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世之介のタイマン勝負
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【集会所】に近づくにつれ、道路の両側に様々な施設がぽつぽつと増えてきた。一番はっきり目立つのは、給油所である。
とはいえ、本物の燃料油脂を補給するわけではない。番長星で使用されている二輪車などの動力源に使用されているのは、超強力な弾み車である。シュヴァルツシルト半径一ミリ以下の黒穴に回転を与え、磁場が回転して電力を発生する。給油所では黒穴に新たな回転力を与えるための偏向重力場を掛けるのだ。
他に目立つのは、四輪車や二輪車の整備工場、車輪や装飾品を売っている専門店、日用品や食料品を取り揃えている大規模店、家族食堂。どれもこれも赤、青、黄色、桃色などの原色で彩られている。
道路には、二輪車以外四輪の車も走っていた。世之介は地面をこのような動力車が走っているのを見たことがなく、物珍しかった。世之介の育った大江戸では、乗り物といえば公共のものも、個人の所有のものも総て空中を飛行するものばかりだった。
空を見上げた世之介は、飛行する乗り物を見ないことに気付く。番長星では飛行する乗り物は存在しないか、ほとんど使用されていないらしい。
そろそろ二輪車の後席に座った尻が痛み始めたころ、やっと目的の、茜たちの【集会所】が見えてくる。
【集会所】は幾つかの建物が組み合わさった複合施設であった。
中心にあるのは量販店で、一階部分は家族食堂、その食堂の向かい側には遊戯施設が付属している。
住居は中心の施設を取り巻くように建てられ、広々とした駐車場があって、そこには二輪車や、四輪の車がずらりと駐車されていた。住居同士は渡り廊下や、通路で繋がれ、まるで一つの巨大な建物のようだった。住居同士を繋げている廊下や階段は後から無理矢理くっつけたかのようで、様式や素材は統一されておらず、全体に継ぎ接ぎ細工のようである。
驚くのは建物と建物の間にほったからしになっている塵の山だ。うず高く積まれた塵には、遺棄された電化製品とか、食糧の容器、雑誌がごちゃごちゃと固まり、間からは食糧を養分に植物が根を張り、枝を伸ばしている。
番長星を支配しているのは、混乱そのものであった!
駐車場に二輪車が次々と停車すると、建物の扉が開き、中から人々が顔を出してくる。
現れたのは家族連れで、老若男女様々な年齢層で、多くは幼い子供の手を引いていた。中には腰の曲がった老人もいる。
ただし老人とはいえ、身につけているのは派手な色合いの上着や、作業服、学生服で、薄い頭髪を整髪料で固めてリーゼントにしているのがご愛嬌だ。
「お帰り。早かったね」
茜に中年の、やや太った女性が声を掛けてきた。
太っていることを除けば、茜に似た顔立ちをしている。何か台所仕事をしていたのか、女性はしきりと手を厚手のタオルで拭っていた。女性は茜の二輪車の後席に跨っている世之介を見て、尋ねかけるような表情になる。
「その人たちは?」
茜は一つ頷くと、説明を始めた。
「畑の真ん中に火の玉が落ちたって話は聞いてるよね? 空から落ちてきた玉の中に、この人たちがいたんだよ。困っているようだから、連れてきた」
「ふうん」と相槌を打った女性は、世之介を見て愛想笑いを浮かべた。
「それはまあ、大変でしたねえ」
茜は苛々した顔つきになった。
「母ちゃん! 話はそれくらいにして、食事の用意しなきゃ! この世之介さんは【バンチョウ】なんだよ! 凄いだろ?」
茜の【バンチョウ】という言葉に、女性は驚きの表情を浮かべた。やはり茜の母親だったかと、世之介は一人うんうんと頷く。
「あらまあ、大変!」
母親は口をポカンと開け、ぱっと両手を挙げると、急ぎ足で家の中へ駆け込んだ。家の中から母親の叫び声が聞こえる。
「父ちゃん! 父ちゃん! 茜が【バンチョウ】さんを連れて帰ってきたよ! 挨拶しな!」
どたばたと足音が近づき、さっきの茜の母親が父親と思われる同じ年頃の男性の手を引いて表れた。父親は対照的にひどく痩せていて、度の強い眼鏡を掛けている。
「【バンチョウ】だって?」
眼鏡の奥からまじまじと世之介を見つめてきた。世之介は眼鏡を掛けた人間を見るのは初めてで、ひどく驚いた。この番長星では視力矯正は一般的でないのだろうか?
