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臆病試練
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「本当にやるの?」
茜が心配そうな表情を浮かべ、世之介に話し掛ける。世之介は無言で頷いた。
もう引っ込みはつかない。
世之介は球体に繋がる板の端に来ていた。板の先は球体の入口に繋がっている。板の幅は二尺あまり。当然、手摺などない。
もし足を滑らせたら、空中にまっ逆さまに転落し、吹き抜けの床に落下して、命を失うのは明らかだ。
向こう側の板には、風祭が立っている。表情にはからかうような笑みを浮かべている。
風祭の横には、一台の軽快そうな形状をした二輪車があった。世之介の隣にも、同じような二輪車が控えてある。
これから二人は二輪車に跨り、板を突っ切り球体の内部へ飛び込む。内部に飛び込むと入口は塞がれ、完全な密室となる。球体の内側の壁を全力で疾走し、二輪車同士で決闘をするのだ! 一寸でも梶棒を緩めると、二輪車の勢いは失われ、もし球体の天井近くを走っていた場合、直ちに落下して運が悪ければ、いや確実に二輪車の下敷きになり、大怪我、ひょっとして落命すらありえる。
命懸けの勝負である!
世之介はさっと二輪車の鞍に跨る。事前の説明では、この二輪車は純粋に競技用に設計され、番長星の二輪車に装備されている自立機構は組み込まれていない。従って、もし均衡を一瞬でも失うと、すぐさま転倒する。
梶棒を握りしめ、世之介は二輪車の動力を一杯に噴かした。二輪車の動力部分からは微かに「ウイーン」という動力音が聞こえてくるが、番長星で見かけた通常の二輪車のような「ぐわわわーん!」という喧しい騒音は一切聞こえない。まさに競技用。余計な機能は、唯の一つも装備されていないのだ。
制動装置を指から離し、世之介は二輪車を全速力で飛び出させた。反対側で風祭も同じように飛び出す。車輪の下は、細い板一枚のみ。ほんの少しでも車輪を踏み外せば、命はない!
二台の二輪車は球体の入口に飛び込んだ。さっと入口が塞がれ、内部は完全な球になる。
たん、と軽く音を立て、世之介の二輪車は球体内部の床に着地した。ぎしっ、と一瞬、空中から落下した二輪車の衝撃吸収発条が落下の衝撃を受け止め、軋んだ。
ゆっくりと二台は、円を描きながら球体の内部を回り始めた。加速が充分ではないので、球体の下の部分を回っている。
風祭は大声で叫んでいた。
「この試練で、俺は何人もの臆病者をやっつけてやった! 板を渡れない奴もいた。板を渡って、この中に入れた奴も、終いには臆病風に吹かれて、梶棒を戻しやがって、床に叩きつけられ、病院送りになった奴が大勢いる。お前はどうかな?」
「余計なお喋りは無駄だぜ! お前こそ、ブルってるんじゃないのか?」
世之介が叫び返すと、風祭は口を真っ直ぐに引き結び、真剣な表情になった。
「その言葉、後悔させてやる!」
ぐっと肩を張ると、風祭は二輪車を全速力で走らせる。怖ろしいほどの加速がついた二輪車は、球体の内側の壁を駆け上がり、あっという間に天井近くに達する。その加速のまま、風祭は世之介の二輪車に猛然と突っ込んでくる。
世之介は寸前に二輪車を加速させ、風祭の突進を避ける。世之介の二輪車も、球体の内側を駆け上がり、ほぼ地面と直角になって、ぐるぐると回転を続けた。
球体は壁に鋼鉄の綱で固定されているので、二輪車が加速すると、ぐらぐらと揺れる。さらに二輪車は二台で思い思いの方向に回転しているから、揺れは複雑な踊りのように、思いもかけない方向に揺れるのだ。
球体の内部を駆け上がり、駆け下りる走行を何度も繰り返す。その度に天井の明かりがちらちらと瞬き、球体の籠から洩れる光が奇妙な光と影を作り出す。
世之介は歯を食い縛った!
