92 / 106
想い出は繰り返し……
2
しおりを挟む
──覗き野郎……! 判ったか? 俺は絶対、この強さを手放すつもりはねえ!
世之介に対し、風祭は迸る怒りを投げかけてきた。言葉と同時に、感情すらも伝わる。
──風祭、このままで良いのか? お前は暴れ回り、破壊を広げるだけだぞ。
世之介は説得を試みた。風祭の返答は、痛烈なものだった。
──破壊? 結構じゃねえか! 番長星が目茶目茶になれば、いい気味だ! 誰一人、俺を助けちゃくれなかった。俺が虐められても、黙って見てるだけ、いや、虐めたほうに声援を送る奴すらいた。番長星全部が、目茶目茶になればスッキリすらあ!
風祭は邪悪な笑みを浮かべ、天を仰いで哄笑する。怖ろしいほどの憎悪が形となり、風祭の全身を、めらめらと炎が取り巻く。
──そんなに強くなりたいのか……。
世之介はどうやって説得すればよいのか、途方に暮れる思いだった。それほど風祭の強さに対する感情は、頑ななものだった。
風祭は「はっ」と、軽蔑したような声を上げる。
──当たり前じゃねえか? 弱ければ舐められる。馬鹿にされる。俺を見ろ! この賽博格の身体なら、絶対に舐められねえ!
世之介は助三郎と格乃進の言葉を思い出していた。
──人間らしい感覚を捨て去ってもか?
風祭の表情に、微かに躊躇いが見てとれた。世之介は「ここだ!」と勢いづいた。
──風祭、最後に人間の食事を摂ったのは、いつのことだ?
風祭の頬が、ひくひくと痙攣する。
──そんなこと、お前の知ったことじゃねえ!
世之介は静かに語りかける。
──風祭、好きな娘はいなかったのか?
風祭の顔が、鬱血するかのように、どす黒く変色する。世之介の言葉が切っ掛けだったのか、急激に風祭の記憶の扉が抉じ開けられた。
記憶の奔流に、風祭は周章狼狽していた。
──よせ! 見るな! 見るな──っ!
風祭の前に、一人の少女の姿が映し出される。美人とはいえないが、素朴な顔立ちの、見るものをほっとさせる何かを持っていた。
少女は、哀しげに風祭を見詰めている。少女の唇が開き、語り掛ける。
──淳平、どうしても、賽博格になるって言うの? 本当に平気なの?
どこからか、もう一人の風祭の声が応える。
──ああ、平気だ! 俺は絶対、誰にも馬鹿にされたくないし、舐められたくもない。賽博格になれれば、誰にも負けない強さが手に入るんだ!
少女の顔が哀しみに曇った。項垂れ、背中を見せる。
──そう……。お大事に……。左様なら。
少女は、ゆっくりと歩み去った。風祭は右手を半ば上げ、口をポカンと開いていた。少女の姿が、ふっと消え去る。
風祭は、ゆるゆると首を振った。
──俺は、俺は……!
ぐっと顔を挙げ、世之介を睨みつけた。
──覗き野郎! 満足か?
世之介は首を横にした。
──風祭、お前が望むなら、元の人間に戻れるんだぞ。
風祭の両目が「信じられない」と、まん丸に見開かれた。
──嘘だ!
──いや、嘘じゃない。お前は現在、全身を微小機械に埋めている。お前を改造したのは微小機械だろう? だったら、元の身体に戻すことのできるのも、微小機械だけだ。
世之介の声には、揺ぎない確信が込められていた。世之介は、今の言葉が自分の中から出てきたのか、それとも、微小機械の集合意識から湧き出たのか、区別が判断できなかった。多分、両方なのだろう。
そうだ! 微小機械に命じれば、賽博格だって、元の人間に戻れるんだ! 細胞の一つ一つ、染色体の一本一本が微小機械の、分子の小ささの作業で実現できるのだ!
風祭の表情が絶望から、希望へと変わった。
──世之介。本当にできるんだな?
世之介は強く頷く。
──ああ、お前が望むなら。
風祭の背筋が伸びた。
──ああ、俺は、そう望む! 俺は、元の身体に戻りたい!
世之介は周囲に手を振って叫んだ。
──聞いたろう? 今の風祭の言葉を?