母親は顔を顰める。
「父ちゃん、そんな眼鏡を掛けていたら【バンチョウ】さんをよく見ることができないだろ! 外しなよ」
「ああ」と頷き、父親は眼鏡を外した。眼鏡のレンズ面に、何かの番組が映し出されている。
これは、テレビなのだ。眼鏡を外し、父親は目を皿のようにして世之介を観察する。
「初めまして。但馬世之介で御座います。茜さんにお世話を頂き、恐縮しております」
世之介は丁寧に頭を下げ、挨拶する。父親は吃驚した表情になった。
「ああ、そのう……ええと……」
ぱくぱくと口は動くが、虚しく言葉は出てこない。茜はさっと父親の手を引き叫んだ。
「それより、食事、食事! 皆、腹を空かせているんだから、何か食べよう!」
ぱっと世之介を振り向き、輝くような笑顔になる。
「世之介さんも、お腹は空いているよね?」
言われて世之介の腹部から「ぎゅうーっ」という音がしてくる。そうだ、あれから何も口にしていないんだ!
世之介の腹の音を耳にして、茜はころころと転がるような笑い声を上げた。
「じゃ、決まりね!」
どん、と勢い良く、世之介の背中を叩いた。
手を伸ばし、今度は世之介の手を引いた。
行き先は家の中ではなく、中心部の建物の家族食堂である。てっきり世之介は家の中で食事するのだと思っていて、戸惑った。
茜はその場にいた全員に叫んだ。
「飯だよ──! 皆、おいで──!」
「飯だ」「飯だ」と全員が叫び交わし、ぞろぞろと集まってくる。どやどやと騒がしく、家族食堂へと歩いていく。
とはいえ、本物の燃料油脂を補給するわけではない。番長星で使用されている二輪車などの動力源に使用されているのは、超強力な弾み車である。シュヴァルツシルト半径一ミリ以下の黒穴に回転を与え、磁場が回転して電力を発生する。給油所では黒穴に新たな回転力を与えるための偏向重力場を掛けるのだ。
他に目立つのは、四輪車や二輪車の整備工場、車輪や装飾品を売っている専門店、日用品や食料品を取り揃えている大規模店、家族食堂。どれもこれも赤、青、黄色、桃色などの原色で彩られている。
道路には、二輪車以外四輪の車も走っていた。世之介は地面をこのような動力車が走っているのを見たことがなく、物珍しかった。世之介の育った大江戸では、乗り物といえば公共のものも、個人の所有のものも総て空中を飛行するものばかりだった。
空を見上げた世之介は、飛行する乗り物を見ないことに気付く。番長星では飛行する乗り物は存在しないか、ほとんど使用されていないらしい。
そろそろ二輪車の後席に座った尻が痛み始めたころ、やっと目的の、茜たちの【集会所】が見えてくる。
【集会所】は幾つかの建物が組み合わさった複合施設であった。
中心にあるのは量販店で、一階部分は家族食堂、その食堂の向かい側には遊戯施設が付属している。
住居は中心の施設を取り巻くように建てられ、広々とした駐車場があって、そこには二輪車や、四輪の車がずらりと駐車されていた。住居同士は渡り廊下や、通路で繋がれ、まるで一つの巨大な建物のようだった。住居同士を繋げている廊下や階段は後から無理矢理くっつけたかのようで、様式や素材は統一されておらず、全体に継ぎ接ぎ細工のようである。
驚くのは建物と建物の間にほったからしになっている塵の山だ。うず高く積まれた塵には、遺棄された電化製品とか、食糧の容器、雑誌がごちゃごちゃと固まり、間からは食糧を養分に植物が根を張り、枝を伸ばしている。
番長星を支配しているのは、混乱そのものであった!
