ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

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ウラバンの正体

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 浮揚機は無人であった。
 無音で屋上にふわりと着地すると、世之介たちを出迎えるように両側の羽根扉ガル・ウイングがぱくりと開く。座席は人数分、ある。
 光右衛門が最初に口を開いた。
「それでは、参りますかな?【ウラバン】殿のお招きとあれば」
 軽快に慣れた様子で扉を潜り、内部の座席に腰を落ち着かせた。急いで助三郎、格乃進も潜り込む。
 茜、イッパチと乗り組み、残るは風祭と世之介になった。
 世之介は風祭を見た。風祭は乗り込む様子を見せず、ただ突っ立ったまま、ニヤニヤ笑いを浮かべている。目顔で尋ねる世之介に、風祭は肩を竦めて見せた。
「俺は行かねえ。お前たちだけで【ウラバン】に会えば良い」
「そうか」と短く答え、世之介は最後に乗り込んだ。何を考えているのか知らないが、一緒に従いてこられるほうが剣呑そうだ。
 世之介が席に腰を下ろすと同時に、扉が静かに閉まり、浮揚機は再び空中に浮かび上がった。茜は初めての経験らしく、目をきょときょとと落ち着かなく彷徨わせ、窓に鼻をくっつけるようにして、外を覗き込んでいる。
 世之介は窓から屋上を見下ろす。風祭が顔を挙げ、こちらを見上げている。浮揚機が向きを変えると、風祭はくるりと踵を返し、戻っていった。
 浮揚機は静かに【リーゼント山】に近づくと、山頂に向かって進路を取った。日差しは夕暮れに近づき、ほぼ真横から差している。
 金色の光を浴びた【リーゼント山】は、金髪に染め上げられたリーゼントの頭髪そのものであった。完全に左右対称で、念入りに電髪パーマを当てられた髪形である。
 イッパチは興味深そうに、浮揚機の操縦装置を覗き込んだ。
「若旦那、こいつは大江戸で評判の、最新型の浮揚機でござんすよ。いったいなんで、こんな代物が、番長星にあるんでしょうね?」
「それも【ウラバン】とやらに会えれば、判ると思いますな」
 光右衛門が静かに呟いた。世之介は身を乗り出し、目を細める。
「爺さん、あんた、もしかしたら、俺と同じことを考えているんじゃないのか?」
 光右衛門は無言で世之介を見詰め、微かに頷いて見せた。茜は首を傾げる。
「何なの、同じ考えって?」
「いや……」と世之介は答を濁した。今は言葉に出したくはない。
 浮揚機は【リーゼント山】の山頂に差し掛かり、空中で静止した。
 静々と降下して行くと、山頂にぽかりと格納庫が開く。内部は掘り抜かれ、空洞になっている様子だ。
 格納庫は驚くほど広かった。浮揚機を収容するには大きすぎる。宇宙船一つ、そっくり収容できるほどだ。
 浮揚機が着地すると、格納庫の天井が閉まっていく。羽根扉が開いて、世之介たちは格納庫の床に降り立った。
 がらんとした格納庫には、あちこち梱包された荷が散在していた。格納庫の片隅に鋭励部威咤エレベーターがあり、扉が大きく開かれている。
「その鋭励部威咤に乗りなさい」
 出し抜けに拡声器から声が響き、世之介は、ぎょっとなって立ち止まった。
「誰だ! お前が【ウラバン】か?」
 叫ぶが、応えは無い。格納庫はしん、と静まり返り、先ほどの声が嘘のようだ。
 世之介は下唇を噛みしめた。
「ようし、乗ってやろうじゃないか!」
 率先して鋭励部威咤に向かう。ぞろぞろと世之介を先頭に、全員が乗り組んだ。
 途端に、扉が閉まった。階数表示はない。鋭励部威咤が降下しているのは、微かな感覚でしか判らない。
 イッパチはしきりに唇を舐め、緊張している表情である。茜もまた、両拳をぎゅっと握りしめ、身を硬くしている。
 光右衛門、助三郎、格乃進の三人はまったく態度を変えない。泰然として、落ち着き払っている。
 やがて降下は止まった。溜息のような音がして、扉が開かれる。
 薄暗い室内に、ぽつりと天井から弱々しい明かりが灯り、その真下に背の高い椅子が置かれている。誰か座っている気配だが、背中を向けて置かれているため、姿は見えない。
 世之介が近づくと、ぐるりと椅子が回転して、座っていた人物が、こちらを向いた。
 世之介は立ち竦んだ。椅子に座り、世之介を出迎えたのは、世之介のよく見知っている人物であった。
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