ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

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世之介の変身

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 一同は家族食堂ファミレスに移動して、世之介の食欲を満たすため、料理を大量に注文した。
 がつがつと、手掴みで世之介は出される料理を、次から次へと口へ運び、無心に咀嚼して飲み込んでいた。
 いくら食べても食べても、空腹が収まる気配がない。際限のない世之介の食欲に、全員呆気に取られ、ぼんやりと見守っていた。
「糞! 面倒だ!」
 がらがらと目の前に積み上げられた料理の皿や器を薙ぎ倒し、世之介は立ち上がった。せかせかと料理場に足早に近づいていく。
 イッパチが仰天した表情になって従ってきた。
「若旦那、どうなさるつもりでげす?」
「煩いっ!」
 苛々と世之介は怒鳴ると、調理場に入り込み、目の前に並んでいた瓶を取り上げた。
 中には、オリーブ・オイルが詰まっている。ぽん、と蓋を弾くと、瓶の口を逆さにして、どぼどぼと食用油を垂らしこむ。
 ぐび、ぐび、ぐびと喉を鳴らして油を飲み干し「ういーっ!」と呻いて口元を拭った。
 一本を空にすると、次の瓶を鷲掴みにして、これもあっという間に空にしてしまう。数本分の食用油を飲み干し、ようやく空腹が収まった。食用油はカロリーの固まりである。
 足音高く自分の席に戻ると、ふっと息を吐き出した。
 ぼけっと世之介の所業を見守っている仲間たちに向け、唇を捻じ曲げ皮肉な笑みを浮かべて見せた。
「なんだよ、お前ら。文句あるのか?」
「いいや……別に」
 ようやく助三郎が答える。格乃進が首を振った。
「大変な食欲だな。多分、着ている学生服が、世之介さんの代謝を変えているのだ。爆発的な体力を与える代わり、大量の食糧を必要とさせるのだろう」
「ふん!」と世之介はテーブルにどかんと両足を投げ出した。
「それが、どうした! 俺は、俺だよ」
「世之介さん……」
 光右衛門が用心深げに、声を掛ける。世之介はぐい、と光右衛門に首をねじ向けた。
「なんでえ、爺さん!」
「こら! 何てことを!」
 助三郎が目を丸くして身を乗り出す。顔には怒りが差し上っている。光右衛門は助三郎を抑えて、言葉を続けた。
「まあまあ……。世之介さん、それより【ツッパリ・ランド】を目指す、という当初の目的は、どうなりました? まだ、同じお気持ちですか」
「当たり前だ! こんなチンケな星に、いつまでもいられるかっ! 何とかして地球へ戻って、今度こそ尼孫アマゾン星を目指すぜ。あそこじゃ、俺を待ってる女たちがウジャウジャいるって話じゃないか」
 吠え立てた世之介は、天を仰いで「けけけけ!」と笑い声を上げる。
 呆然と、一同は世之介を見詰めた。
「成る程」と光右衛門は頷いた。
「まあ、世之介さんの目的はともかく、わたしも【ツッパリ・ランド】については、気になることがあるのです。あの、風祭と申す、賽博格……」
「はっ」と格乃進が顔を上げた。
「やはり、ご隠居様も同じことをお考えでしたか?」
 光右衛門は重々しく頷いた。
「はい、あの風祭と申した賽博格は、明らかに戦闘用の改造を受けておりました。事故などで、やむを得ず賽博格手術を受ける人間はおりますが、戦闘用の加速装置の装着は、幕府によって禁じられております。いったい、どこからあの賽博格は、加速装置を手に入れたのでしょうか」
 格乃進も同意した。
「まったく、その通りです。戦闘用の加速装置をなぜ、風祭が装備しているのか、不思議です。加速装置は御禁制の品のはず」
 光右衛門は厳しい目付きになった。
「〝抜け荷〟の疑いがありますな。何か、よからぬ企みが匂いますな」
 それまで黙っていた茜が、顔を上げた。
「あの……」と躊躇いがちに声を上げる。
 光右衛門は素早く茜の躊躇いを見てとり、優しく声を掛けた。
「何ですかな、茜さん」
 茜は大きく息を吸い込んだ。
「あたしも、【ツッパリ・ランド】に行きたい!」
「茜さん!」
 助三郎と、格乃進が同時に声を上げた。
 茜は決意を秘めた表情をしている。
「風祭って人は、最強のバンチョウを目指して賽博格になったって言ってた。あたしのお兄ちゃん──勝又まさる──も、やっぱり最強のバンチョウを目指すって言って、家を出て行った。もし、お兄ちゃんが【ツッパリ・ランド】を目指していたら……」
 助三郎は「わが意を得たり」とばかりに大きく頷く。
「茜さんの言うとおりです。わたしども助三郎と格乃進は、戦闘で身体の半分以上を失い、やむを得ずこのような身体になりましたが、失ってみて初めて、生身の身体が貴重なものか悟りました。この星の人間は、ただ強くなりたいという単純な理由で、遊び半分で賽博格手術を受けるなど、許せません! 茜さんのお兄さんのためにも、【ツッパリ・ランド】を目指すべきでしょう」
 世之介は立ち上がった。
 不意の世之介の動きに、全員が注目する。
「それじゃいつまでも、ここでボケッとしていねえで、さっさと二輪車に乗り込もうぜ! さあ、出発だ!」
 さっと茜に近づくと、手を伸ばし、茜の顎に手をやった。世之介の仕草に、茜は目を丸くした。
「茜! 俺がお前を【ツッパリ・ランド】に連れて行ってやるぜ!」
 ニタリと笑い掛ける。茜の顔は、見る見る真っ赤に染まった。
 さっさと外へ出て、世之介は空気を吸い込み「うーん」と大きく伸びをした。
 なんだか、やたら気分が良かった。
 何でもできそうな、そんな自信が津波のように押し寄せる。
【ツッパリ・ランド】か……。
 世之介は、ひどく楽しみだと感じていた。
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