ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

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【ツッパリ・ランド】

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「【ウラバン】に会いたいのか?」
 石臼の挽き音のような、ゴロゴロとした低音が、その場を支配する。ぺたりと地面に腰を抜かした隆志は、声の主に喜色を浮かべた。
「風祭さん!」
 その通りだった。
 ずっしりとした樽のような身体つき。まるで人間の形をした戦車がその場に立っているかのような、異様な巨体である。
 風祭は両拳を腰に当て、七尺あまりの高みから、世之介を冷ややかな表情で見下ろしていた。世之介は負けじと睨み返す。
「そうだ! 【ウラバン】とかいう、こそこそ隠れるのが好きな、卑怯者に会いたいのさ」
 風祭の顔に、僅かに怒りの色が浮かぶ。もともと風祭の顔は賽博格の人工皮膚で、感情を表すことが苦手であった。
「何だと! もう一遍、言って見ろ!」
 世之介は、せせら笑った。
「卑怯者と言ったんだ! そうじゃないか! 【ウラバン】だか、裏磐梯山か知らないが、誰も直接には会えない謎の存在らしいな、そいつは……。きっと、俺たちに直に会うのが怖くて、コソコソ震えながら隠れているんじゃないのか?」
「むううう~!」
 風祭は低く唸った。ごつごつとした岩を刻んだような顔面に、精一杯の怒りが浮かぶ。
 世之介は、さらに嘲笑を浴びせかけた。
「悔しかったら、さっさと自分から、俺たちの前に出てこいってんだ! 【リーゼント山】に隠れているんだろ? はっはあ! まるで相撲取りのような名前だなあ。ひっがしい~【リーゼント山】……。にっしい~……隠れんぼ川なんてのは、どうだい?」
 風祭はくわっ、と大口を開け、怒りの咆哮を解き放った。それは、まさに轟音といってよく、まるでジェット戦闘機の爆音であった。
 わあっ! とその場にいた全員が、ばたばたと見っともなく逃げ散っていく。びりびりと背後の校舎のガラス窓が一枚残らず、風祭の叫びに震動していた。
 隆志は風祭の怒りの咆哮にまともに向かい合う羽目になり、地面をころころと、ピンポン球のように転がっていく。
 世之介は風祭の咆哮に真正面から立ち向かった。一歩も引かず、地面にしっかりと両足で踏ん張っている。が、風圧に、ずりずりと何寸かは動いたようだ。
 風祭は、ほっと溜息を吐いた。目を細める。
「本当に【ウラバン】に会いたいのか?」
 世之介は無言で頷いた。
 巨人は、くるりと背を向けた。
「従いてこい! そんなに会いたいのなら、験しテストをしてやる」
「験し?」
 風祭は首だけねじ向け、ニッタリと笑いを浮かべる。
「そうさ、臆病試練チキン・ランって、ここでは呼んでいるがね」
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