ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

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ウラバンの正体

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 ぴりぴりとした緊張がその場を支配している。
 先頭に立った風祭は、明らかに背後に続く助三郎と、格乃進を気にしている。また、二人の賽博格も、風祭がいつ暴れ出すか、油断なく様子を窺っているようだった。
 そんな緊張を感じとっているのか、イッパチは目玉をグリグリと動かし、時々ごくりと唾を飲み込む仕草を見せる。
 堪らなくなったのだろう、イッパチは甲高い声で風祭に声を掛ける。
「あのう、風祭の旦那! いってえ、【ウラバン】は、どこにいらっしゃるんで?」
「【リーゼント山】だ!」
 風祭は背中を見せたまま、短く答える。
 イッパチは首を捻った。
「へえ……。それにしちゃ、あたしたち、校舎の階段を登っていますねえ。【リーゼント山】に行くのなら、一旦は外へ出なきゃならないんじゃ、ねえですか?」
「いいんだ、これで!」
 怒ったように風祭は答え、イッパチは「へえ」と首を竦めた。
 世之介も、疑問に感じていた。
 確かに風祭は、一同を案内して、おそらく屋上へ通ずるであろう内階段を登っている。目の前の壁に、階数を表示する案内板が次々と表れ、下へと消えていく。すでに階数は、十回分は登っていた。
 杏萄絽偉童のイッパチや、助三郎、格乃進の賽博格。これくらいの階数を登ってもなんともないが、老齢の光右衛門が息も切らさず従いてくるのは、驚きだった。手には杖を持っているだけだが、軽い足取りで階段を登っている。
 実を言うと、狂送団の団員、それに野次馬の連中も従いてこようとしていたのだった。
 が、黙々と一同が階段を登るにつれ、一人減り、二人脱落し、ついにはこの顔ぶれしか残っていない。たった数階分だけ登っただけで連中は息が切れ、へたり込んでしまった。身につけている衣服に「根性」と刺繍されているにも関わらず、完全に根性なしである。
 茜もまた息を切らし、途中で座り込んでしまった。だが、それでも、ぐっと立ち上がると、必死になって従いてくる。多分【ウラバン】に会って、兄のまさるの消息を尋ねたい一心なのだ。
 ふと、世之介は風祭に質問した。
「なあ、どうしてこれだけの建物に、昇降階段エスカレーターくらい、無いんだ?」
「そんな物、ねえ! そんな物に頼るなんて、恥知らずもいいところだ」
 風祭は妙な所で力む。昇降階段を設置しないのも、番長星特有の論理なのだろう。
 そのまま一同は、黙り込んで階段を登っていく。ようやく目の前に、屋上を示す階数表示が現れた。
 がちゃり、と扉を開き、風祭は屋上へと足を踏み出した。風祭の、樽のような身体つきの隙間から、番長星の菫色の空が見える。
 目の前には【リーゼント山】が聳えていた。
 屋上には強い風が吹いていた。風が、世之介のリーゼントの髪を靡かせる。長い髪が踊り、茜は慌てて髪の毛を押さえていた。
 屋上の端に歩み寄り、風祭は無言で山を見上げている。何かを待っている様子である。視線の先には【リーゼント山】の頂上があった。
 黙って世之介も風祭の横に立ち、【リーゼント山】を見上げる。
 山の頂上に、何かが日差しを受けキラリと輝いた。輝きは、すい、と浮かび上がり、空中で方向を変え、こちらへ近づいてくる。
 世之介は、目を見開いた。
 あれは……! 浮揚機フライヤーだ!
 江戸で見るような、一般的な重力制御機構を備えた、浮揚機である!
 茜を見ると、顔にはまるで驚きというものが浮かんでいない。世之介は話し掛けた。
「あんなもの、見たことあるのか?」
 茜は「ううん」と、かぶりを振った。
「見たことないわ。何なの、あれ?」
 つまり、知らないものを初めて目にし、驚くという感情が浮かばなかったのだ。世之介が番長星で見た初めての空中浮揚機に驚いたのは、今まで見た番長星の科学技術に、重力制御を使用した形跡が全く見られなかったからである。重力制御は、一度でも使用されると、隠し切れない影響を与えるものだ。
 例えば、建物の形状である。重力制御技術を使えば、地上数百階、数千階だろうが、どんな奇抜な外見だろうが、思いのままに設計できる。江戸の建物には、総て重力制御機構が組み込まれ、通常なら建設することすら不可能なほど重心が偏った建物でも、建築可能にさせるのだ。
 番長星には、重力制御を使用した形跡は一切、存在していないことは、確かである。しかし、こちらに近づいてくるのは、明らかに重力制御を使用した浮揚機だ。
 ということは……。
 世之介は腕を組み、待ち受けた。
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