【R18】砂上の月華

日蔭 スミレ

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前編

第四夜 与えられた厄災※ 

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 媚薬の所為でライラの頭は、もうまともに働いていなかった。
 肩や腕、どこを触られても皮膚が粟立ち、出した事も無いような甘い声がひっきりなしに溢れた。
 まるで自分ではないような自分──当然のように自分でも気持ち悪く思った。
「邪魔だし脱いじゃおうね?」なんて諭されて、今では下着一枚に。
 彼は無骨な手で、露わになった胸の膨らみを愛でるようにまさぐり始めた。
 はじめこそは輪郭をなぞるように、丸く揉んでいたものだが……やがて指先は頂にある薄紅の突起へ。
 そこを、指紋が擦り付きそうな程にグニグニと転がされて──ライラは目を大きくみはる。

「──ぁう、あああ!」

「媚薬を盛ってるとは言え、感度が凄く良いね。良い眺め……凄く可愛くて厭らしい」

 ──蟷螂ちゃん。と、覆い被さった彼は外耳を舐めるように、悍ましく甘く淫靡な言葉を吐く。
 耳を嬲るように与えられるその言葉だって、更に脳髄を焼き、クラクラと視界に蜃気楼を生み出した。

「そんな事、な……んぁあ」

 ──そんな事は無い、違う。と、抗おうとするものの一瞬にして言葉を発する事を拒絶する感覚が突き抜ける。
 ヌメリを持った、熱い固まりが自分の胸を蹂躙し始めたのだ。
 赤々とした彼の舌は、膨らんだ薄紅の突起に絡みつく。

「可愛いここ、膨らんで勃ってるよ。こうされるのは気持ち良い?」

 赤い舌を出して、膨らんだ突起を転がし嬲るのを見せつけながら彼は笑んだ。
 ──気持ち良く無い。そんな事、無い。もう止めろ。と、言いたいのに……。

「いや、ぁ……やだぁ……ぁん、んぁあ!」

 ひっきりなしに嬌声を上げる事しか叶いもしない。
 許される抵抗といえば、ユルユルと首を揺するだけ。
 本当ならば、頭を殴りたい程なのに……ライラは彼の髪をやんわりと掴んで与えられる悦楽に耐える他無かった。
 嬲るように転がされ、甘く吸われる、そして、もう片方へ──と、その繰り返し。だが、彼が脚の間を割って身体を密着させた時、新たな刺激が加わり、ライラの背はビクリと弓なりに仰け反った。

「──ひゃ、ぁあぅ……やぁああ!」

 自分の秘部に何か硬質なものがグリグリと当たるのだ。
 それが彼の雄の化身だと理解するのは一瞬。
ライラは目を大きくみはった。

 ……自分は下着一枚。蛭は服を着ている状態だ。それでも、感触から察するに自分に押し当てられるそれは、悍ましい質量だと容易に理解する。 

 ライラは僅かな力で腰を引こうとするが、彼はそれを即座に拒んだ。
 恐らく、先程の反応が気に入ったのだろう。胸を蹂躙したまま。彼はライラの脚を抱き、更に雄の化身の存在を知らしめさせるかのように、ユルユルと腰を動かした。
 その都度、ヌチヌチと粘着質な音が響く。立ちこめる香りは甘みを含んだ淫靡な香り。
 色恋無縁の盗賊──処女とは言えライラにも娼館育ち。一応知識くらいはあった。
 つまり、女の身体は雄芯を受け入れられる状態に至れば、秘裂から潤うと。 
 まさか──媚薬に犯されているとはいえ、雄芯を受け入れる程の状態になっているなんて。そんな筈は無い。何かの間違いだ。と、ライラはユルユルと首を横に振るう。
 だが、彼が腰を動かす都度、耳障りな程にヌチヌチとした粘着質な淫靡な音が響くのだ。
 ──違うと思いたい。そう思ったのに。
 秘めたる思いを悟ったのだろうか。彼は鼻から抜けたような笑い声を溢して、再びライラの外耳に悪魔のような囁きを落とした。

