48 / 106
世之介の変身
3
しおりを挟む
二輪車に跨り、世之介は一杯に梶棒を握りしめ、動力機関を全開にした。
ばるるるるん! けたたましい騒音が、突き出した排気管から響き渡る。
本来、番長星で使用されている二輪車も、四輪車も、燃料を燃焼させる形式ではないから、排気音が出るわけがない。
だが、まるで音がしないというのは気分が出ないとかで、無理矢理うるさい人工的な音を立てる装置を内蔵している。
世之介は辺りを圧する音に、うっとりとなっていた。なんだか、自分が一段偉くなった気分である。
背後の仲間の二輪車を振り返って「行くぜ!」と叫ぶ。二輪車に跨る助三郎と、格乃進は無言で頷いた。
蹴飛ばされるように世之介の二輪車は【集会所】の駐車場から舗装路へと飛び出した。
茜の説明によると、目的地の【ツッパリ・ランド】は目の前の道路を真っ直ぐ、どこまでも進むと、辿り着くらしい。茜は世之介の隣の車線に自分の二輪車を並んで併走してきた。
ぴったり横に近づくと、茜は世之介にさかんに何か話し掛ける。
「スイッチを……して……が……できる……」
茜の言葉は風きり音のため、途切れ途切れである。把手の部品をしきりに指さしている。
世之介は自分の二輪車の把手を見詰めた。
中央の目立つところに、スイッチらしきものが一つ、ある。どうやら、茜の指さしていたのは、これらしい。世之介は片手を把手から離し、スイッチを押した。
「ああ、良かった! やっとちゃんと話せるようになったわね!」
途端に、今までびゅうびゅう音を立てていた風きり音がぴたりと止まり、隣の車線で二輪車を走らせている茜の言葉が、はっきりと聞こえてきた。
世之介は最初に番長星に到着して、茜の二輪車の後ろに乗せてもらったとき、やはり同じように風きり音が全然、聞こえていなかったことを思い出した。
「なんで騒音が止まったんだ?」
世之介の背後から、格乃進が声を掛けてきた。
「二輪車の周りを、超音波の障壁が取り巻いている。同時に、われわれの声も、自動的に無線機で交信できるようになっている。だから、お互いの声が、はっきりと聞き取れるのだ」
成る程、と世之介は感心した。
と、前方から、工事作業車がゆっくりとした速度でやってくるのに気付く。運転しているのは総て傀儡人である。
作業車は世之介の目の前を通り過ぎた。世之介は側鏡で作業車が【集会所】に向かっているのを認めた。
「ありゃ、なんだい?」
茜に叫ぶと、すぐ答が返ってくる。
「あんたらが空けた壁の穴を、修理に来たのよ。珍しくもないわ」
茜は無関心であった。世之介は密かに頷いた。そうか、番長星ではあらゆる修理や、修繕は、傀儡人が担っているのだろう。
辺りを注意深く眺め渡すと、あちこちに傀儡人の姿が散見される。畑の真ん中で農作業している傀儡人。道の両側に並んでいる様々な店先で、人間の店員に混じって立ち働いている傀儡人……。
舗装路を修復している傀儡人もいた。道路が、常に新品同様になっているのも、傀儡人が倦まず弛まず、修復作業を続けているせいだ。
番長星は傀儡人によって成り立っている……。
世之介はふと、奇妙な考えを弄ぶ自分に気付いていた。
ばるるるるん! けたたましい騒音が、突き出した排気管から響き渡る。
本来、番長星で使用されている二輪車も、四輪車も、燃料を燃焼させる形式ではないから、排気音が出るわけがない。
だが、まるで音がしないというのは気分が出ないとかで、無理矢理うるさい人工的な音を立てる装置を内蔵している。
世之介は辺りを圧する音に、うっとりとなっていた。なんだか、自分が一段偉くなった気分である。
背後の仲間の二輪車を振り返って「行くぜ!」と叫ぶ。二輪車に跨る助三郎と、格乃進は無言で頷いた。
蹴飛ばされるように世之介の二輪車は【集会所】の駐車場から舗装路へと飛び出した。
茜の説明によると、目的地の【ツッパリ・ランド】は目の前の道路を真っ直ぐ、どこまでも進むと、辿り着くらしい。茜は世之介の隣の車線に自分の二輪車を並んで併走してきた。
ぴったり横に近づくと、茜は世之介にさかんに何か話し掛ける。
「スイッチを……して……が……できる……」
茜の言葉は風きり音のため、途切れ途切れである。把手の部品をしきりに指さしている。
世之介は自分の二輪車の把手を見詰めた。
中央の目立つところに、スイッチらしきものが一つ、ある。どうやら、茜の指さしていたのは、これらしい。世之介は片手を把手から離し、スイッチを押した。
「ああ、良かった! やっとちゃんと話せるようになったわね!」
途端に、今までびゅうびゅう音を立てていた風きり音がぴたりと止まり、隣の車線で二輪車を走らせている茜の言葉が、はっきりと聞こえてきた。
世之介は最初に番長星に到着して、茜の二輪車の後ろに乗せてもらったとき、やはり同じように風きり音が全然、聞こえていなかったことを思い出した。
「なんで騒音が止まったんだ?」
世之介の背後から、格乃進が声を掛けてきた。
「二輪車の周りを、超音波の障壁が取り巻いている。同時に、われわれの声も、自動的に無線機で交信できるようになっている。だから、お互いの声が、はっきりと聞き取れるのだ」
成る程、と世之介は感心した。
と、前方から、工事作業車がゆっくりとした速度でやってくるのに気付く。運転しているのは総て傀儡人である。
作業車は世之介の目の前を通り過ぎた。世之介は側鏡で作業車が【集会所】に向かっているのを認めた。
「ありゃ、なんだい?」
茜に叫ぶと、すぐ答が返ってくる。
「あんたらが空けた壁の穴を、修理に来たのよ。珍しくもないわ」
茜は無関心であった。世之介は密かに頷いた。そうか、番長星ではあらゆる修理や、修繕は、傀儡人が担っているのだろう。
辺りを注意深く眺め渡すと、あちこちに傀儡人の姿が散見される。畑の真ん中で農作業している傀儡人。道の両側に並んでいる様々な店先で、人間の店員に混じって立ち働いている傀儡人……。
舗装路を修復している傀儡人もいた。道路が、常に新品同様になっているのも、傀儡人が倦まず弛まず、修復作業を続けているせいだ。
番長星は傀儡人によって成り立っている……。
世之介はふと、奇妙な考えを弄ぶ自分に気付いていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

Condense Nation
鳳
SF
西暦XXXX年、突如としてこの国は天から舞い降りた勢力によって制圧され、
正体不明の蓋世に自衛隊の抵抗も及ばずに封鎖されてしまう。
海外逃亡すら叶わぬ中で資源、優秀な人材を巡り、内戦へ勃発。
軍事行動を中心とした攻防戦が繰り広げられていった。
生存のためならルールも手段も決していとわず。
凌ぎを削って各地方の者達は独自の術をもって命を繋いでゆくが、
決して平坦な道もなくそれぞれの明日を願いゆく。
五感の界隈すら全て内側の央へ。
サイバーとスチームの間を目指して
登場する人物・団体・名称等は架空であり、
実在のものとは関係ありません。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる