ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

文字の大きさ
上 下
105 / 106
世之介の帰還

しおりを挟む
「世之介!」
「お父っつあん! どうして?」
「御老公様の通信で、お前がここにいることを知らせて貰ったのだ。大慌てで、御用船に飛び乗って、この──番長星──まで来ることができた! 心配したぞ!」
 一息で捲し立て、父親は太った身体を折り曲げ、苦しそうにぜいぜいと荒い息を吐き出した。
 ちらりと世之介の背後に立っている杖を手に持った老人を見て、顔色を変えた。
「これは、御老公様!」
 ぺたりと膝をつき、土下座する。光右衛門は膝を下ろし、優しく肩に手をやった。
「但馬屋さん。お立ちなさい。わしはこの場では、ただの越後屋の隠居。しのびの旅でございますからな、そのような大袈裟な真似は迷惑ですぞ!」
「へえ……?」
 ゆっくりと父親は顔を挙げ、立ち上がる。光右衛門は思い出した、という顔付きで話し掛けた。
「そういえば、息子さんに十八の春を迎える前に初体験を済ませなければ廃嫡、勘当を申し渡すと申し渡したそうな」
 光右衛門の指摘に、父親は顔を真っ赤にさせ、恥じ入った。
「そ、それは……」
「なんでも、息子さんは十七になっても尻の蒙古斑が消えず、初体験を済ませないと消えないと聞きましたが、本当ですか?」
 父親は巨体を大いに縮めて見せた。
「は、それが但馬屋代々の体質でございまして……」
「見たいですな。その青痣を」
 光右衛門の言葉に、世之介は仰天した。振り返ると、光右衛門は大真面目であるが、背後の助三郎、格乃進は笑いを堪えるのに必死だ。
 世之介は怒りに顔が火照るのを感じた。
「そうかい……そんなに見たいなら、見せてやろうじゃないか!」
 勢いで、その場で尻を向け、袴を脱ぎ去り、尻ぱしょりをして見せる。ぐいっと褌を降ろし、尻を突き出す。
「さあ、これが俺の青痣だ! とっくりと拝みやがれっ!」
 しいーん、と静寂が支配する。
 ぽつり、と光右衛門が呟いた。
「どこにあるのです? 青痣など、見えませんが」
「えっ?」
 世之介は急いで振り向く。父親の七十六代目・世之介は目を丸くしている。
「お父っつあん?」
 父親は、ぶるぶると首を忙しく振った。
「無い! お前の青痣が消えている! お前、いつ初体験を済ませたんだ?」
 父親の目が、その場で呆然と立っている茜に向かった。「ははあーん」と一人で納得した顔つきになる。
「そうかい、そういう次第かい……お前も、ご先祖様に恥じず、手が早い……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! あたしゃ絶対、そんなこと……」
 話題の茜は目を怒らせた。ある考えが茜の脳裏に浮かんだようだった。
「あたしも聞きたいわ! まさか、狂送団の女たち……!」
「馬鹿を言うな!」
 世之介は絶叫した。急いで衣服を元に戻すと、両手を広げ喚く。
「俺は、ずっと〝伝説のガクラン〟を着ていたんだ! 脱ぐこともできなかった! そんな真似、出来るわけない!」
 光右衛門が「かっかっかっかっ!」と乾いた笑い声を上げた。
「世之介さんは、大人になったのです! 初体験をしようが、しまいが、立派な大人に番長星で成長したので、青痣が無くなったのでしょう。但馬屋さん、世之介さんは立派な跡継ぎになりました。違いますかな?」
 じわじわと理解が父親の顔に差し上った。世之介を見詰め、話し掛ける。
「世之介、お前、但馬屋に帰るんだ! お前は立派な跡継ぎとなった……」
 世之介は、即座に返答する。
「厭だ! 俺は、家には帰らない!」
 父親は仰天した。
「何を戯言を……。お前、本気かえ? 家に帰らず、何をするつもりなんだ?」
 世之介の視線が、茜の視線と絡み合う。
「俺も番長星に留まりたい! そして番長星の人間が一人立ちできる手伝いをするんだ。お父っつあん。ついては頼みがある」
 父親は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「頼み?」
 世之介は笑った。
「そうさ。お上は番長星に援助をするそうだ。しかしお上だけでは心もとない。但馬屋の財力なら、充分な援助が可能だ。援助だけじゃない。これは新しい商売のタネになるんじゃないのか?」
 とっくりと考え、父親は頷いた。表情が、商売人のものになっていた。
「そうだね……。お上のお声掛かりとなれば、出入りの商人だって一口噛むのは当たり前だ。それに但馬屋の一番乗りが叶えば……」
 にっこりと笑顔になった。ぽん、と自分の胸を叩き請合う。
「判った! 但馬屋、番長星への立ち直り事業に一番乗りをするぞ!」
「目出度い、目出度い! これで万事、万々歳と相成りました! ついてはお手を拝借……」
 イッパチが、しゃしゃり出る。全員、笑いながら一本締めの用意をした。
「よーい!」
 イッパチの合図で、しゃんと一本締め。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

 時の蛇 ~誰が為に紡がれる未来~

美袋和仁
SF
 科学技術が進んだ近未来。世界規模で都市部が壊滅状態に陥る未曾有の大地震が起こり、人々を阿鼻叫喚に巻き込んだ。  しかし、地震大国である日本は的確な采配をする指導者、石動十流の元、持ち前の逆境魂で新たな復活を遂げる。  だが、それをよしとしない国々や、被災による食糧、資源不足が、奪うという原始の争いを引き起こした。  連鎖する負の感情に、石動は「変えられなかった」と悲嘆に暮れる。なんと彼は、この先に起きうる未来を知っていたのだ。  この物語の構想は四十年ほど前。ワニが初めて書いた小説です。書いていた当時はSFに類する物語だったのですが、今なら近未来ファンタジーとでもなるのでしょうか? 分からないので、SFで投稿いたしまふ。はい。  ☆なろうやカクヨムにも掲載しています。

アシュターからの伝言

あーす。
SF
プレアデス星人アシュターに依頼を受けたアースルーリンドの面々が、地球に降り立つお話。 なんだけど、まだ出せない情報が含まれてるためと、パーラーにこっそり、メモ投稿してたのにパーラーが使えないので、それまで現実レベルで、聞いたり見たりした事のメモを書いています。 テレパシー、ビジョン等、現実に即した事柄を書き留め、どこまで合ってるかの検証となります。 その他、王様の耳はロバの耳。 そこらで言えない事をこっそりと。 あくまで小説枠なのに、検閲が入るとか理解不能。 なので届くべき人に届けばそれでいいお話。 にして置きます。 分かる人には分かる。 響く人には響く。 何かの気づきになれば幸いです。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

悪魔の契約

田中かな
SF
ショートSFです。暇つぶしにどうぞ

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...