「ねぇ……俺のそこ押し当てられて、もう蕩けちゃってない?」

「や……違っ、んぁ……」

「違う? じゃあこの音は何? ヌチャヌチャ厭らしい音立てて、男を誘う厭らしい匂い撒き散らしてるけど、自覚はある?」

 ──ふざけるな。そんな筈は無い。と、罵倒を浴びせたいが、呂律さえもうしっかりと回らない。ライラは甘い吐息を漏らし、首をユルユルと横に振った。

「そう違うの。じゃあ、ちゃんと確かめないとねダメだね?」

 ヒヒ。と笑った後。彼は、ライラから身を引き、彼女の脚を抱え上げて肩に踵をかけた。
 そうして視線を下方へ向けたと同時──「嘘つき」と低く囁き、クスクスと笑む。

「ねぇ。可哀想な程ぐっしょり濡れて、ショーツの上から形がはっきり分かるくらいに透けちゃってるけど」

 言って、彼が無骨な指で秘裂に指を這わせた。

「君はまぁ……知ってるだろうけど、お復習さらいでもしようか」

 ──ここが、俺のものを受け入れる孔。そしてここが……。
 ツゥ……と、彼が親指を滑らし止まった場所で、ライラの背はビクリと弓なりに反った。

「クリトリス。ここが、女の子が一番気持ち良い場所」

 説明を穏やかに言う否や、彼は親指でグニグニと淫芽を弾いた。

「あん、んぁ……ああぁあ!」

「好きでしょここ? 気持ち良くて膨らんじゃってるの分かるもの。寝る前とか、自分でも弄った事くらいあるでしょ?」

 諭すように優しく訊かれるが、ライラは甘い声を漏らしながらも直ぐに首をユルユルと横に振った。
 事実、自慰らしき事なんてした事は無い。確かに触れると少し”変なかんじ”がするとは思った事はあるが……。

「──ぁ、んああ! しらない、あぅ……あん、そんなこと……あん、ああぅ」

「そうなの? じゃあ、ここが気持ち良い場所ってしっかり身体に覚えさせてあげないと。俺ばっかり気持ち良くなるのも嫌だしね。あとねぇ……俺ちょっと蟷螂ちゃんに一つ謝りたい事があるんだよね」

 グニグニと淫芽を転がしたまま。
「謝りたい」と言う割に、彼はどこか嬉しそうに薄い唇に笑みを乗せ、ゆったりと切り出した。

「その、さっき飲ませた媚薬だけどさ……あれ実は強いもんじゃなくて、極めて弱いものなんだよね? 少しぽーっとして、厭らしい気分になるものの、身体が温かくなってそのまま眠たくなっちゃうくらいのヤツ。調合だってミスってもいない……」

 ──と、なると。君かなり厭らしい体質だよね? なんて言われて、ライラは涙で蕩けた目をみはった。

「……ぅ、そ、ちが」

「違わないよ? 君、相当厭らしいんだよ。こんなにグチャグチャになるくらい愛液を垂れ流して誘って。もっとして欲しいみたいに腰揺らしてさ。嫌だとか言う癖に、早くナカに嵌められたくて堪らないでしょ?」

「んぁ、ああぅ! 違っ……ぁぅちがう!」

 必死に逃れようと脚を動かそうとした須臾しゆゆ──彼は大腿を腕でグッと押さえ、ニタリとした笑みを浮かべた。

「逃げちゃダメ。俺、もっと君を堪能したいんだよね。後でちゃんと嵌めてあげるから良い子にしてね?」

 そう良いながら、ライラの脚を高く抱え直した彼は秘裂に顔を近づけた。
 ──まさか。と、思った時にはもう遅かった。
 とんでもない官能の悦楽がライラの脳髄を焼き尽くし始めたのだ。

「──ひっ、んぐっ……嫌、嫌ぁああ!」

 眼下に広がる光景は、浅ましくも悍ましいものだった。
 下着越しから彼が、自分の秘裂に舌を這わせ始めたのだから。
 ヌメリを持った、熱の塊に嬲られ、布の擦れた感触──粘着質な水分を吸った布地ごと、彼はジュッっと浅ましい音を上げて吸い上げる。下着越しからでも分かる程に膨らんだ淫芽を、彼は尖らせた舌先で嬲るように蹂躙し始めたのだ。

「んあ、嫌ぁ……嫌ぁあああああ!」

 揺らぐ脳裏に砂塵の嵐が押し寄せたような感覚を覚えた。
 そうして、彼が軽く歯を立てて淫芽を甘く食んだと同時、脳裏は白一色に染まり、同時に何かが爆ぜた。

「──嫌ぁああ! んああぅ!」

 ライラの唇から漏れる嬌声は、もはや悲鳴に等しいものだった。
 何かが、自分の体内から押し出されたように溢れ出した感覚さえもあり──それでも、与えられる刺激が途切れた事にどことなく安堵した。だが、それも束の間で……。
 熱を持った秘部がひんやりとした気がしたのだ。未だ、蜃気楼のように揺れたままの視界の先、ぼんやりと映し出された光景にライラはたちまち身を強ばらせた。
 布地を持ち上げられ、秘部が完全に晒されているのだ。間近に彼の顔がある……という事は、全て見られているのだろう。
 当然、こんな場所は誰にも見せた事が無い。
 羞恥と殺してやりたい程の憤慨さえ沸き立つが、そんな力は今の自分には無い。ただ惨めに涙を溢し嫌だと抵抗する”ただの女”に成り下がる他、選択肢が無いのだ。
 これからされるであろう事は、ライラも安易に想像出来た。
 ──嫌だ。続け様にそんな事されれば、とうとう気が狂ってしまうかも知れない。心が壊れてしまう。と、頭の中では喧しい程に警鐘が鳴り響くが、もう脚の力は完全に抜け落ちて逃げる事さえ拒んだ。

