ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

文字の大きさ
上 下
36 / 106
世之介の旅支度

しおりを挟む
 茜の案内したのは、新品の二輪車がずらりと並ぶ、店だった。
「ここで気に入った二輪車があれば、すぐ使えるようにしてくれるわ! どう、乗ってみたいのは、ありそう?」
 快活に喋る茜に、世之介は正直かなり戸惑っていた。
 助三郎と格乃進は、興味深そうに並べられた二輪車の細部を仔細に眺めている。二人の着衣は風祭との戦闘ですっかりボロボロになってしまい、今は番長星の人間の着衣を身につけている。
 イッパチはあまり興味がなさそうで、しきりと鼻糞をほじって指で弾いて飛ばしたり、空を見上げたりしていた。
 先程から、店の奥から「ぐわん! ぐわん! ぐわん!」と、何かを叩き付けるような、騒音が響いている。突然、騒音が「がきんっ!」と、金属製のものが折れるような音に変化した。同時に「ちゃりーんっ!」と地面に転がる音がした。
「ちぇっ! やっちまった……。おいっ! 後で、直しておけよ!」と命令する声。声は中年の男のものだ。男の命令に「へえーい」と返事が聞こえる。
 呆然と世之介が店先でうろうろしていると、奥から中年の太った男が、胡散臭そうな目付きで現れる。多分、店主だ。店主の後に、古臭いデザインの傀儡人ロボットが従いてくる。これが、さっきの会話の主だろう。
 が、店主は茜の顔を見て、嬉しそうな表情に変わった。
「いよう! 茜じゃねえか! どうしたい、また新しいのが欲しくなったのけ?」
「叔父さん。今日は、あたしじゃなくて、この人たちがお客なの。初めて二輪車に乗るのよ! だから、良いの選んであげて!」
「ほほお……」
 店主は目を丸くして、しげしげと世之介たちの顔を見詰めた。
「あんたら、見たことない顔だなあ。どっから来たんだ?」
 世之介は丁寧にお辞儀をすると、口を開いた。
「わたくし、地球からまいりました、但馬世之介と申す者で御座います。今日は茜さんの紹介で、二輪車を求めることになりましたので、どうぞ宜しくお願いいたします」
 店主はパクリと口を開け、仰け反るような姿勢になった。
「ひゃあ! よっくもスラスラと、くっちゃべるもんだっぺ! おりゃ、一っ言も判んねえだべっちゃ!」
 なぜか店主は、茜とはガラリと口調を変えて話し出した。まるでわざと田舎臭い口調を意識しているようだった。
 しきりと「だっぺ」だとか「だっちゃ」などを連発する。破裂音の多い言葉は聞き取りにくく、店主の顔には「どうだ、判らないだろう」とでも言いたそうな表情が浮かんでいる。
 茜とさっき喋っていたときは、銀河標準語である現代日本語に近い言葉つきだったのだが、世之介が話し掛けた瞬間、がらりと豹変したのだ。
 店主は、世之介の言葉は充分に理解できるし、喋れるのだが、それが何だか自分の恥であると固く思い込んでいると見える。
 茜は肩を竦めた。
「叔父さん! この世之介さんは【バンチョウ】なのよ! そんな喋り方じゃ、失礼じゃない?」
「【バンチョウ】!」
 店主は、さらに頓狂な声を上げた。さっと赤らんだ顔が青ざめ、ぶるぶると全身が震えだす。
 ぺたりと地面に座り込み、世之介の顔を見上げ身を捩るようにして声を上げた。
「す、すみません! 知らないこととはいえ、申し訳ねえ! どうぞ、ご勘弁を!」
 世之介は往生した。まったくこの星の人間は、どうなっているのだ! 店主は両手をべったりと地面につけ、土下座の態勢である。
「お手をお上げ下さい。わたくし、妙な成り行きで【バンチョウ】などと言われておりますが、ともかく二輪車を求めたいだけの話しですから」
「へえ?」
 店主の顔色がもとに戻った。ひょい、と顔を上げると、さっさと立ち上がる。あっという間の変わり身に、世之介は少々呆れた。
 店主は生き生きとした顔色に戻り、二輪車を次々と指さし、喋り出した。
「うちでは、あらゆる形式の二輪車が揃っていますよ! こっちは荒地走行用オフロード・タイプで、あっちに並んでいるのが、長距離走行ツアラー・タイプでさあ! で、どんな目的でお使いになられるんで?」
 店主の口調は、すっかり滑らかになっている。言葉は標準日本語に近く、やはりさっきの田舎ぽい喋り方は、わざとだったのだ。
 茜が店主の質問に答えた。
「【ツッパリ・ランド】に出かけるの」
 店主は「ぎくり」と身を強張らせる。
「まさか、本当けえ?」
 茜が頷くと、店主は気味悪そうに世之介の顔を見詰めた。
「あんた、だけかい?」
 格乃進が一歩、ずい、と前へ出て、一同を代表して答える。
「わたしたち、全員だ。だから、良いのを探してくれ」
「ふうん」と店主は顎を上げ、片手で胸元をこりこりと掻いた。さっさと先に立ち、先ほど長距離用と説明した二輪車の列に立つ。
「【ツッパリ・タウン】は、途轍もなく遠いぜ。だから、このタイプの二輪車にしなくちゃな! ところで……」
 不思議そうに光右衛門とイッパチを見詰めた。
「そちらの二人も、運転するのかね?」
 光右衛門は首を振った。
「いえ、わしは、見ての通りの老いぼれ。ですから、助さんか、格さんの後ろに乗らせて貰おうと思っております」
 イッパチはぺちん、と額を扇子で叩いた。
「あっしゃ、浮揚機フライヤーの運転はでけますが、こんな地べたを走る車は、生憎と不調法でござんして、やっぱり若旦那の後ろに乗らせて貰いてえ!」
 店主は首を振った。
「二人乗りより、もっといいのがあるぜ。側車サイド・カーってのがある!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきた!?

