苺月の受難

日蔭 スミレ

文字の大きさ
上 下
48 / 56
Study15.王都帰省、二度目の占い

15-2

しおりを挟む

 その日の昼過ぎ、列車は終点の王都ブルーメの駅に辿り着いた。
 革製の大きなトランクにバスケット。両手が塞がれていては動き難いから……と、先に荷物を預けに宿に赴く事になったが、宿屋に来てストロベリーは目を点にしてしまった。

 宿屋。良くても学院寮のような部屋。或いは簡素な宿泊施設……と思い込んでいた。だが、やはりどう足掻こうがラケルは貴族の子息だった。

 中世の屋敷を彷彿させるようなアンティークな外観の建物にご立派な庭園。内部に踏み入れば、やはりクラシックな内装で星屑を沢山散りばめたのような巨大なシャンデリアがエントランスホールに眩い程に輝いていた。

 やがて、部屋に案内するとやってきた女中に荷物を奪われるように持たれ、連れて来られた部屋はまさに宮殿の如き。一人で寝るには広すぎる天蓋の付きのベッドにテーブルに、サイドテーブルには高級そうな茶菓子──と、目が眩んでしまいそうな程だった。

 果たして一泊幾らかかるのだろうか。脳内に数字がぐるぐると巡るものだが、自分の仕送りされる小遣いではとても払えるようなものではないと理解出来てしまう。

 それはオブも同じだっただろう。バスケットから飛び出したオブは落ち着きの無い様子で部屋の中をぐるぐると歩き回りきょろきょろと辺りを見渡していた。
 ストロベリーは入り口で未だ呆然と立ち尽くしたまま。すると、後方のドアが開き、ラケルがひょっこりと姿を現した。

「四泊もするし少しケチって部屋最低ランクの一人部屋だったけど、ここで大丈夫そう? 不備とかあったら遠慮しないで言っていいからね?」

 至って平坦な調子で彼は言う。しかしそこには嫌味というものが全く無いもので、これが彼にとっては普通かそれ以下なのだと思い知る。ストロベリーは戦慄さえ覚えて即座に首をブンブンと横に振った。

「まって、ラケル。私にこんなお城みたいな部屋は勿体ないってば。絶対に金額がヤバイ! 商人の娘の私には無理、絶対におかしい!」

 ストロベリーがプルプルと震えながら首を横に振ると、ラケルは神妙そうに小首を傾げた。

「四泊しようが僕のへそくりが余るくらいの金額だよ。額は想像に任せるけど言うのもいちいち言うのも野暮でしょ。ただの好意だし、何も気負わないで好きに使って」

 ──それより、図書館に行くんでしょ? 支度出来たら案内宜しくね。去り際にウィンクを一つ。ラケルはそれだけ告げると、部屋から出て行ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...