「……ぁん……や。いや」

 見るな。と、途切れ途切れに拒絶を口にするが、彼はお構いなしに秘裂をやんわりと広げて舌なめずりをする。

「さぁて。流石に、今から何をされるか分かってるみたいだよね。感じやすい蟷螂ちゃん? 達したばかりのここを俺が直に愛したら、どうなっちゃうかな? 可愛い声で鳴く女の子らしいとこ、もっと見せてよ」

 ──壊れちまえよ。何から何までちゃんと責任は取ってやれるから。と、付け添えた言葉は、まるで悪魔の呪い。
 それから間髪入れずに、ライラの脳裏は再び真っ白に染まった。だが、与えられる悦楽は止めどなく反復して……。

「ひぁ……ひぐっ、ああ、いやぁあああ!」

 充血した淫芽に食らいつき、赤々とした舌を這わせた彼はジュッと卑しい音を立てお構いなしの蹂躙を繰り出した。
 淫芽を下って蜜口へ──その名の通り体液を食らう蛭のように、彼の唇は蜜口に宛がわれ止めどなく溢れる蜜液を浅ましい音を立てて啜る。
 やがて、ユルユルとヌメリとした熱の塊は、蜜口の入り口を撫で緩やかに挿入された。
 なんとも形容しがたい感覚だった。
 しかし、潤い蕩けた蜜洞はとっくに雄芯を受け入れる状態になっている。それに、腹の奥がじんわりと熱い。もっと奥に刺激を欲しているのだと、ライラもなんとなく自覚した。
 こんな事は自分の意思には反している。しかし、拓かれた身体は、この先の行為を心から望んでいるかのようで──ライラは大粒の涙を振り落とし、しゃくり上げるように甘い息を漏らした。

「……ぁ、んぁ。あぅ、ぁあん」

 舌を抜き挿しされ、円を描くように淫芽をねっとりと舐め回され──もう幾度目になるか分からない絶頂に身はピクピクと動くだけ。
 漏れ出る声も少し掠れたものに変わり初めてようやく、彼は唇を離した。

「すごいね。ナカすごいヌルヌル……」

 感嘆するように言って、蛭は蜜口の入り口を無骨な指でくちゅくちゅと掻き回す。
 その感触も鮮烈なもので、また脳裏が白く爆ぜた。

「ぁん……んぅ、あああ」

 大粒の涙は止まらない。四肢はぐったりと脱力し、涙を拭いたくても拭う事も出来ずそのままで。
 それが気になったのだろうか。
 彼はライラの脚を解放し、丁寧な所作で下ろしたかと思えば覆い被さり、涙を掬い上げるように拭った。

「ちょっとやりすぎたかな。沢山達せたみたいだけど」

 鳶色の毛髪の隙間から覗く薄紅の邪視は、どことなく心配気だった。未だドロリとした劣欲の色が揺らいでいる事が、ぼんやりとした視界でもよく分かる。
 だが、途端に自分の蜜口に”何か”が宛がわれたと感じたと同時、呆然と宙を彷徨っていた意識は現へ引き戻された。
 自分の薄っぺらい腹の下、僅かな茂みの向こうに彼の怒張した肉欲の化身がはっきりと映った。それはまるで涎を垂らすように透明の粘液を吐き出して、秘裂の合間にピタリと密着していたのだから。

「嵌めてもいいよね。俺も限界だから、挿れちゃうよ?」

 ──力抜いて。と、相変わらずに柔らかな言葉で彼は示唆した。
 蜜を絡めるように秘裂を滑らせて──やがて、蜜洞には夥しい質量と他人の熱が緩やかに埋め込まれる。

「ひっ……んぁ、嫌ぁあああ!」

 まるで、肉を掻き分け内部を蝕まれるような感覚さえもした。
 悲鳴に近しい嬌声を張り上げてライラはビクビクと身を戦慄かせる。すると彼は、ライラの身を強く抱き寄せ、更に深く腰を沈めた。