月城 友麻
SF
キリストを見つけたので一緒にAIベンチャーを起業したら、クーデターに巻き込まれるわ、月が地球に落ちて来るわで人類滅亡の大ピンチ!? 現代に蘇ったキリストの放つ驚愕の力と、それに立ちふさがる愛くるしい赤ちゃん。 さらに、自衛隊を蹴散らす天空の城ラピ〇タの襲撃から地球を救うべく可愛い女子大生と江ノ島の洞窟に決死のダイブ! 楽しそうに次元を切り裂く赤ちゃんとの決戦の時は近い! 愛は地球を救えるか?            ◇ AIの未来を科学的に追っていたら『人類の秘密』にたどり着いてしまった。なんと現実世界は異世界よりエキサイティングだった!? 東大工学博士の監修により科学的合理性を徹底的に追求し、人間を超えるAIを開発する手法と、それにより判明するであろう事実を精査する事でキリストの謎、人類の謎、愛の謎を解き明かした超問題作! この物語はもはや娯楽ではない、予言の書なのだ。読み終わった時、現実世界を見る目は変わってしまうだろう。あなたの人生も大きく変貌を遂げる!? Don't miss it! (お見逃しなく!) あなたは衝撃のラストで本当の地球を知る。 ※他サイトにも掲載中です https://ncode.syosetu.com/n3979fw/

PK−Users. ーサイコキネシス−ユーザーズー

びおら
SF
多くの人々にとっては、ごく普通の日常が送られているとある街『須照市』。しかしそこでは人知れず超能力を駆使する『ユーザー』と呼ばれる超能力者たちが存在していた。 ある者はその力を正しく使い、またある者は悪用し、そしてまたある者は、自分に超能力がある事を知らずにごく普通の日常を過ごしていた…。 そんな、ごく普通の日常を生きていた一人の大学生、工藤良助の日常は、あまりに唐突に、そして必然的に、なおかつ運命的に崩れ去っていった…。

十年前の片思い。時を越えて、再び。

赤木さなぎ
SF
  キミは二六歳のしがない小説書きだ。  いつか自分の書いた小説が日の目を浴びる事を夢見て、日々をアルバイトで食い繋ぎ、休日や空き時間は頭の中に広がる混沌とした世界を文字に起こし、紡いでいく事に没頭していた。  キミには淡く苦い失恋の思い出がある。  十年前、キミがまだ高校一年生だった頃。一目惚れした相手は、通い詰めていた図書室で出会った、三年の“高橋先輩”だ。  しかし、当時のキミは大したアプローチを掛けることも出来ず、関係の進展も無く、それは片思いの苦い記憶として残っている。  そして、キミはその片思いを十年経った今でも引きずっていた。  ある日の事だ。  いつもと同じ様にバイトを上がり、安アパートの自室へと帰ると、部屋の灯りが点いたままだった。  家を出る際に消灯し忘れたのだろうと思いつつも扉を開けると、そこには居るはずの無い、学生服に身を包む女の姿。  キミは、その女を知っている。 「ホームズ君、久しぶりね」  その声音は、記憶の中の高橋先輩と同じ物だった。  顔も、声も、その姿は十年前の高橋先輩と相違ない。しかし、その女の浮かべる表情だけは、どれもキミの知らない物だった。  ――キミは夢を捨てて、名声を捨てて、富を捨てて、その輝かしい未来を捨てて、それでも、わたしを選んでくれるかしら?

▞ 戦禍切り裂け、明日への剣聖 ▞ 生まれる時代を間違えたサムライ、赤毛の少女魔導士と複座型の巨大騎兵を駆る!!

shiba
SF
【剣術 × 恋愛 With 巨大騎士】でお送りする架空戦記物です。 (※小説家になろう様でも先行掲載しております)  斑目蔵人(まだらめ くろうど)は武人である。ただし、平成から令和に替わる時代に剣客として飯が喰える筈も無く…… 気付けば何処にでもいるサラリーマンとなっていた。    化物染みた祖父に叩き込まれた絶技の数々は役立たずとも、それなりに独り暮らしを満喫していた蔵人は首都高をバイクで飛ばしていた仕事帰り、光る風に包まれて戦場に迷い込んでしまう。  図らずも剣技を活かせる状況となった蔵人の運命や如何に!?

化け物バックパッカー

オロボ46
SF
自分ノ触覚デ見サセテヨ、コノ世界ノ価値。写真ヤ言葉ダケデナク、コノ触覚デ。  黒いローブで身を隠す少女は、老人にそう頼む。  眼球代わりの、触覚を揺らしながら。  変異体。  それは、“突然変異症”によって、人間からかけ離れた姿となった元人間である。  変異体は、人間から姿を隠さなければならない。  それが出来なければ、待つのは施設への隔離、もしくは駆除だ。  変異体である少女に、人間の老人はこう答える。 お嬢さんはこの世界の価値を見させくれるのか?  ここは、地球とそっくりに創造された星。  地球と似た建物、地形、自然、人々が存在する星。    人間に見つからないように暮らす“変異体”が存在する星。  世界に対して独自の考えを持つ、人間と変異体が存在する星。  バックパックを背負う人間の老人と、変異体の少女が旅をする星。  「小説家になろう」「カクヨム」「マグネット」と重複投稿している短編集です。各話の繋がりはあるものの、どこから読んでも問題ありません。  次回は9月19日(月)を予定しています。 (以前は11日の公開予定でしたが、事情で遅れての公開になってしまいました……) ★←このマークが付いている作品は、人を選ぶ表現(グロ)などがある作品です。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「60」まで済。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

処理中です...