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Study13.もう一度会いたい
13-3
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その翌朝。普段通りに起きたストロベリーは食堂に向かった。
そこにはもうレヴィとファラが席に着いていて、朝食を取り始めていた。だが、ストロベリーは来た事に気付くと直ぐに食事を止めて、彼女達は駆け寄ってきた。
「もう……大丈夫?」
心底心配といった顔を貼り付けて、レヴィは首を傾げてストロベリーの手を両手で握った。
「うん、ありがとう。いつまでもグズグズして心配かけてごめんね」
「……少しは落ち着いた?」
ファラも心配気が面持ちでストロベリーを見上げて問う。
「なんとか大丈夫……本当にごめんね」
ストロベリーは二人にぺこりと頭を下げると、彼女達は優しい笑みでニコリと笑んだ。
「こらこら、食事中に淑女が立ち上がるなんて良くないわよ! クレセントさんの食事も用意してあるからしっかり食べてきないね!」
その様子を確と見ていたのだろう。少し離れた厨房から見ていた寮母は威勢の良い声で言う。対して三人は同時に返事して席に戻った。
朝食が終わり、食器やカラトリーを返却した後『募る話もあるでしょうに紅茶でも淹れるから飲んでいきなさい?』なんて、寮母に言われて三人は席に再び着いた。
寮母は閉じ籠もっていたストロベリーの部屋の掃除に行くらしい。ごゆっくりと三人の肩を叩くと、寮母はモップに箒を持って食堂を出て行ってしまった。
「……こんな事を聞くの変かも知れないけど。苺ちゃんってレイが男だって気付いてたよね?」
寮母が居なくなった途端に、レヴィの言った言葉にストロベリーは目を瞠った。
「野暮よ、レヴィさん。そんなのどちらでもいいじゃない」
すかさずファラが言葉を挟んで首を横に振るう。だが、言葉は一向に出てこないもので、ストロベリーは困窮して眉尻を下げた。
「ごめん、変な事聞いて」
レヴィは直ぐに深々と謝った。対してストロベリーは首を横に振るう。
──この二人には言っても大丈夫だろうか……。ふとそんな思考が過ぎった。
何を聞かれたとしても知らないと押し通す──最後に交わしたラケルとの約束を破ってしまう事になるが、二人は共通の友達に違いない。無論レヴィとファラからしても、きっとレイチェルであったラケルは大事な友達には違いないだろう。
ストロベリーはもう嘘は吐きたくもなかった。
(ラケルごめん……やっぱりこの二人だけには真実を言いたい)
心の中でぽつりと謝罪した後、ストロベリーはレヴィとファラを交互に見た。
「うん。知ってたよ。部屋が同じになった時点でちょっと色々あってね。それで知ってた」
静かな口調でストロベリーはありのままを懺悔する。だが、二人は驚く様子も無く、表情一つ変える事なく黙ってストロベリーの言葉に耳を傾けていた。
「あのスカーフは傷を隠す訳じゃなくて喉仏を隠してるのも知ってたの。双子のお姉さんの身代わりにお姉さんに成りすまして、どうしてもこの学院を卒業したいから協力して欲しいって頼まれたの。だから私は共犯なの」
全てを告げ終えても二人の表情は何一つ変わらなかった。
これではまるで全てを見抜かれていたかのよう。ストロベリーはテーブルの下でスカートの裾をキュッと握りしめた──と、同時。ファラは大きな溜息を一つ吐き出した。
「レイチェルさん……随分と背が伸びたとは思ってたんだよね。私達がよく一緒に行動してたから気付いたかもだけど」
「一時期、私達部屋でレイチェル男説を解いてたんだよね……なーんか、罰則掃除以降かな、苺ちゃんとやたら仲良いし、あそこ二人デキてるんじゃって話にもなった」
──ぶっちゃけね。なんて付け添えて。レヴィは一つ鼻を鳴らす。
「え……」
