ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

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超巨大バンチョウ・ロボ出撃!

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 風祭の巨体が、水槽に頭から飛び込んでも、飛沫はまったく上がらなかった。
 ずぼり、と埋まった風祭の全身は、波一つ立てず、あっさりと微小機械ナノ・マシーンが蠢く水槽に、一瞬にして消えている。
 微小機械は水のように見えて、実は目に見えないほどの粒子の集まりである。だから飛沫など上がるわけがない。
 水槽は、ぺたりと鏡のような表面のまま、静まり返っている。縁にじりじりと近寄った省吾は、はあはあと荒い息を吐きながら、恐る恐る覗き込んだ。
「馬鹿な……! 馬鹿な……!」
 同じことを何度も繰り返しながら、両手を戦慄かせた。
 五人の原色の制服を着用した【セイント・カイン】は、ぼーっとして馬鹿のように突っ立っている。「セイント・レッド」と名乗った、真っ赤な制服を着た男が、省吾に話し掛ける。
「あのー、僕ら何かお役に立てますか?」
「うるさい」とでも言うように、省吾は目を水面に釘付けにしたまま、腕を苛立たしく、ぶんぶん振り回す。
 レッドは所在無げに、頭を掻いた。
 世之介は光右衛門に話し掛けた。
「どうなっちまうんだ? 風祭の野郎、あん中に飛びこんじまったぜ」
「ふむ……。あの男の狙いは、微小機械に組み込まれた〝伝説のガクラン〟の作成記録を使って、自分の能力を高めるための改造ですな。恐らく、木村省吾が世之介さんのガクランの記録を微小機械に送り込む時点で、密かに自分だけの行動予定プログラムを組んでいたのでしょう」
 光右衛門の答に、世之介は首を傾げた。
「あいつはもう、賽博格に改造されちまっているぜ! それなのに、まだ改造したいのか? そんなことして、大丈夫なのか?」
 突然、水槽の表面がガバガバゴボゴボと音を立て、泡立ち始めた。瀝青タールのような、真っ黒な液体に似た微小機械が、一斉に活動を再開したのだ。
 ボコン、と大きく音を立て、直径三尺はあろうかと思われる巨大な泡が弾け、どぷんどぷんと大きく表面が波立った。
 省吾は「ひっ!」と小さく悲鳴を上げ、水槽から飛び退き、へたへたと腰を抜かしていた。
 状況を見て取った光右衛門は、表情を険しくさせ、手に持った杖をなかば掲げるようにして歩き出す。
 世之介は声を掛けた。
「爺さん! そこには障壁が……」
 光右衛門は手にした杖を掲げ、さっと横に薙ぎ払う。そのままスタスタと歩いていく。
 障壁の存在した辺りを、何らの障害もなく、あっさりと通過した。ちょっと振り向き、口を開く。
「もう障壁は存在しません」
 世之介は呆れて、あんぐりと口を開いた。助三郎に向かって尋ね掛ける。
「どうなっちまったんだ? あの爺さん、何をした?」
「爺さんは……」
 言いかけ、助三郎は慌てて自分の口を押さえた。いつの間にか世之介の口調が移ってしまったのだ。顔を真っ赤にさせ、息を整えてから、答える。
「ご隠居の手にした杖には、あらゆる障壁を中和する装置が仕掛けられている。重力障壁を作る重力子格子グラビトン・マトリックスは、ご隠居の杖で消去されたのだ」
 助三郎の説明に、世之介は驚きのあまり叫んでいた。
「そんなことができる爺いが、ただの隠居なんかじゃあるもんか! いったい、爺いの正体は、なんだ!」
 助三郎は謎めいた目つきになった。
「いずれ、判る……いずれな……」
 省吾の側へ近寄った光右衛門は、静かに話し掛ける。
「大番頭さん。ここにいつまでもいては危ない。早々に退散すべきではないですかな?」
「はあ?」
 省吾は馬鹿のように口を開け、光右衛門を見上げた。顔には一杯に汗が噴き出し、てらてらと光って見えていた。
 光右衛門は、そっと省吾の脇に手を入れる。
「さあ、立つのです! 愚図愚図はしていられませんぞ!」
 省吾は光右衛門の促しに、ギクシャクと出来の悪い傀儡人のように立ち上がる。光右衛門は助三郎と格乃進に鋭く声を掛けた。
「助さん! 格さん! さあ、このお人を避難させなさい!」
「はっ!」
 光右衛門の命令に、二人は素早く動いた。大股に省吾に近づくと、肩を貸してやる。省吾は二人に運ばれながらも、水槽を未練がましく見詰めていた。
 光右衛門は水槽の周りに立ち竦んでいた【セイント・カイン】の五人に声を掛けた。
「あなた方も逃げなさい!」
 威厳のある光右衛門の命令に、五人の身体に同時に電流が流れたかのようだった。五人はビクンと飛び上がるように動き出すと、あたふたと水槽から離れていく。
 やってきた壁の出入口を目指し、部屋から姿を消した。
「さあ、皆さん、逃げますぞ!」
 光右衛門は【セイント・カイン】の向かった先を目指しながら、大声で叫んでいた。世之介は、茜とイッパチを従え、光右衛門の後を追った。出入口に足を踏み込む直前、ちらりと水槽を振り向く。
 真っ黒な微小機械の群れが、水槽の真ん中から一本の蚊柱のように立ち上がっている。
 無数の黒光りする触手が蠢き、中心に何か、人間の形のようなものが垣間見える。風祭なのかどうか、世之介には見分けがつかない。
 出入口の扉が閉まり、あとは判らなくなった。
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