世之介の言葉に反応して、周囲の微小機械が一斉に反応を開始した。無数の微小機械が、光の流れとなって、風祭に集中する。全身を光に浸し、風祭は絶叫した。
世之介に対し、風祭は迸る怒りを投げかけてきた。言葉と同時に、感情すらも伝わる。
──風祭、このままで良いのか? お前は暴れ回り、破壊を広げるだけだぞ。
世之介は説得を試みた。風祭の返答は、痛烈なものだった。
──破壊? 結構じゃねえか! 番長星が目茶目茶になれば、いい気味だ! 誰一人、俺を助けちゃくれなかった。俺が虐められても、黙って見てるだけ、いや、虐めたほうに声援を送る奴すらいた。番長星全部が、目茶目茶になればスッキリすらあ!
風祭は邪悪な笑みを浮かべ、天を仰いで哄笑する。怖ろしいほどの憎悪が形となり、風祭の全身を、めらめらと炎が取り巻く。
──そんなに強くなりたいのか……。
世之介はどうやって説得すればよいのか、途方に暮れる思いだった。それほど風祭の強さに対する感情は、頑ななものだった。
風祭は「はっ」と、軽蔑したような声を上げる。
──当たり前じゃねえか? 弱ければ舐められる。馬鹿にされる。俺を見ろ! この賽博格の身体なら、絶対に舐められねえ!
世之介は助三郎と格乃進の言葉を思い出していた。
──人間らしい感覚を捨て去ってもか?
風祭の表情に、微かに躊躇いが見てとれた。世之介は「ここだ!」と勢いづいた。
──風祭、最後に人間の食事を摂ったのは、いつのことだ?
風祭の頬が、ひくひくと痙攣する。
──そんなこと、お前の知ったことじゃねえ!
世之介は静かに語りかける。
──風祭、好きな娘はいなかったのか?
風祭の顔が、鬱血するかのように、どす黒く変色する。世之介の言葉が切っ掛けだったのか、急激に風祭の記憶の扉が抉じ開けられた。
記憶の奔流に、風祭は周章狼狽していた。
──よせ! 見るな! 見るな──っ!
風祭の前に、一人の少女の姿が映し出される。美人とはいえないが、素朴な顔立ちの、見るものをほっとさせる何かを持っていた。
少女は、哀しげに風祭を見詰めている。少女の唇が開き、語り掛ける。
──淳平、どうしても、賽博格になるって言うの? 本当に平気なの?
どこからか、もう一人の風祭の声が応える。
──ああ、平気だ! 俺は絶対、誰にも馬鹿にされたくないし、舐められたくもない。賽博格になれれば、誰にも負けない強さが手に入るんだ!
少女の顔が哀しみに曇った。項垂れ、背中を見せる。
──そう……。お大事に……。左様なら。
少女は、ゆっくりと歩み去った。風祭は右手を半ば上げ、口をポカンと開いていた。少女の姿が、ふっと消え去る。
風祭は、ゆるゆると首を振った。
──俺は、俺は……!
ぐっと顔を挙げ、世之介を睨みつけた。
──覗き野郎! 満足か?
世之介は首を横にした。
──風祭、お前が望むなら、元の人間に戻れるんだぞ。
風祭の両目が「信じられない」と、まん丸に見開かれた。
──嘘だ!
──いや、嘘じゃない。お前は現在、全身を微小機械に埋めている。お前を改造したのは微小機械だろう? だったら、元の身体に戻すことのできるのも、微小機械だけだ。
世之介の声には、揺ぎない確信が込められていた。世之介は、今の言葉が自分の中から出てきたのか、それとも、微小機械の集合意識から湧き出たのか、区別が判断できなかった。多分、両方なのだろう。
そうだ! 微小機械に命じれば、賽博格だって、元の人間に戻れるんだ! 細胞の一つ一つ、染色体の一本一本が微小機械の、分子の小ささの作業で実現できるのだ!
風祭の表情が絶望から、希望へと変わった。
──世之介。本当にできるんだな?
世之介は強く頷く。
──ああ、お前が望むなら。
風祭の背筋が伸びた。
──ああ、俺は、そう望む! 俺は、元の身体に戻りたい!
世之介は周囲に手を振って叫んだ。
──聞いたろう? 今の風祭の言葉を?
