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工場の秘密
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工場の正門に近づいていくと、傀儡人の守衛が一同を出迎える。ひょろりとした姿の傀儡人は、ぶかぶかした保護帽を被り、両手をゆっくりと動かして、入口へと誘導した。
「ようこそ、いらっしゃいませ! 何か、御用でしょうか?」
傀儡人はざらざらした声で話し掛けてくる。あまり優秀な発語回路が組み込まれていないと見える。口調はぎこちなく、途切れがちであった。
光右衛門が側車から顔を突き出し、声を掛けた。
「我々は旅の者ですが、後学のため見学をしたいのです。どなたか、責任者のお方に、通告いたして貰えませんかな?」
「見学……」
傀儡人は、明らかに面食らった態度をとった。両目のレンズがぴかぴかと瞬き、頭部がぐるりと三百六十度、一回転する。
そのまま、ぴたりと静止した。傀儡人の内部で「じー、じー」という微かな音がしている。多分、体内の無線装置を働かせているのだ。
静止したのは一瞬で、ぎくしゃくと傀儡人は頷いた。
「失礼致しました。ただ今、工場の〝支配頭脳〟と連絡を取りましたところ、皆様方を案内するよう、指示がありました。では、二輪車をお降りになり、こちらへどうぞ」
「〝支配頭脳〟? なんですかな、それは」
よっこらしょと側車から外へ出て、光右衛門が質問する。傀儡人は考え考え、ゆっくりと答える。
「この工場の総てを監督する、頭脳です。工場の最も奥深くに位置し、自分では動けませんが、私ども総てを監督します。私どもは支配頭脳を〝バンチョウ〟と呼びます」
傀儡人の言葉に、一同は仰天した。
「バンチョウ? それは、人間のことでしょう? ここに人間がいるの?」
茜が叫ぶと、傀儡人は否定するかのように首を振る。
「ここには人間は、一人もいません。すべて私どものような、被創造物が作業を行っております」
格乃進が呟いた。
「おそらく、規模の大きな電子頭脳なのでしょう。工場の生産を監督するため、自分で動く必要がないのでは? しかし、なぜバンチョウなのでしょう?」
格乃進の説明に、光右衛門は頷き返す。
「その疑問は、後にして、実に静かですな。工場というのに、稼動していないのでしょうか?」
格乃進の背後から助三郎が目を奇妙に光らせ、口を開いた。助三郎は、両目の分析装置を働かせているらしい。
「あの工場の換気口などを観察しておりますが、人間の呼気に含まれる二酸化炭素の排出を全く感知しません。多分、工場は無人なのでしょう。しかし中性微子放射は壮んです。間違いなく、稼動しております」
「成る程」と光右衛門は二人の説明に頷き、世之介を見上げ、口を開いた。
「あなたは、どう致します? わしは、一緒に案内して貰いますが」
世之介は二輪車から降り立ち、返事をする。
「俺も行くさ、爺さん!」
世之介の返事に、格乃進と助三郎の、人工皮膚が真っ赤に染まった。眉が上がり、目尻が吊り上がった。助三郎は、怒りに、声が軋る。
「せめて我らと同じように、ご隠居様と呼び掛けられないのか! 何だ、爺さんとは!」
光右衛門は二人の賽博格を宥めるように両手を上げた。
「格さんも、助さんもそう、怒るべきではありませんぞ! わしは、旅の爺い。世之介さんが爺さん呼ばわりしたところで、その事実は変わりありませんからな!」
にこにこと話し掛ける光右衛門に、格乃進と助三郎は肩の力を抜き、慇懃に頷いた。
光右衛門は守衛の傀儡人に顔を向けた。
「それでは、案内して貰いましょう」
傀儡人は頷き、かくかくと手足を動かして、工場の建物に向かった。
「ようこそ、いらっしゃいませ! 何か、御用でしょうか?」
傀儡人はざらざらした声で話し掛けてくる。あまり優秀な発語回路が組み込まれていないと見える。口調はぎこちなく、途切れがちであった。
光右衛門が側車から顔を突き出し、声を掛けた。
「我々は旅の者ですが、後学のため見学をしたいのです。どなたか、責任者のお方に、通告いたして貰えませんかな?」
「見学……」
傀儡人は、明らかに面食らった態度をとった。両目のレンズがぴかぴかと瞬き、頭部がぐるりと三百六十度、一回転する。
そのまま、ぴたりと静止した。傀儡人の内部で「じー、じー」という微かな音がしている。多分、体内の無線装置を働かせているのだ。
静止したのは一瞬で、ぎくしゃくと傀儡人は頷いた。
「失礼致しました。ただ今、工場の〝支配頭脳〟と連絡を取りましたところ、皆様方を案内するよう、指示がありました。では、二輪車をお降りになり、こちらへどうぞ」
「〝支配頭脳〟? なんですかな、それは」
よっこらしょと側車から外へ出て、光右衛門が質問する。傀儡人は考え考え、ゆっくりと答える。
「この工場の総てを監督する、頭脳です。工場の最も奥深くに位置し、自分では動けませんが、私ども総てを監督します。私どもは支配頭脳を〝バンチョウ〟と呼びます」
傀儡人の言葉に、一同は仰天した。
「バンチョウ? それは、人間のことでしょう? ここに人間がいるの?」
茜が叫ぶと、傀儡人は否定するかのように首を振る。
「ここには人間は、一人もいません。すべて私どものような、被創造物が作業を行っております」
格乃進が呟いた。
「おそらく、規模の大きな電子頭脳なのでしょう。工場の生産を監督するため、自分で動く必要がないのでは? しかし、なぜバンチョウなのでしょう?」
格乃進の説明に、光右衛門は頷き返す。
「その疑問は、後にして、実に静かですな。工場というのに、稼動していないのでしょうか?」
格乃進の背後から助三郎が目を奇妙に光らせ、口を開いた。助三郎は、両目の分析装置を働かせているらしい。
「あの工場の換気口などを観察しておりますが、人間の呼気に含まれる二酸化炭素の排出を全く感知しません。多分、工場は無人なのでしょう。しかし中性微子放射は壮んです。間違いなく、稼動しております」
「成る程」と光右衛門は二人の説明に頷き、世之介を見上げ、口を開いた。
「あなたは、どう致します? わしは、一緒に案内して貰いますが」
世之介は二輪車から降り立ち、返事をする。
「俺も行くさ、爺さん!」
世之介の返事に、格乃進と助三郎の、人工皮膚が真っ赤に染まった。眉が上がり、目尻が吊り上がった。助三郎は、怒りに、声が軋る。
「せめて我らと同じように、ご隠居様と呼び掛けられないのか! 何だ、爺さんとは!」
光右衛門は二人の賽博格を宥めるように両手を上げた。
「格さんも、助さんもそう、怒るべきではありませんぞ! わしは、旅の爺い。世之介さんが爺さん呼ばわりしたところで、その事実は変わりありませんからな!」
にこにこと話し掛ける光右衛門に、格乃進と助三郎は肩の力を抜き、慇懃に頷いた。
光右衛門は守衛の傀儡人に顔を向けた。
「それでは、案内して貰いましょう」
傀儡人は頷き、かくかくと手足を動かして、工場の建物に向かった。
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