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越後の隠居
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虚ろな目付きで、イッパチは睨みつけている世之介たちを見上げ、ぶるぶるっと顔を何度も左右に振った。
「信じておくんなせえ! わざとじゃねえんで……偶然、あっしの手が釦に触れただけなんですよう!」
「偶然だと?」
格乃進は唸った。
「馬鹿なことを申すな。偶然で、客室の非常脱出釦を押せるわけがない。客室を本体から切り離す非常脱出の手続きは、ただ釦を押しただけじゃ発動しない。何段階にも分けて、ちゃんとした操作をしなければ、動くはずがないんだ! 貴様、誰に雇われた?」
賽博格の顔が怖ろしげなものになった。問い詰める格乃進の勢いに、イッパチは真っ青になっている。
もう一人の助三郎という賽博格は、さっと世之介に向き直った。
「あんた、この杏萄絽偉童の主人だそうだな。本当に但馬屋の一人息子なのか? 今のうちに正体を明かしたほうが、身のためだぞ」
世之介は驚きに口をパクパクさせるだけだった。
「し、し、し、正体って……何を仰います? あっしは本当に、但馬世之介ってえ、ただの男でして……」
「まあまあ」
光右衛門は仲裁に入った。
「問い詰めるのは、そのくらいにして、これから先どうすれば良いか、考えねばな」
そうだ、客室は超空間を漂流しているんだった!
世之介は窓にしがみついた。しかし【滄海】の姿は、どこにも見えない。客室が切り離され、あっという間に遠ざかってしまったのだ。
目の前の奇妙な霧が、急速に晴れていく。
【滄海】の空間歪曲場から離れたので、通常空間に転移したのだ。窓外を、見慣れた宇宙空間の眺めが回復してくる。真っ黒な空間に、星々が無数に点在している眺めである。
「ここは、どこなんだろう……」
世之介の言葉に、格乃進は客室の操作卓を覗き込んでいる。格乃進の指先が、操作卓の表面で素早く動いた。それを見て、世之介はびっくりした。
「あんた! イッパチを責めたその口で、自分でやってるじゃないか! そんな真似をして、また何が起きるか、判らないよ!」
「心配ない」
格乃進は顔を上げた。
「客船の客室は、それ自体が宇宙船として機能する。今、船室の操縦装置を起動させた」
「へ?」
世之介はポカンと口を開け、ただただ格乃進の指先を眺めていた。さっきのイッパチの問い詰め方といい、今の自信ありげな様子といい、この賽博格は何者だろう?
「助さんと格さんは、わしの供になる前、宇宙軍の戦闘機乗組員だったので御座いますよ。除隊になった二人を、わしが声を掛け、旅のお供になって貰ったという訳でして」
光右衛門の説明に、世之介は納得した。宇宙軍にいたのなら、説明がつく。
「信じておくんなせえ! わざとじゃねえんで……偶然、あっしの手が釦に触れただけなんですよう!」
「偶然だと?」
格乃進は唸った。
「馬鹿なことを申すな。偶然で、客室の非常脱出釦を押せるわけがない。客室を本体から切り離す非常脱出の手続きは、ただ釦を押しただけじゃ発動しない。何段階にも分けて、ちゃんとした操作をしなければ、動くはずがないんだ! 貴様、誰に雇われた?」
賽博格の顔が怖ろしげなものになった。問い詰める格乃進の勢いに、イッパチは真っ青になっている。
もう一人の助三郎という賽博格は、さっと世之介に向き直った。
「あんた、この杏萄絽偉童の主人だそうだな。本当に但馬屋の一人息子なのか? 今のうちに正体を明かしたほうが、身のためだぞ」
世之介は驚きに口をパクパクさせるだけだった。
「し、し、し、正体って……何を仰います? あっしは本当に、但馬世之介ってえ、ただの男でして……」
「まあまあ」
光右衛門は仲裁に入った。
「問い詰めるのは、そのくらいにして、これから先どうすれば良いか、考えねばな」
そうだ、客室は超空間を漂流しているんだった!
世之介は窓にしがみついた。しかし【滄海】の姿は、どこにも見えない。客室が切り離され、あっという間に遠ざかってしまったのだ。
目の前の奇妙な霧が、急速に晴れていく。
【滄海】の空間歪曲場から離れたので、通常空間に転移したのだ。窓外を、見慣れた宇宙空間の眺めが回復してくる。真っ黒な空間に、星々が無数に点在している眺めである。
「ここは、どこなんだろう……」
世之介の言葉に、格乃進は客室の操作卓を覗き込んでいる。格乃進の指先が、操作卓の表面で素早く動いた。それを見て、世之介はびっくりした。
「あんた! イッパチを責めたその口で、自分でやってるじゃないか! そんな真似をして、また何が起きるか、判らないよ!」
「心配ない」
格乃進は顔を上げた。
「客船の客室は、それ自体が宇宙船として機能する。今、船室の操縦装置を起動させた」
「へ?」
世之介はポカンと口を開け、ただただ格乃進の指先を眺めていた。さっきのイッパチの問い詰め方といい、今の自信ありげな様子といい、この賽博格は何者だろう?
「助さんと格さんは、わしの供になる前、宇宙軍の戦闘機乗組員だったので御座いますよ。除隊になった二人を、わしが声を掛け、旅のお供になって貰ったという訳でして」
光右衛門の説明に、世之介は納得した。宇宙軍にいたのなら、説明がつく。
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