言われた言葉にストロベリーは目を更に丸くしてしまうと、レヴィは鼻でせせら笑う。
「お祭りの下りで尚更に怪しいと思ったよ。まぁでも、レイチェル使用人とデキてる説もあったし。あくまで仮説。半信半疑だったし確信でもない。だから騒動が起きた時は驚きもしたよ」
一頻り笑って喋った事で喉が渇いてしまったのだろうか。カップに入った熱々の紅茶をレヴィは優雅な所作で飲み始めた。
「は……」
ポカンと口を開けてストロベリーはレヴィの方を見る。するとファラは『だらしなく口が開いてますよー』なんて忠告を入れるものだからストロベリーは咄嗟に口を閉じた。
「まぁね。でもね、そうやって二人に嘘を吐かれ続けてたんだって思うと少しカチンときたのは本心。だけど、事情故に仕方ないとは思えるかなぁ」
前下がりに切りそろえられた艶やかな黒髪を掻き分けてレヴィはまた一つ鼻を鳴らした。
「ねぇこれ四人共有の秘密にしといてくれる……?」
恐る恐る問えば、レヴィは直ぐにストロベリーに向き合って釣り上がった瞳を細めた。
「馬鹿ちん。当たり前じゃない。嫁入り先の墓場まで持って行くに決まってるでしょ。大した事でもないなら、私はとことんネタにして言いふらして弄りたい所だけど、事が重大過ぎるでしょ? 言えたもんじゃないわ」
──ねぇファラさん? なんてレヴィが問えば、紅茶にたっぷりのミルクを注ぎながらファラは黙って頷いた。
「四人で共有の秘密って、ある意味ロマンチック?」
小首を傾げてファラはストロベリーの方を向く。
「ロマンチックなのはそこの苺みたいな髪の人と不在の金髪碧眼の女装優男だけよ。やーねー、ほんとやーねー」
ブーブーと文句を言いながらもレヴィもファラもどこか楽しそうだった。そんな様子を見て、ストロベリーは心底安堵してしまった。
今度ラケルに会う時に約束を破ってしまった事を謝らなくてはいけない。
けれど友達四人の共有の秘密にしたと──あの二人は”レイチェル”を心から友達と思っていたと。本当に信頼出来る関係が築かれてていたと──それを確と告げようと、ストロベリーは心に決めた。
そこにはもうレヴィとファラが席に着いていて、朝食を取り始めていた。だが、ストロベリーは来た事に気付くと直ぐに食事を止めて、彼女達は駆け寄ってきた。
「もう……大丈夫?」
心底心配といった顔を貼り付けて、レヴィは首を傾げてストロベリーの手を両手で握った。
「うん、ありがとう。いつまでもグズグズして心配かけてごめんね」
「……少しは落ち着いた?」
ファラも心配気が面持ちでストロベリーを見上げて問う。
「なんとか大丈夫……本当にごめんね」
ストロベリーは二人にぺこりと頭を下げると、彼女達は優しい笑みでニコリと笑んだ。
「こらこら、食事中に淑女が立ち上がるなんて良くないわよ! クレセントさんの食事も用意してあるからしっかり食べてきないね!」
その様子を確と見ていたのだろう。少し離れた厨房から見ていた寮母は威勢の良い声で言う。対して三人は同時に返事して席に戻った。
朝食が終わり、食器やカラトリーを返却した後『募る話もあるでしょうに紅茶でも淹れるから飲んでいきなさい?』なんて、寮母に言われて三人は席に再び着いた。
寮母は閉じ籠もっていたストロベリーの部屋の掃除に行くらしい。ごゆっくりと三人の肩を叩くと、寮母はモップに箒を持って食堂を出て行ってしまった。
「……こんな事を聞くの変かも知れないけど。苺ちゃんってレイが男だって気付いてたよね?」
寮母が居なくなった途端に、レヴィの言った言葉にストロベリーは目を瞠った。
「野暮よ、レヴィさん。そんなのどちらでもいいじゃない」
すかさずファラが言葉を挟んで首を横に振るう。だが、言葉は一向に出てこないもので、ストロベリーは困窮して眉尻を下げた。
「ごめん、変な事聞いて」
レヴィは直ぐに深々と謝った。対してストロベリーは首を横に振るう。
──この二人には言っても大丈夫だろうか……。ふとそんな思考が過ぎった。
