いって散々に煽ったのは誰だか」

 背後から響く声はザシャのものだった。

「そうですよ。ついでに、僕達が鈍らないように鍛錬になるなら構わないって言ってたじゃないですか?」

 前方でナイフを構えていたヘルゲは、ナイフを懐にしまうと、やれやれと首を横に振るう。

「まーそうだけどさぁ」

 流石にこれが毎度では面倒だ。心底気怠げに言うと、「だったらさぁ、変な時間に来るなよ」と背後のザシャはため息交じりに言った。

「で、どうしたんです? 何か用件があって来たのでしょう」 

 ヘルゲが神妙な面で近付くが、ルードヴィヒの前まで歩み寄ると直ぐに顔を引き攣らせる。

「……貴方、とうとうやりましたね」

「うん、俺もなんとなーくで、匂いで事後だって察しちゃいたけど」

 ザシャも心底煙たそうな顔でルードヴィヒを見るなりに目を細めた。
 長らく切羽詰まった生活をしていた影響もあるのだろうか。彼らは音に過敏で匂いにも敏感だ。恐らくイルゼを抱いた後というのは分かっているのだろう。

「え、何? 何の用? 童貞卒業祝いでもしろと?」鼻で笑うようにザシャに言われて、ルードヴィヒは目を細める。

「……童貞じゃねーけど」

「いやいや、娼婦相手はノーカウントだろ? 事実これが童貞喪失みたいなもんだろ?」

「あの。まさかと思いますが……既成事実を作ったからって結婚の相談とかです?」

 双子はルードヴィヒを取り囲んで好き勝手に言うが、双方見当違いだ。彼は一際大きなため息をつき、ふるふると首を横に振るう。

「ちげぇよ。ちょっとお前らにお願いがあってな……ヨハン・ベッカーの事、徹底的に調べて欲しい」

「イルゼさんの義兄にいさんを?」

 ヘルゲは訝しげに眉を寄せて首を傾げた。ルードヴィヒは静かに頷き、話を続ける。

「あとイルゼの姉貴の方。話によりゃ娼婦で、ひばり横町の酒場に居るらしい。どうにか見つけて来い。いくらでも金は出す。イルゼに会わせたくないもんでな。買って、お前らのどちらかの部屋に軟禁しといて貰いたい」

 出来るか? と、けば二人は顔を見合わせるなりに盗賊らしいこうかつな薄ら笑みを浮かべた。

「愚問ですね」「馬鹿にすんな」そう吐き捨てて彼らは深く頷いた。
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