ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

文字の大きさ
上 下
87 / 106
世之介の変身

3

しおりを挟む
 一同は、薄気味悪そうな顔を見合わせる。
 イッパチが、杏萄絽偉童アンドロイドの人工皮膚を真っ青にさせ、視線をあちこち彷徨わせながら、呟いた。
「今の笑い声は、なんとなく若旦那のお声に似ているような……」
 もう一度、世之介は笑い声を上げた。茜は怒ったような表情になる。
「世之介なの? 悪い冗談は止しなさい! どこに隠れているのよ?」
 言われて世之介は戸惑った。さて、自分は、どこにいるのか? 微小機械に呑み込まれた後、どうにもさっぱり、自分の身体を認識できていない。
 世之介はどうにかして、自分の姿を一同に見せたいという欲求に駆られた。微小機械は世之介の欲求に応えるべく、あらゆる接続を試した。
「わっ!」
 大声を発し、イッパチがぴょんと飛び上がった。へたへたと腰を抜かし、震える両手を合わせて叫び声を上げる。
「若旦那! 迷わず成仏して下さいよう!」
 何事かと、全員イッパチの見詰める方向を見る。
「世之介さん……」
 光右衛門が驚きに目を見開いた。
 助三郎が慎重に声を掛ける。
「もしや、世之介さんなのですか?」
 世之介は頷き、自分の身体を見下ろした。手の平を開き、まじまじと観察する。
「妙だ……透き通っている……」
 イッパチが泣き声を上げた。
「それどころじゃござんせん! 若旦那、お足が見えねえ……。こりゃ、てっきり成仏できずに、迷ってらっしゃるんでげしょ?」
 世之介の身体は透き通り、足下はふっと薄くなって、地面に消えている。とんと、幽霊である。
 助三郎が目を光らせ、口を開いた。
「どうやら立体映像ホログラフィを送っているようだ。しかし距離が遠く、はっきりとした映像にはなっていない」
 世之介は、にやっと笑った。それなら判る! 自分の立場がようやくハッキリし、落ち着きを取り戻した。
「どうも、妙な具合になっちまった。実は……」と世之介は微小機械に呑まれた後の経験を、詳しく語った。
 光右衛門は大きく頷いた。
「さもあらん! 世之介さんのガクランと、番長星の微小機械が、影響し合ったのでしょう。では、世之介さんは、ご無事なんですな?」
 世之介は肩を竦める。
「無事かどうか、良く判らない。なにしろ、自分が今、どうなっているのか、さっぱり判っていないんだ……」
 その時、格乃進が空を振り仰ぎ、緊張した声を上げた。
「皆、気をつけろ!」
 驚きに全員が格乃進の視線を追う。世之介は即座に、格乃進の警告を理解した。
【リーゼント山】の山頂から、どろどろとした微小機械の群れが、後から後から、まるで鍋から吹き零れる泡のように、盛り上がってくる。すでに山肌を伝い、全員の立っている場所へと近づいてきた。
 穿った出口に戻ろうと一瞬、穴の方向を見た助三郎であったが、すぐ断念した声を上げる。
「駄目だ! こっちからも溢れてくる!」
 助三郎の言葉どおり、穴の奥深くから、ぬらぬらとした黒い光沢が迫ってきていた。光右衛門は叫んだ。
「逃げるのです!」
 さっと助三郎と、格乃進は、各々光右衛門ら一同を抱きかかえ、微小機械から逃れるため走り出した。
 しかし全速力は出せない。抱きかかえたまま高速で動くと、抱きかかえた人間が、衝撃で酷い怪我、あるいは死亡すら懸念されるからだ。
 後には、狂送団の首領と、母親がぽつんと残されてしまった。首領は近づいてくる真っ黒な固まりを見詰め、ガタガタと震え出し、母親の巨体に取りすがった。
「ママ! ど、どうしよう……!」
 ぐわっ、と大津波のように真っ黒な微小機械が襲い掛かる。
 母親は必死に悲鳴を堪えていた。
 だが、首領は恥も外聞もあらばこそ、全身で悲鳴を上げ、喚いていた。どどっと殺到する微小機械が、二人の全身を呑み込んでいく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

禁煙所

夜美神威
SF
「禁煙所」 ここはとある独裁国家 愛煙家の大統領の政策で 公共施設での喫煙 電車・バス内での喫煙 歩きたばこまで認められている 嫌煙家達はいたる所にある 「禁煙所」でクリーンな空気を吸う 夜美神威 ナンバリングタイトル第6弾

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

処理中です...