19 / 56
Study6.聖星祭の贈り物
6-1
しおりを挟むマリクと話してから1週間
その間俺はただレティと過ごす時間に癒されていることを改めて実感していた
「シア、ここよね?」
いつの間にか少し先を歩いていたレティがカフェの前で立ち止まる
「ああ」
俺は頷いて少しペースを速めた
今日訪れたのは町にあるカフェだ
ここはナターシャさんの知り合いがやっていて俺達も昔からよく連れてきてもらってる店だ
「考え事?」
「ん?あぁ、ちょっとな」
レティの事を考えてたなんて言えないだろ…
俺は適当にごまかしながら扉を開けてレティを先に通した
「いらっしゃい。久しぶりねシア」
「どーも。テラス行っていい?」
「ふふ…いいわよ」
隣にいるレティを見てから生暖かい視線を向けられた
恥ずかしいからやめてもらいたい
レティはケーキとホッとコーヒー、俺はアイスコーヒーを頼んだ
「お待たせ。お客さん少ないから貸し切りにしとくわね」
「…どうも」
「そんな不貞腐れないの。彼女に嫌われちゃうわよ」
店員はそう言いながら戻って行った
「貸し切りって大丈夫なの?」
「あぁ、元々ここは常連しか知らない席だから問題ない」
というより多分俺達しか知らない
チビの集団が店内で走り回るからって開放された場所だからな
庭も手入れされててかなり落ち着く場所だ
2人掛けのベンチが3つ少し間隔をあけて置いてあり、その前に丸い木のテーブルが置いてある
「シアも食べる?」
「いや、いいよ」
満足そうな顔をしながら尋ねてきたレティは『そう?』と言いながら次のひと口を頬張った
「そんなに気に入ったのか?」
「甘いものなんて食べる機会なかったもの」
「あぁ、なるほど」
レティの生い立ちを考えれば当然かもしれない
「母さんもよく作るから、頼めば作り方教えてもらえると思うぞ」
「本当?私でも作れるかな?」
「ああ。チビが手伝えるようなレシピも多いから、そういうのから教えてもらえばいい」
「それはすごくうれしいわ。サラサさんのお料理どれも美味しいしすっごく楽しみ」
そういうレティからはワクワクしてるのが伝わってくる
やっぱりこういう素直な真っすぐな反応は気持ちがいい
計算とか駆け引きとかそういうのが透けて見える反応にばかり接してきたから余計にそう感じる
「やっぱレティがいいな」
「え?」
レティの驚いた表情に自分が声に出していたことに気付く
やばい…
心の声が漏れるとかあり得ない
俺は内心かなり焦っていた
「私がいいって何が?」
「…」
改めて尋ねられて誤魔化そうとするのを諦めた
どうせ周りにもバレてる
かっこ悪いけど結局この1週間言い出せなかったのが現実だ
それならなし崩しだろうと何だろうと伝えてしまえばいい
「…隣に居たいと思うのも、隣にいて欲しいと思うのもレティだけだってこと」
「!」
覚悟を決めてそう言うとレティの目が大きく見開かれた
そして次の瞬間…
「何で泣くんだよ…」
これまで見たこともない満面の笑みの直後溢れ出したのは涙
「だって嬉し…」
「泣くほど?」
何度も首を縦に振るレティを思わず抱きしめた
驚いたせいか一瞬体をこわばらせたレティはすぐに警戒を解いて俺にされるがままになった
「…みんなシアは私を大事にしてくれるって…でも…」
「でも?」
「皆が思ってるような気持じゃないんだろうなって…ただ保護した対象だからだろうなって…」
「…」
「なのに…シアの事を知れば知るほど惹かれていくのを止められなかった」
時々鼻をすすりながら吐き出される想いに今日まで引っ張ったことを恨めしく思う
「もっと早く伝えればよかったな」
マリクの言うとおりだ
かっこ悪くてもその時その時に伝えればよかったんだ
今更言っても遅いけど
「愛してるよレティ。多分、出会った頃から」
「私も…愛してる!」
戸惑いながらも抱きしめ返されて顔がにやけて来る
こんな気持ちを知らずに来たのはもったいなかったなとどこかで思う
同時にそれを与えてくれるレティを、そんなレティと過ごせる時間を大事にしたいと思った
元の世界以上に何が起こるかわからない世界
今日が平和でも、明日にはスタンピードが起こる可能性だってある
当たり前の日常が当たり前じゃないこの世界で、共に過ごしたい相手と過ごせる時間だから猶更だった
