ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

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真夜中の狂送曲

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「これより暴走半島」と記された横断幕を通過して程なく、地平線にあっという間に太陽は沈み、深々とした藍色の夜空が広がった。
 助三郎の説明によると、番長星の大気は分厚く、大気の成分は光の散乱が大きいため、真夜中になっても完全に暗くはならない。それに、番長星の夜空には月が昇っていた。
「月が見えらあ!」
 世之介が思わず歓声を上げると、格乃進が含み笑いをして解説した。
「あれは、月ではない。番長星に到着した、最初の殖民船の光帆ライト・セールだ」
「光帆?」
 世之介が尋ねると、格乃進は頷いた。
「そうだ、直径二百五十里(約一千キロ)もある、円形の帆なのだ。番長星に最初に到着した殖民星は、超空間ワープ航法を採用する以前の型で、地球からレーザー光を受けて、光の圧力で推進する。その時の残りが、番長星の衛星軌道を周回して、夜を照らし出している訳だ。地球の月に比べれば、三分の一ほどの直径しかないが、反射能アルベドは一に近く、物凄く明るい。本来は昼間の太陽と同じくらい輝くはずだが、月と同じくらいの光量に抑えるため、表面をわざと汚して暗くしているのだ」
 世之介は、格乃進の説明に納得した。
 横断幕を通過してからは、家一軒、便利店舗コンビニすら道路の両側には見えてこない。そろそろ今夜の宿を決めなくてはならない時刻だが、助三郎と格乃進の二人は、二輪車を同じ速度で走らせている。
 世之介は、ちら、と隣を併走する茜を見やった。
 茜は、明らかに疲労困憊した様子で、眠いのか、時折うとうと把手ハンドルを掴んだまま座席で舟を漕いでいる。
 助三郎の側車に乗っているイッパチは、すでに白河夜船で、がくりと顔を仰向け、大口を開けて、ごうごうと高鼾を掻いている。
 二輪車の前照燈ヘッドライトのみが、道路を白々と切り裂いていた。
 不思議と世之介は眠くならない。目は、ぱっちりと見開き、緊張感は一切、鈍っていない。
 やはり〝伝説のガクラン〟のせいだろうか。ガクランは、世之介の生理すら支配するのだろうか?
 ふと、側鏡サイドミラーに目をやった世之介は、背後から数個の前照燈の光が瞬いているのに気付いた。前照燈はこちらへ向かって、ずんずん近づいてくる。

 ぱらぱらぱら……ぐああああんん……!

 けたたましい騒音を撒き散らし、数台の二輪車、四輪車が集団となって、猛烈な速度で接近してくる。
 びくっ、と併走していた茜は目を見開き、慌てて背後を見やる。茜の表情は、瞬間的に恐怖の色を浮かべる。
「大変! 狂送団マッド・マックスだわ!」
「何だ、そりゃ?」
 世之介は、茜の只ならぬ気配に、尋ねかけた。茜は唇を噛みしめ、早口に説明する。
「暴走半島のツッパリ・グループなの! あいつら、あたしたちと違って、掟だとか、規律なんか一切合切、平気で無視する危険な奴らよ! 縄張りを通る総ての二輪車や、四輪車に敵意を持っているの! 追いつかれたら、何されるか判んない!」
 世之介は茜の説明を聞いて、なぜだか、ひどく胸が高鳴るのを感じていた。
 そう来なくちゃ!
「面白え……!」
 世之介の呟きに、茜は呆れたように、あんぐりと口を開けた。世之介の呑気さに苛ついたのであろうか、表情が真剣になった。
「面白いなんて、言ってられないわ! あいつら、危険よ! 超危険だわ!」

 ぐわああああん!

 怖ろしいほど大音量の騒音が、夜の路面に響き渡っている。
 助三郎と格乃進は、二輪車の把手を握りしめ、表情は厳しく引き締まった。側車の光右衛門も、怖れの表情は欠片も見せず、眉を険しくさせるだけである。
 光右衛門の様子を目にし、改めて世之介は「この老人は何者なのだろう?」と思った。
 ただの旅好きの隠居にしては、度胸が据わっているし、明らかに危険が接近しているにも関わらず、糞落ち着きに落ち着き払っている。
 たとえ二人の賽博格による護衛があるとしても、考えられないほどの泰然とした様子である。
 第一、賽博格を護衛にするなど、普通の老人では絶対に不可能だ……。
 いったい光右衛門とは、どこの何者だ?
 背後からの前照燈の光が、闇を切り裂き、世之介の顔を眩しく照らし出す。世之介は、それまでのまどろっこしい自問を忘れた。
 狂送団が、ついに追いついてきたのだ。
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