何を聞かれたとしても知らないと押し通す──最後に交わしたラケルとの約束を破ってしまう事になるが、二人は共通の友達に違いない。無論レヴィとファラからしても、きっとレイチェルであったラケルは大事な友達には違いないだろう。
ストロベリーはもう嘘は吐きたくもなかった。
(ラケルごめん……やっぱりこの二人だけには真実を言いたい)
心の中でぽつりと謝罪した後、ストロベリーはレヴィとファラを交互に見た。
「うん。知ってたよ。部屋が同じになった時点でちょっと色々あってね。それで知ってた」
静かな口調でストロベリーはありのままを懺悔する。だが、二人は驚く様子も無く、表情一つ変える事なく黙ってストロベリーの言葉に耳を傾けていた。
「あのスカーフは傷を隠す訳じゃなくて喉仏を隠してるのも知ってたの。双子のお姉さんの身代わりにお姉さんに成りすまして、どうしてもこの学院を卒業したいから協力して欲しいって頼まれたの。だから私は共犯なの」
全てを告げ終えても二人の表情は何一つ変わらなかった。
これではまるで全てを見抜かれていたかのよう。ストロベリーはテーブルの下でスカートの裾をキュッと握りしめた──と、同時。ファラは大きな溜息を一つ吐き出した。
「レイチェルさん……随分と背が伸びたとは思ってたんだよね。私達がよく一緒に行動してたから気付いたかもだけど」
「一時期、私達部屋でレイチェル男説を解いてたんだよね……なーんか、罰則掃除以降かな、苺ちゃんとやたら仲良いし、あそこ二人デキてるんじゃって話にもなった」
──ぶっちゃけね。なんて付け添えて。レヴィは一つ鼻を鳴らす。
「え……」
言われた言葉にストロベリーは目を更に丸くしてしまうと、レヴィは鼻でせせら笑う。
「お祭りの下りで尚更に怪しいと思ったよ。まぁでも、レイチェル使用人とデキてる説もあったし。あくまで仮説。半信半疑だったし確信でもない。だから騒動が起きた時は驚きもしたよ」
一頻り笑って喋った事で喉が渇いてしまったのだろうか。カップに入った熱々の紅茶をレヴィは優雅な所作で飲み始めた。
「は……」
ポカンと口を開けてストロベリーはレヴィの方を見る。するとファラは『だらしなく口が開いてますよー』なんて忠告を入れるものだからストロベリーは咄嗟に口を閉じた。
「まぁね。でもね、そうやって二人に嘘を吐かれ続けてたんだって思うと少しカチンときたのは本心。だけど、事情故に仕方ないとは思えるかなぁ」
前下がりに切りそろえられた艶やかな黒髪を掻き分けてレヴィはまた一つ鼻を鳴らした。
「ねぇこれ四人共有の秘密にしといてくれる……?」
恐る恐る問えば、レヴィは直ぐにストロベリーに向き合って釣り上がった瞳を細めた。
「馬鹿ちん。当たり前じゃない。嫁入り先の墓場まで持って行くに決まってるでしょ。大した事でもないなら、私はとことんネタにして言いふらして弄りたい所だけど、事が重大過ぎるでしょ? 言えたもんじゃないわ」
──ねぇファラさん? なんてレヴィが問えば、紅茶にたっぷりのミルクを注ぎながらファラは黙って頷いた。
「四人で共有の秘密って、ある意味ロマンチック?」
小首を傾げてファラはストロベリーの方を向く。
「ロマンチックなのはそこの苺みたいな髪の人と不在の金髪碧眼の女装優男だけよ。やーねー、ほんとやーねー」
ブーブーと文句を言いながらもレヴィもファラもどこか楽しそうだった。そんな様子を見て、ストロベリーは心底安堵してしまった。
今度ラケルに会う時に約束を破ってしまった事を謝らなくてはいけない。
けれど友達四人の共有の秘密にしたと──あの二人は”レイチェル”を心から友達と思っていたと。本当に信頼出来る関係が築かれてていたと──それを確と告げようと、ストロベリーは心に決めた。
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