茜が心配そうな表情を浮かべ、世之介に話し掛ける。世之介は無言で頷いた。
もう引っ込みはつかない。
世之介は球体に繋がる板の端に来ていた。板の先は球体の入口に繋がっている。板の幅は二尺あまり。当然、手摺などない。
もし足を滑らせたら、空中にまっ逆さまに転落し、吹き抜けの床に落下して、命を失うのは明らかだ。
向こう側の板には、風祭が立っている。表情にはからかうような笑みを浮かべている。
風祭の横には、一台の軽快そうな形状をした二輪車があった。世之介の隣にも、同じような二輪車が控えてある。
これから二人は二輪車に跨り、板を突っ切り球体の内部へ飛び込む。内部に飛び込むと入口は塞がれ、完全な密室となる。球体の内側の壁を全力で疾走し、二輪車同士で決闘をするのだ! 一寸でも梶棒を緩めると、二輪車の勢いは失われ、もし球体の天井近くを走っていた場合、直ちに落下して運が悪ければ、いや確実に二輪車の下敷きになり、大怪我、ひょっとして落命すらありえる。
命懸けの勝負である!
世之介はさっと二輪車の鞍に跨る。事前の説明では、この二輪車は純粋に競技用に設計され、番長星の二輪車に装備されている自立機構は組み込まれていない。従って、もし均衡を一瞬でも失うと、すぐさま転倒する。
梶棒を握りしめ、世之介は二輪車の動力を一杯に噴かした。二輪車の動力部分からは微かに「ウイーン」という動力音が聞こえてくるが、番長星で見かけた通常の二輪車のような「ぐわわわーん!」という喧しい騒音は一切聞こえない。まさに競技用。余計な機能は、唯の一つも装備されていないのだ。
制動装置を指から離し、世之介は二輪車を全速力で飛び出させた。反対側で風祭も同じように飛び出す。車輪の下は、細い板一枚のみ。ほんの少しでも車輪を踏み外せば、命はない!
二台の二輪車は球体の入口に飛び込んだ。さっと入口が塞がれ、内部は完全な球になる。
たん、と軽く音を立て、世之介の二輪車は球体内部の床に着地した。ぎしっ、と一瞬、空中から落下した二輪車の衝撃吸収発条が落下の衝撃を受け止め、軋んだ。
ゆっくりと二台は、円を描きながら球体の内部を回り始めた。加速が充分ではないので、球体の下の部分を回っている。
風祭は大声で叫んでいた。
「この試練で、俺は何人もの臆病者をやっつけてやった! 板を渡れない奴もいた。板を渡って、この中に入れた奴も、終いには臆病風に吹かれて、梶棒を戻しやがって、床に叩きつけられ、病院送りになった奴が大勢いる。お前はどうかな?」
「余計なお喋りは無駄だぜ! お前こそ、ブルってるんじゃないのか?」
世之介が叫び返すと、風祭は口を真っ直ぐに引き結び、真剣な表情になった。
「その言葉、後悔させてやる!」
ぐっと肩を張ると、風祭は二輪車を全速力で走らせる。怖ろしいほどの加速がついた二輪車は、球体の内側の壁を駆け上がり、あっという間に天井近くに達する。その加速のまま、風祭は世之介の二輪車に猛然と突っ込んでくる。
世之介は寸前に二輪車を加速させ、風祭の突進を避ける。世之介の二輪車も、球体の内側を駆け上がり、ほぼ地面と直角になって、ぐるぐると回転を続けた。
球体は壁に鋼鉄の綱で固定されているので、二輪車が加速すると、ぐらぐらと揺れる。さらに二輪車は二台で思い思いの方向に回転しているから、揺れは複雑な踊りのように、思いもかけない方向に揺れるのだ。
球体の内部を駆け上がり、駆け下りる走行を何度も繰り返す。その度に天井の明かりがちらちらと瞬き、球体の籠から洩れる光が奇妙な光と影を作り出す。
世之介は歯を食い縛った!
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