駐車場に二輪車が次々と停車すると、建物の扉が開き、中から人々が顔を出してくる。
現れたのは家族連れで、老若男女様々な年齢層で、多くは幼い子供の手を引いていた。中には腰の曲がった老人もいる。
ただし老人とはいえ、身につけているのは派手な色合いの上着や、作業服、学生服で、薄い頭髪を整髪料で固めてリーゼントにしているのがご愛嬌だ。
「お帰り。早かったね」
茜に中年の、やや太った女性が声を掛けてきた。
太っていることを除けば、茜に似た顔立ちをしている。何か台所仕事をしていたのか、女性はしきりと手を厚手のタオルで拭っていた。女性は茜の二輪車の後席に跨っている世之介を見て、尋ねかけるような表情になる。
「その人たちは?」
茜は一つ頷くと、説明を始めた。
「畑の真ん中に火の玉が落ちたって話は聞いてるよね? 空から落ちてきた玉の中に、この人たちがいたんだよ。困っているようだから、連れてきた」
「ふうん」と相槌を打った女性は、世之介を見て愛想笑いを浮かべた。
「それはまあ、大変でしたねえ」
茜は苛々した顔つきになった。
「母ちゃん! 話はそれくらいにして、食事の用意しなきゃ! この世之介さんは【バンチョウ】なんだよ! 凄いだろ?」
茜の【バンチョウ】という言葉に、女性は驚きの表情を浮かべた。やはり茜の母親だったかと、世之介は一人うんうんと頷く。
「あらまあ、大変!」
母親は口をポカンと開け、ぱっと両手を挙げると、急ぎ足で家の中へ駆け込んだ。家の中から母親の叫び声が聞こえる。
「父ちゃん! 父ちゃん! 茜が【バンチョウ】さんを連れて帰ってきたよ! 挨拶しな!」
どたばたと足音が近づき、さっきの茜の母親が父親と思われる同じ年頃の男性の手を引いて表れた。父親は対照的にひどく痩せていて、度の強い眼鏡を掛けている。
「【バンチョウ】だって?」
眼鏡の奥からまじまじと世之介を見つめてきた。世之介は眼鏡を掛けた人間を見るのは初めてで、ひどく驚いた。この番長星では視力矯正は一般的でないのだろうか?
母親は顔を顰める。
「父ちゃん、そんな眼鏡を掛けていたら【バンチョウ】さんをよく見ることができないだろ! 外しなよ」
「ああ」と頷き、父親は眼鏡を外した。眼鏡のレンズ面に、何かの番組が映し出されている。
これは、テレビなのだ。眼鏡を外し、父親は目を皿のようにして世之介を観察する。
「初めまして。但馬世之介で御座います。茜さんにお世話を頂き、恐縮しております」
世之介は丁寧に頭を下げ、挨拶する。父親は吃驚した表情になった。
「ああ、そのう……ええと……」
ぱくぱくと口は動くが、虚しく言葉は出てこない。茜はさっと父親の手を引き叫んだ。
「それより、食事、食事! 皆、腹を空かせているんだから、何か食べよう!」
ぱっと世之介を振り向き、輝くような笑顔になる。
「世之介さんも、お腹は空いているよね?」
言われて世之介の腹部から「ぎゅうーっ」という音がしてくる。そうだ、あれから何も口にしていないんだ!
世之介の腹の音を耳にして、茜はころころと転がるような笑い声を上げた。
「じゃ、決まりね!」
どん、と勢い良く、世之介の背中を叩いた。
手を伸ばし、今度は世之介の手を引いた。
行き先は家の中ではなく、中心部の建物の家族食堂である。てっきり世之介は家の中で食事するのだと思っていて、戸惑った。
茜はその場にいた全員に叫んだ。
「飯だよ──! 皆、おいで──!」
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