ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

文字の大きさ
上 下
32 / 106
【ツッパリ・ランド】の刺客

しおりを挟む
 わんわんと耳をつんざく騒音に、世之介はぱっちりと目を開いた。
 がば! と寝床から起き上がり、窓の外を眺める。窓からは番長星の主星が投げかける菫色の朝の光が眩しく室内に差し込んでいた。
「なんですかな……まるで野犬の吠えるかのごとき、騒音ですが」
 光右衛門が不機嫌そうな顔つきで寝台から起き上がる。供の助三郎と格乃進は、すでに起きていて、窓の側に油断なく身構えている。
 ここは……?
 世之介は記憶の混乱に、一瞬はっと戸惑う。
「あ~あ……、朝飯は、まだなんですかい?」
 隣でイッパチが呑気そうな声を上げた。イッパチの顔を見て、世之介は「ああそうか、茜の兄の、まさるの部屋だ」と自分のいる場所を確認する。
 あれから世之介は湯船で逆上のぼせ、引っくり返り、素っ裸のままイッパチに担ぎ上げられて部屋へと戻ったのだった。
 その時の情景を思い出し、世之介は一人で顔を火照らせた。当然、目を回しているから、完全に裸で、その裸を茜に目撃されている。
「朝飯どころではありませんぞっ!」
 光右衛門は鋭い声を上げた。窓の外を眺めていた格乃進は緊張した表情を浮かべる。
「ご隠居様、無数の二輪車が見えます。その他に四輪の車も数台ほど混ざっております。どうやら、周りを取り囲んでいる様子です」
 世之介は立ち上がり、格乃進の側へ近寄った。一同がいる部屋は一階にあり、道路に面している。その道路を、無数の二輪車、四輪車が埋め尽くしていた。
 二輪車、四輪車は壮んに動力機関を全開にして、辺り構わぬ騒音を撒き散らしている。
 時々「ぱぱら・ぱぱぱぱ~ぱぱ・ぱぱぱ~」と聞こえる、奇妙な音階の音が混じる。後で聞いたところによると「名付親愛情曲《ゴッド・ファーザー愛のテーマ》」という、ツッパリにはお馴染みの音楽だそうだ。
 二輪車の操縦者の一人に、世之介は見覚えがあった。
 つるつるに剃り上げた、鬼灯ほおずきのような頭。すこぶる陰険な目付き。そうだ、あれは最初に世之介に喧嘩を吹っかけた、健史たけしである。
 健史は二輪車を止めると、例の甲高いガラガラ声を張り上げた。聞いていると、苛々してくる耳障りな声音である。
「オカマ野郎! 出てきやがれ! こらあ、卑怯者……」
 世之介はイッパチに尋ねた。
「オカマ野郎って、何だろう? 昨日も、あいつは同じ言葉を言っていたけど」
 イッパチは頷いた。
「もしかして、陰間のことじゃねえですかねえ……」
 世之介はイッパチの推測を耳にして「ははあ」と感心した。
 しかしすぐ、じわじわと怒りが込み上げる。自分をあんな、ナヨナヨした連中と一緒にされてたまるか!
 どんどんどん! と扉が外から叩かれ、一同はぎょっと硬直した。
「世之介さん! 大変……健史が!」
 扉から聞こえたのは、茜の叫び声だった。
 ほっとなって、世之介は大股で扉に近づき、開こうとする。ところが、扉は固く閉じられ、びくとも動かない。
 いけない! この扉は大江戸とは違い、〝片観音開き〟で、蝶番で開くんだった……。つい、慌てて横に滑らそうとしていた。
 取っ手を掴み、開くと、茜の青ざめた顔が目に飛び込んでくる。
「見た? 健史が乗り込んで来たわ!」
 前置き抜きでいきなり喋り出す。世之介は頷いた。
「ああ、今度はだいぶ、お仲間を連れてきたようだね」
 茜は両目をまん丸に見開き、世之介の顔を見上げている。恐怖に、茜の瞳孔は、ぽっかりと開いていた。
「どうすんの?」
 無言で、世之介は履物を突っかけると、外へ出た。ぞろぞろとイッパチ、光右衛門、助三郎、格乃進らが従いてくる。【集会所】を回って、表の道路へと向かう。
「おっ!」
 姿を表した世之介を見て、健史が身構え、やや怯んだ表情になった。が、すぐに自信たっぷりな態度に豹変する。
「出てきやがったな、オカマ野郎!」
「そのオカマ野郎はやめませんか? わたくしは、そのような趣味はありませんから」
 世之介は穏やかに話し掛けた。だが、怒りが語尾を僅かに震わせる。
「けっ!」
 健史は毒々しく舌打ちすると、背後を振り返った。
「風祭さん! 出てきやがりましたぜ! あいつが偽者の【バンチョウ】でさあ!」
 健史の背後には、真っ黒な塗装の、四輪車が停車していた。がちゃりと扉が開かれ、むくむくと内部から一人の人物が姿を表した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

