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カフェ「終わる花」
そこは壊れかけた危うい魂が導かれる場所。
従業員は当たり前のようにこの世のものでない。正式に言えば、この世とあの世の仲介人。天の使い……謂わば天使ともいう。
花の終わりは、ひとつの区切り。溢れた種は何も無くなった庭に再び美しい花を咲かせる。
終わりがあればまた始まる。そして気付き、やがて成長する。
店主のアンナはそんな思いであの店名をつけた。
その日、店を探しに来た紗良を見つけて、アンナとエマは古びた駐車場の屋上の柵に腰掛けて、彼女を眺めていた。
あの日「危うい子を見つけた」と死神から言われて、店を出して間もなく彼女は導かれるように終わる花にやってきた。
人間とは、意外にも突発的に行動を取る。
「暗い海に飛び込むのが怖い」だとか「高い場所から飛び降りるのは怖い」と言っても、線路に飛び込む事もあるし、酒を飲んで良い気分になった所で、向精神薬を大量に飲む……なんて事をやらかす事もある。
ましてこれは年齢が若い程、危うさが増す。
「孕むか死ぬか」と言われる十九歳が最も危ういと言われるが、婚約破棄や職場での人間関係の問題が起きやすい二十代前半もこの危険が多く潜んでいた。
そうして……「いなくなりたい」「もう明日なんか来なくて良い」なんて願いを存外簡単に叶えてしまう事があるのだ。
そしていざ命を失ってから本当の意味で後悔する。
「どうしてあんな事をしてしまったのか」「もう取り返しがつかない」そんな風に嘆いたって、もう遅い。
二ヶ月前──紗良が来店した花冷えの夜を思い出してアンナは安堵の息をつく。
「アンナってやっぱ元人間だから、客にすごく肩入れするよな」
生意気な口ぶりでそう言われて、隣を見ると、エマは目を細めて呆れたようにこちらを見つめている。
「あなただって元々が天使な癖に、なかなかに人間味が強いと思うわよ?」
思ったままを返すと「おまえのせいだ、ばーか!」と悪態をつかれた。
いやはや、これが本当に純粋な天使の言葉かと呆れてしまうが、もう長い付き合いなので慣れている。
そんな時、ふわりと紗良の言葉が聞こえてアンナとエマは顔を見合わせる。
「……なぁアンナ。今度あのお姉さんのところのパン、あのたばこ臭い死神のおっさんに強請ってみるのどうかな?」
やはり口が悪い。そんなエマの言葉に笑いが溢れてしまうが、良い提案だ。
「それは良いわね。カフェメニューの良いアイデアにもなりそう」
アンナとエマは去りゆく紗良の背中を見守った。
カフェ「終わる花」
そこは壊れかけた危うい魂が導かれる場所。
従業員は当たり前のようにこの世のものでない。正式に言えば、この世とあの世の仲介人。天の使い……謂わば天使ともいう。
花の終わりは、ひとつの区切り。溢れた種は何も無くなった庭に再び美しい花を咲かせる。
終わりがあればまた始まる。そして気付き、やがて成長する。
店主のアンナはそんな思いであの店名をつけた。
その日、店を探しに来た紗良を見つけて、アンナとエマは古びた駐車場の屋上の柵に腰掛けて、彼女を眺めていた。
あの日「危うい子を見つけた」と死神から言われて、店を出して間もなく彼女は導かれるように終わる花にやってきた。
人間とは、意外にも突発的に行動を取る。
「暗い海に飛び込むのが怖い」だとか「高い場所から飛び降りるのは怖い」と言っても、線路に飛び込む事もあるし、酒を飲んで良い気分になった所で、向精神薬を大量に飲む……なんて事をやらかす事もある。
ましてこれは年齢が若い程、危うさが増す。
「孕むか死ぬか」と言われる十九歳が最も危ういと言われるが、婚約破棄や職場での人間関係の問題が起きやすい二十代前半もこの危険が多く潜んでいた。
そうして……「いなくなりたい」「もう明日なんか来なくて良い」なんて願いを存外簡単に叶えてしまう事があるのだ。
そしていざ命を失ってから本当の意味で後悔する。
「どうしてあんな事をしてしまったのか」「もう取り返しがつかない」そんな風に嘆いたって、もう遅い。
二ヶ月前──紗良が来店した花冷えの夜を思い出してアンナは安堵の息をつく。
「アンナってやっぱ元人間だから、客にすごく肩入れするよな」
生意気な口ぶりでそう言われて、隣を見ると、エマは目を細めて呆れたようにこちらを見つめている。
「あなただって元々が天使な癖に、なかなかに人間味が強いと思うわよ?」
思ったままを返すと「おまえのせいだ、ばーか!」と悪態をつかれた。
いやはや、これが本当に純粋な天使の言葉かと呆れてしまうが、もう長い付き合いなので慣れている。
そんな時、ふわりと紗良の言葉が聞こえてアンナとエマは顔を見合わせる。
「……なぁアンナ。今度あのお姉さんのところのパン、あのたばこ臭い死神のおっさんに強請ってみるのどうかな?」
やはり口が悪い。そんなエマの言葉に笑いが溢れてしまうが、良い提案だ。
「それは良いわね。カフェメニューの良いアイデアにもなりそう」
アンナとエマは去りゆく紗良の背中を見守った。
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