その間俺はただレティと過ごす時間に癒されていることを改めて実感していた
「シア、ここよね?」
いつの間にか少し先を歩いていたレティがカフェの前で立ち止まる
「ああ」
俺は頷いて少しペースを速めた
今日訪れたのは町にあるカフェだ
ここはナターシャさんの知り合いがやっていて俺達も昔からよく連れてきてもらってる店だ
「考え事?」
「ん?あぁ、ちょっとな」
レティの事を考えてたなんて言えないだろ…
俺は適当にごまかしながら扉を開けてレティを先に通した
「いらっしゃい。久しぶりねシア」
「どーも。テラス行っていい?」
「ふふ…いいわよ」
隣にいるレティを見てから生暖かい視線を向けられた
恥ずかしいからやめてもらいたい
レティはケーキとホッとコーヒー、俺はアイスコーヒーを頼んだ
「お待たせ。お客さん少ないから貸し切りにしとくわね」
「…どうも」
「そんな不貞腐れないの。彼女に嫌われちゃうわよ」
店員はそう言いながら戻って行った
「貸し切りって大丈夫なの?」
「あぁ、元々ここは常連しか知らない席だから問題ない」
というより多分俺達しか知らない
チビの集団が店内で走り回るからって開放された場所だからな
庭も手入れされててかなり落ち着く場所だ
2人掛けのベンチが3つ少し間隔をあけて置いてあり、その前に丸い木のテーブルが置いてある
「シアも食べる?」
「いや、いいよ」
満足そうな顔をしながら尋ねてきたレティは『そう?』と言いながら次のひと口を頬張った
「そんなに気に入ったのか?」
「甘いものなんて食べる機会なかったもの」
「あぁ、なるほど」
レティの生い立ちを考えれば当然かもしれない
「母さんもよく作るから、頼めば作り方教えてもらえると思うぞ」
「本当?私でも作れるかな?」
「ああ。チビが手伝えるようなレシピも多いから、そういうのから教えてもらえばいい」
「それはすごくうれしいわ。サラサさんのお料理どれも美味しいしすっごく楽しみ」
そういうレティからはワクワクしてるのが伝わってくる
やっぱりこういう素直な真っすぐな反応は気持ちがいい
計算とか駆け引きとかそういうのが透けて見える反応にばかり接してきたから余計にそう感じる
「やっぱレティがいいな」
「え?」
レティの驚いた表情に自分が声に出していたことに気付く
やばい…
心の声が漏れるとかあり得ない
俺は内心かなり焦っていた
「私がいいって何が?」
「…」
改めて尋ねられて誤魔化そうとするのを諦めた
どうせ周りにもバレてる
かっこ悪いけど結局この1週間言い出せなかったのが現実だ
それならなし崩しだろうと何だろうと伝えてしまえばいい
「…隣に居たいと思うのも、隣にいて欲しいと思うのもレティだけだってこと」
「!」
覚悟を決めてそう言うとレティの目が大きく見開かれた
そして次の瞬間…
「何で泣くんだよ…」
これまで見たこともない満面の笑みの直後溢れ出したのは涙
「だって嬉し…」
「泣くほど?」
何度も首を縦に振るレティを思わず抱きしめた
驚いたせいか一瞬体をこわばらせたレティはすぐに警戒を解いて俺にされるがままになった
「…みんなシアは私を大事にしてくれるって…でも…」
「でも?」
「皆が思ってるような気持じゃないんだろうなって…ただ保護した対象だからだろうなって…」
「…」
「なのに…シアの事を知れば知るほど惹かれていくのを止められなかった」
時々鼻をすすりながら吐き出される想いに今日まで引っ張ったことを恨めしく思う
「もっと早く伝えればよかったな」
マリクの言うとおりだ
かっこ悪くてもその時その時に伝えればよかったんだ
今更言っても遅いけど
「愛してるよレティ。多分、出会った頃から」
「私も…愛してる!」
戸惑いながらも抱きしめ返されて顔がにやけて来る
こんな気持ちを知らずに来たのはもったいなかったなとどこかで思う
同時にそれを与えてくれるレティを、そんなレティと過ごせる時間を大事にしたいと思った
元の世界以上に何が起こるかわからない世界
今日が平和でも、明日にはスタンピードが起こる可能性だってある
当たり前の日常が当たり前じゃないこの世界で、共に過ごしたい相手と過ごせる時間だから猶更だった
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる