ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

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ウラバンの正体

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「あんただったのか……」
 世之介の言葉に、椅子に座った相手は、軽く肩を竦めた。
「あまり、驚かれていないようですな。世之介坊っちゃん!」
 世之介は深く頷いた。【リーゼント山】で最新型の浮揚機を目にした瞬間、今までの疑問が、一挙にある一点に集約したかのような閃きを、世之介に与えていた。
「どちら様ですかな? お二人はお知り合いなのですか?」
 光右衛門が口を開く。世之介は相手を睨みつけたまま、答えた。
「そう……。知り合いも知り合い。俺を、この番長星に送り込んだ張本人、但馬屋の大番頭の、木村省吾だ!」
 世之介の隣で、イッパチが全身を棒のように硬直させている。下顎だけがカクカクと、小刻みに震えていた。ようやく、声を振り絞った。
「大……番頭……さん! こりゃまた、いってえ、どうして……?」
 ジロリと木村省吾はイッパチを見た。省吾の凝視に、イッパチは電流が全身に流れたかのように、びくっと飛び上がる。
「お前は少し黙っていなさい!」
 鋭い叱声を上げたかと思うと、すぐ柔和な目付きに戻り、世之介の背後の光右衛門、助三郎、格乃進、最後に茜に目をやった。
「よろしく。そちらの四人様は、初めて御目文字しますね」
 但馬屋大番頭の木村省吾は、凄みのある笑みを浮かべ、椅子から立ち上がる。
 渋い柿色の着流しに、但馬屋の屋号が染め抜かれている印半纏と、前掛けをして、腰には大福帳を下げている姿は、どう見ても実直な商人あきんどにしか見えない。
「但馬屋の……大番頭」
 さすがに光右衛門は省吾の正体を知って、驚きの表情を浮かべている。
 茜が疑問を投げかけた。
「ねえ、あんた【ウラバン】なの?」
 茜の言葉に、省吾は片頬に笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。
「左様、わたくしが、番長星の【ウラバン】なんです。勝又茜さん、と仰いましたかね」
 茜は目を一杯に見開いた。
「あたしのこと、知っているの?」
「はい。よおく、知っておりますよ。確か、お兄さんの消息をお尋ねになりたいのでしょう?」
「お兄ちゃんがいるの? ここに?」
 茜は前のめりになって叫ぶ。今にも省吾の前に駆け出しそうになる。いや、実際に駆け出していた。
 が、数歩進んだところで、どすんと茜の身体が何かに遮られる。省吾は優しく声を掛けた。
「気をつけて! そこには重力障壁バリアが張られているから、強引に押し通ることはできませんよ。まあ、当座の用心ってやつですな」
 茜の身体は、何か弾力性のあるものに押し返されたように、あっさり跳ね返された。顔を真っ赤にさせ、目には涙を溜めていた。
「教えてよ! お兄ちゃんはどこ?」
 省吾は宥めるように手を上げた。
「後です! 今はまず、世之介坊っちゃんと少しお話があるのです。坊っちゃん、少し見ない間に、見違えましたなあ!」
 世之介はふーっ、と大きく息を吐き出した。
「ああ、俺は変わった。あんたのおかげでね。この〝伝説のガクラン〟が、俺を変えた。教えてくれ。こいつを俺が手に入れるよう細工したのは、あんただろう?」
 省吾は「くくっ」と小さく笑った。
「ご名答! 坊っちゃんが、番長星に不時着したら手に入れるように、手配しました」
「どうやって、そんな芸当ができたんだ。いや、そもそも、俺を番長星に招いた仕掛けは、なんだ?」
 省吾の目付きが深くなる。
「もう推察はついていると思いますが?」
 世之介は顎を上げた。
「あんたの口から聞きたい!」
「よろしい!」
 省吾は再び椅子に腰掛けた。ちょっと空中に手をやり、ひらひらと手の平を閃かせる。すると全員の背後に、床から椅子が迫り出してきた。
「話は長くなりますから、楽にして頂きたい。どうぞ、お座りなさい!」
 光右衛門が、まず座った。茜も、すとんと身体の力が抜けたように腰掛ける。イッパチは、へたり込むように尻を乗せた。
 立ったままなのは、世之介と助三郎、格乃進の三人である。省吾は眉を顰める。
「お座り下さい、と申し上げたのですが」
 世之介は腕を背中に回し、胸を張った。
「俺は、これでいい!」
 二人の賽博格も無言で頷く。
 省吾は軽く頷いた。両手の指先を合わせ、金字塔ピラミッドの形にして、顎を引き寛ぎの姿勢をとった。
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