世之介の言葉に反応して、周囲の微小機械が一斉に反応を開始した。無数の微小機械が、光の流れとなって、風祭に集中する。全身を光に浸し、風祭は絶叫した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
果てしなき宇宙の片隅で 序章 サラマンダー
緋熊熊五郎
SF
果てしなき宇宙の片隅で、未知の生物などが紡ぐ物語
遂に火星に到達した人類は、2035年、入植地東キャナル市北東35キロの地点で、古代宇宙文明の残滓といえる宇宙船の残骸を発見した。その宇宙船の中から古代の神話、歴史、物語とも判断がつかない断簡を発掘し、それを平易に翻訳したのが本物語の序章、サラマンダーである。サラマンダーと名付けられた由縁は、断簡を納めていた金属ケースに、羽根を持ち、火を吐く赤い竜が描かれていたことによる。
「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀
さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。
畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。
日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。
しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。
鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。
温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。
彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。
一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。
アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。
ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。
やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。
両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は?
これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。
完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~
風見星治
SF
平凡な男と美貌の新兵、救世の英雄が死の運命の次に抗うは邪悪な神の奸計
※ノベルアップ+で公開中の「G.o.D 神を巡る物語 前章」の続編となります。読まなくても楽しめるように配慮したつもりですが、興味があればご一読頂けると喜びます。
※一部にイラストAIで作った挿絵を挿入していましたが、全て削除しました。
話自体は全て書き終わっており、週3回程度、奇数日に更新を行います。
ジャンルは現代を舞台としたSFですが、魔法も登場する現代ファンタジー要素もあり
英雄は神か悪魔か? 20XX年12月22日に勃発した地球と宇宙との戦いは伊佐凪竜一とルミナ=AZ1の二人が解析不能の異能に目覚めたことで終息した。それからおよそ半年後。桁違いの戦闘能力を持ち英雄と称賛される伊佐凪竜一は自らの異能を制御すべく奮闘し、同じく英雄となったルミナ=AZ1は神が不在となった旗艦アマテラス復興の為に忙しい日々を送る。
一見すれば平穏に見える日々、しかし二人の元に次の戦いの足音が忍び寄り始める。ソレは二人を分断し、陥れ、騙し、最後には亡き者にしようとする。半年前の戦いはどうして起こったのか、いまだ見えぬ正体不明の敵の狙いは何か、なぜ英雄は狙われるのか。物語は久方ぶりに故郷である地球へと帰還した伊佐凪竜一が謎の少女と出会う事で大きく動き始める。神を巡る物語が進むにつれ、英雄に再び絶望が襲い掛かる。
主要人物
伊佐凪竜一⇒半年前の戦いを経て英雄となった地球人の男。他者とは比較にならない、文字通り桁違いの戦闘能力を持つ反面で戦闘技術は未熟であるためにひたすら訓練の日々を送る。
ルミナ=AZ1⇒同じく半年前の戦いを経て英雄となった旗艦アマテラス出身のアマツ(人類)。その高い能力と美貌故に多くの関心を集める彼女はある日、自らの出生を知る事になる。
謎の少女⇒伊佐凪竜一が地球に帰還した日に出会った謎の少女。一見すればとても品があり、相当高貴な血筋であるように見えるがその正体は不明。二人が出会ったのは偶然か必然か。
※SEGAのPSO2のEP4をオマージュした物語ですが、固有名詞を含め殆ど面影がありません。世界観をビジュアル的に把握する参考になるかと思います。
夢の骨
戸禮
SF
悪魔は人間に夢を問うた。人が渇望するその欲求を夢の世界で叶えるために。昏山羊の悪魔は人に与えた。巨額の富も、万夫不当の力も、英雄を超えた名声も全てが手に入る世界を作り出した。だからこそ、力を手にした存在は現実を攻撃した。夢を求めて、或いは夢を叶えたからこそ、暴走する者の発生は必然だった。そして、それを止める者が必要になった。悪魔の僕に対抗する人類の手立て、それは夢の中で悪夢と戦う"ボイジャー"と呼ばれる改造人間たちだった。これは、夢の中で渇望を満たす人間と、世界護るために命懸けで悪夢と戦う者たちの物語−
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる