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【ツッパリ・ランド】の刺客
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出てきた人物を一目見て、世之介は驚きに口をあんぐりと開いて見上げる。
大きい。
いったい、あの四輪車のどこにどうやって納まっていたのかと思われるほどの、途方もない巨躯が白日の下に曝されている。
身長は六尺……いや七尺はある。体重も五十貫はありそうだ。薄汚れた学生服に、学帽を目深に被り、のっそりと立っている。
「おめえが【バンチョウ】だと?」
洞窟の奥から轟くような、低い、軋るような声が零れ出る。ぐい、と学帽の庇を撥ね上げ、下から覗く瞳を光らせた。
男の視線を目の当たりにして、世之介はなぜか怖れを感じていた。なんと言うか、非人間的な冷酷さを内包した目の光である。
「おめえが【バンチョウ】なんかじゃ、あるもんけえ! この騙り野郎!」
健史が憎々しく喚く。さっと巨人を振り返り叫んだ。
「風祭さん! この野郎に、本当の【バンチョウ】の恐ろしさを、たっぷり教えてやってくださいよ!」
風祭と呼ばれた男は、重々しく頷いた。ごろごろとした声を上げ、ゆっくりと喋る。
「【バンチョウ】の称号は、ウラバン様だけが与えるものである! お前は勝手に【バンチョウ】と名乗っている。その罪は万死に値する!」
風祭の言葉は、単調で、何か背後からセリフをつけられているかのようだった。声には全く、感情というのが感じられない。
ずしり、と風祭の足が一歩、前に踏み出した。ぐっと腰を下ろし、両手を蟹のように広げ、戦いの態勢をとる。
「世之介さん! これ!」
ばたばたと慌しく茜が駆け寄り、一本の木刀を世之介に押しつけた。世之介は木刀を握りしめ、剣道の構えを取る。
ニタリ……と、風祭が獲物を前にした狼のごとく歯を剥き出して笑った。ぎらり、と朝日に風祭の前歯が光る。
世之介は呆れた。
なんと、風祭の上下の歯は、総て白銀色に輝く義歯であった。鋼鉄製と思われる義歯に、ずらりと金剛石が輝いている。あの歯で噛みつくつもりか?
かちかちかち……。
細かな音が世之介の耳に聞こえている。
気がつくと、世之介は恐怖に震え、奥歯をかちかち噛み鳴らしていたのだった。全身に恐怖が走り、手にした木刀の先端が揺れていた。じっとりと背中に汗が滴るのを感じる。
「行くぞ!」
宣言して、風祭は猛然と世之介を目がけ、突進してくる。まるで闘牛の突撃だ! 風祭の動きは、巨躯に似合わぬ素早いものだった。
世之介は無我夢中で木刀を握りしめ、横に薙ぎ払った。
がつん!
異様な衝撃が世之介の手の平に伝わった。確かに風祭の胴を払ったはずなのに、まるで固い岩を殴ったような手応えを感じる。
ぶわっ、と風祭の右手が世之介の肩に当たる。ただ一振りで、世之介の身体は宙に浮き、したたかに地面に叩きつけられていた。
たったそれだけで、世之介はじーん、と頭に霧が掛かったようになり、視界が揺れる。一瞬、気絶していたのかもしれない。
「待て!」
その時、世之介の前に、助三郎と格乃進が立ちはだかった。
「どいていなさい。世之介さん。どうやらこいつは、あんたに手の負える相手ではなさそうだ」
助三郎が油断なく身構え、叫んだ。
「どういうことです?」
世之介の質問に、格乃進が呟く。
「あいつは人間じゃない! 我らと同じ、賽博格。それも、戦闘用の殺人兵器だ!」
大きい。
いったい、あの四輪車のどこにどうやって納まっていたのかと思われるほどの、途方もない巨躯が白日の下に曝されている。
身長は六尺……いや七尺はある。体重も五十貫はありそうだ。薄汚れた学生服に、学帽を目深に被り、のっそりと立っている。
「おめえが【バンチョウ】だと?」
洞窟の奥から轟くような、低い、軋るような声が零れ出る。ぐい、と学帽の庇を撥ね上げ、下から覗く瞳を光らせた。
男の視線を目の当たりにして、世之介はなぜか怖れを感じていた。なんと言うか、非人間的な冷酷さを内包した目の光である。
「おめえが【バンチョウ】なんかじゃ、あるもんけえ! この騙り野郎!」
健史が憎々しく喚く。さっと巨人を振り返り叫んだ。
「風祭さん! この野郎に、本当の【バンチョウ】の恐ろしさを、たっぷり教えてやってくださいよ!」
風祭と呼ばれた男は、重々しく頷いた。ごろごろとした声を上げ、ゆっくりと喋る。
「【バンチョウ】の称号は、ウラバン様だけが与えるものである! お前は勝手に【バンチョウ】と名乗っている。その罪は万死に値する!」
風祭の言葉は、単調で、何か背後からセリフをつけられているかのようだった。声には全く、感情というのが感じられない。
ずしり、と風祭の足が一歩、前に踏み出した。ぐっと腰を下ろし、両手を蟹のように広げ、戦いの態勢をとる。
「世之介さん! これ!」
ばたばたと慌しく茜が駆け寄り、一本の木刀を世之介に押しつけた。世之介は木刀を握りしめ、剣道の構えを取る。
ニタリ……と、風祭が獲物を前にした狼のごとく歯を剥き出して笑った。ぎらり、と朝日に風祭の前歯が光る。
世之介は呆れた。
なんと、風祭の上下の歯は、総て白銀色に輝く義歯であった。鋼鉄製と思われる義歯に、ずらりと金剛石が輝いている。あの歯で噛みつくつもりか?
かちかちかち……。
細かな音が世之介の耳に聞こえている。
気がつくと、世之介は恐怖に震え、奥歯をかちかち噛み鳴らしていたのだった。全身に恐怖が走り、手にした木刀の先端が揺れていた。じっとりと背中に汗が滴るのを感じる。
「行くぞ!」
宣言して、風祭は猛然と世之介を目がけ、突進してくる。まるで闘牛の突撃だ! 風祭の動きは、巨躯に似合わぬ素早いものだった。
世之介は無我夢中で木刀を握りしめ、横に薙ぎ払った。
がつん!
異様な衝撃が世之介の手の平に伝わった。確かに風祭の胴を払ったはずなのに、まるで固い岩を殴ったような手応えを感じる。
ぶわっ、と風祭の右手が世之介の肩に当たる。ただ一振りで、世之介の身体は宙に浮き、したたかに地面に叩きつけられていた。
たったそれだけで、世之介はじーん、と頭に霧が掛かったようになり、視界が揺れる。一瞬、気絶していたのかもしれない。
「待て!」
その時、世之介の前に、助三郎と格乃進が立ちはだかった。
「どいていなさい。世之介さん。どうやらこいつは、あんたに手の負える相手ではなさそうだ」
助三郎が油断なく身構え、叫んだ。
「どういうことです?」
世之介の質問に、格乃進が呟く。
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