「あ……ぁ、あああ」

「……っ、く……全部入ったよ。思ったよりもずっと狭いね……」

 ──君、身体が小さいからかな。なんて、変わらず穏やかな調子で付け添えて。彼はライラの髪を愛おしげに撫でた。
 しかし、破瓜は痛みを伴うものだと言われているものだが、痛みは全く感じられなかった。少なからず媚薬の影響もあるだろうが……悦楽の方が強いもので、もしこれで抜き挿しされれば、いよいよどうなってしまうか分からない。
 彼は脚を抱え直して「動くから」と告げた後、抽送はいよいよ始まった。
 耳を塞ぎたくなる程に粘着質で卑しい音が嫌に耳につく。それと共鳴し響く音は、汗ばんだ皮膚同士が吸い付きぶつかる浅ましい音だった。
 自分の中に埋め込まれたものが、媚肉を掻き分け出入りする様は嫌な程に分かるもので、その感触さえも途方も無い悦楽となり、頭が酷くチカチカする。

「……あん……う、ううぅ……」

 もはや、どこで息をしたら良いのか分からなかった。それでも、これ以上、あんなに媚びた嬌声を漏らすのも嫌だと思って、ライラは唇を噛み首をユルユルと振るう。
 そんな様子を見かねたのだろうか。彼は抽送を止めて上体を僅かに起こし上げる。すると、ライラの唇を指でなぞり──

「我慢しないで。息を殺したらもっと辛いでしょ。君のナカ、痛いくらい狭いよ」

 と、余裕の無い笑みを浮かべた。
 長い前髪の隙間から僅かに覗く彼の面は穏やかだった。しかし、その綺麗な顔と優しさが妙に腹が立ち、ライラは自分の唇を撫でる彼の指をぱくりと噛みついた。
 当然の如く、余力など皆無だ。その所為もあるだろう。これではまるで甘く食んでいるかのようで──そんな行動に驚嘆したのか、彼はジットリとした薄紅の瞳を丸くみはり、たちまち頬を赤らめた。

「いくら、なんでも……可愛いすぎでしょ」

 本当ならば指を噛み千切ってしまいたい程だったのに……完全に逆効果。彼を余計に煽ってしまったようだった。
 瞬く間に抽送は始まった。
 初めこそは緩やかな抜き挿しだったが、次第に深く烈しいものへと変貌する。 
 まるでベッドが悲鳴を上げるかのよう。
 軋む音が静謐な部屋に煩い程に反響した。

「……ぁん、んぁぅ、あぁあ」

 抽送の都度、ライラの唇からは僅かに甘い声が漏れ始めた。
 身体の中に埋め込まれた質量にはだいぶ慣れてはきた。けれど、抽送を繰り返す都度に刻まれる官能に保っていた自我は緩やかに崩れ、剥がれ落ち始めていた。
 肉壁の襞を擦られる都度、甘い感覚が脊髄に走り頭の中をクラクラと揺さぶるのだ。
 ましてや蜜洞の浅い場所──腹側のある一点が擦られると、それは悍ましい程に身を甘く戦慄かせる。
 こんな辱めを受け、純潔を奪われたにも関わらず、それが気持ちが良いと思ってしまったのだ。
 ──誇り高き女盗賊だった自分、蟷螂と呼ばれた屈強なる女である自分。それが、どこまでも卑しい雌に墜ちぶれてしまっただろうと思う程、後ろめたさを覚え、涙は後から後から伝った。
 立場的に、彼は自分を好きにする権限を持っている。しかし、心まで壊すなど酷いだろう。こんな惨めになるのならば、殺して欲しかった。これでは生き地獄だ。
 そんな思想が過ぎり、ライラは嗚咽混じりの嬌声を溢す。

「ほら、泣かないで……大丈夫だから」

 抽送を緩め、変わらずに優しい声色で蛭は言う。
 頭を抱き、瞼に唇に触れるだけの甘い口付けを降らせた後、彼はライラの手を優しく握りしめた。

「ねぇ……蟷螂ちゃん。俺、君をもっと知りたいんだ。どうか本当の名前を教えて」

 ぽつりと彼の告げた言葉はまるで祈りか、呪文のようだった。
 言ってはいけない。潜在的にそれは分かってはいるものの、まるで本当に呪われたかのよう。ライラは甘い声を漏らす唇を僅かに動かして──『ライラ』と、まことの名を自然と紡いだ。
「綺麗な名前だね」と、返答はただそれだけで。
 しかし、自分を見下ろす彼の素顔はあまりに優しく、綺麗な笑み方だと思えてしまった。

「……ライラ、俺は必ず君を幸せにするって約束するよ」

 人に恐れられ忌まれた黒の呪術師サツハール
 邪視を持ち妖霊ジンを使役し呪術シフルを扱う……そんな彼に見合わない言葉だとは思った。
 そうして落とされた口付けは、まるで呪い。
 だが、感じた事も無い程に甘美なもので……。


 それが粛正権を買われた日、ライラの最後の記憶だった。
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