▞ 戦禍切り裂け、明日への剣聖 ▞ 生まれる時代を間違えたサムライ、赤毛の少女魔導士と複座型の巨大騎兵を駆る!!

shiba
SF
【剣術 × 恋愛 With 巨大騎士】でお送りする架空戦記物です。 (※小説家になろう様でも先行掲載しております)  斑目蔵人(まだらめ くろうど)は武人である。ただし、平成から令和に替わる時代に剣客として飯が喰える筈も無く…… 気付けば何処にでもいるサラリーマンとなっていた。    化物染みた祖父に叩き込まれた絶技の数々は役立たずとも、それなりに独り暮らしを満喫していた蔵人は首都高をバイクで飛ばしていた仕事帰り、光る風に包まれて戦場に迷い込んでしまう。  図らずも剣技を活かせる状況となった蔵人の運命や如何に!?

琥珀と二人の怪獣王 建国の怪獣聖書

なべのすけ
SF
琥珀と二人の怪獣王の続編登場! 前作から数か月後、蘭と秀人、ゴリアスは自分たちがしてしまった事に対する、それぞれの償いをしていた。その中で、古代日本を研究している一人の女子大生と三人は出会うが、北方領土の火山内から、巨大怪獣が現れて北海道に上陸する!戦いの中で、三人は日本国の隠された真実を知ることになる!

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

化け物バックパッカー

オロボ46
SF
自分ノ触覚デ見サセテヨ、コノ世界ノ価値。写真ヤ言葉ダケデナク、コノ触覚デ。  黒いローブで身を隠す少女は、老人にそう頼む。  眼球代わりの、触覚を揺らしながら。  変異体。  それは、“突然変異症”によって、人間からかけ離れた姿となった元人間である。  変異体は、人間から姿を隠さなければならない。  それが出来なければ、待つのは施設への隔離、もしくは駆除だ。  変異体である少女に、人間の老人はこう答える。 お嬢さんはこの世界の価値を見させくれるのか?  ここは、地球とそっくりに創造された星。  地球と似た建物、地形、自然、人々が存在する星。    人間に見つからないように暮らす“変異体”が存在する星。  世界に対して独自の考えを持つ、人間と変異体が存在する星。  バックパックを背負う人間の老人と、変異体の少女が旅をする星。  「小説家になろう」「カクヨム」「マグネット」と重複投稿している短編集です。各話の繋がりはあるものの、どこから読んでも問題ありません。  次回は9月19日(月)を予定しています。 (以前は11日の公開予定でしたが、事情で遅れての公開になってしまいました……) ★←このマークが付いている作品は、人を選ぶ表現(グロ)などがある作品です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)
SF
 空色の髪をなびかせる玉虫色の騎士。  それは王位継承戦に持ち出されたチェスゲームの中で、駒が取られると同事に現れたモンスターをモチーフとしたロボット兵”盤上戦騎”またの名を”ディザスター”と呼ばれる者。  彼ら盤上戦騎たちはレーダーにもカメラにも映らない、さらに人の記憶からもすぐさま消え去ってしまう、もはや反則レベル。  チェスの駒のマスターを望まれた“鈴木くれは”だったが、彼女は戦わずにただ傍観するのみ。  だけど、兵士の駒"ベルタ”のマスターとなり戦場へと赴いたのは、彼女の想い人であり幼馴染みの高砂・飛遊午。  異世界から来た連中のために戦えないくれは。  一方、戦う飛遊午。  ふたりの、それぞれの想いは交錯するのか・・・。  *この作品は、「小説家になろう」でも同時連載しております。

FRIENDS

緒方宗谷
青春
身体障がい者の女子高生 成瀬菜緒が、命を燃やし、一生懸命に生きて、青春を手にするまでの物語。 書籍化を目指しています。(出版申請の制度を利用して) 初版の印税は全て、障がい者を支援するNPO法人に寄付します。 スコアも廃止にならない限り最終話公開日までの分を寄付しますので、 ぜひお気に入り登録をして読んでください。 90万文字を超える長編なので、気長にお付き合いください。 よろしくお願いします。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物、団体、イベント、地域などとは一切関係ありません。

処理中です...