ウラバン!~SF好色一代男~

万卜人

文字の大きさ
上 下
10 / 106
お前の尻を見せろ!

3

しおりを挟む
 がっしりと両肩を怖ろしいほどの力で押さえつけられ、世之介は身動きできなくなってしまった。気がつくと、背後からイッパチが世之介を羽交い絞めにしている。イッパチは、奇妙な無表情で、世之介に話し掛けた。
「若旦那! 堪忍しておくんなせえ。あっしには、大旦那様に助けて頂いた恩儀が御座います。大旦那様の命令は、絶対なんで」
 イッパチが何で従いてくるのかと不思議だったが、これで得心した! 世之介を押さえつけ、拘束するためだったのだ。見かけによらず、杏萄絽偉童は人間を凌駕する馬鹿力の持ち主である。
 すっと立ち上がった省吾は、世之介に一礼して背後に回った。省吾さえ裏切った! いや、初めから父親に命じられていたのだろう。
「世之介坊っちゃん。大旦那様のご命令です。失礼で御座いますが、下穿きを取らして頂きます」
「おい! よしとくれ! そんな無体な……!」
 抗議の声を上げたが、無駄であった。背後から省吾は無言で世之介の袴を引き抜き、尻を捲り上げる。世之介の越中褌を剥がし、裸の尻を剥き出しにした。
 ゆっくりと父親は立ち上がると、廊下に回り、上から厳しい顔つきで世之介の尻を睨みつけた。
 世之介は泣き声を上げる。
「お父っつあん! 何で、こんな真似をなさるんで? まさか、お父っつあんにそんな趣味があったとは……?」
 じっと睨みつけていた父親は、ふっと視線を逸らすと再び元の席へ戻っていく。はあーっ、と溜息を漏らし、首をゆっくりと、左右に振った。
「もういい」と父親が手を振ると、さっと押さえつけていたイッパチの手が緩んだ。そそくさと世之介は身支度を整え、息を荒げた。
「お父っつあん! 説明して貰いましょう。なんで、こんな無体な真似を?」
 父親は腕組みをして目を閉じている。薄目が開き、世之介を流し目で見る。
「お前、初代の世之介様のことは、知っているかえ?」
「へえ、江戸時代の戯作者、井原西鶴ってお人が『好色一代男』ってえ本にお書きになったそうですね」
「わたくしたち但馬屋のご先祖だ。初代様は題名の通り、大変な好色で、なんと九つの頃に初体験を済まされたと、あの本には書かれている。それで、代々の世之介もまた、女好きで続いている」
 上目遣いになって世之介は父親に尋ねた。
「お父っつあんも、そうなんで?」
 父親は、ふっと苦い笑いを浮かべた。
「わたしは、そんな好色ではないよ。なにしろ、こんなご時世だ。初代様の真似をすれば、たちまち世の非難を浴びる。しかし、お前は記念すべき七十七代目だ。少しは違うと思ったが、やはり、世の習いらしいな。お前、まだ初体験は済ませていないんだろう?」
 まともに尋ねられ、世之介の頬がかっと熱くなる。
「それが何です? あっしの初体験が、そんなに大事なことなんですか! 第一、どうして、そのことが判るんです」
「判る」
 父親は短く答え、じろりと世之介を睨む。
「さっき、お前の尻を見せろと言ったのは、そのためだ。我が但馬家の男子には代々、ある特異体質が受け継がれている。普通、赤ん坊の尻は青い。蒙古斑というやつだな。成長するに従い、自然に消えていくが、どういうものか、但馬家の男子の蒙古斑は成長しても絶対に消えない。消すには、女性と〝そのこと〟をしなければならない。だから判るんだ。お前、童貞だろう」
 ポカンと、世之介は目を丸くして、がっくりと顎を下げ、情けない息を吐き出す。袴の上から自分の尻を押さえる。自分の尻など、見たことあるものか!
「そ、そ、そ、それが、な、な、何だってんです! 童貞で悪うござんすか!」
 父親は眉間に皺を寄せた。
「わたしは、お前が世之介の名前に相応しい男かどうか、学問所に通うお前を密かに調べていたのだ。学問所の師範、級友などに、お前の評判を調べさせた。そうしたところ、皆、異口同音に言うことには、真面目そのもの。女遊びなんか、これっぽっちも考えられないと、口を揃えて答えたそうだ」
 世之介は激昂して抗議した。
「真面目でよござんしょう? うちは、代々の商人で御座います。商人が真面目でなくて、どうして務まりましょうか?」
 父親は頷いて、言葉を続けた。
「世間では、そうだ。だが、この但馬家では違う。お前は世之介の名前の面汚しだ!」
 ぐっと指を突きつける父親に、世之介はゆるゆると首を振った。
 どうすればいいのだ!
「初代様、それに、代々のご先祖に、これでは申し訳がたたない。世之介の名前を汚さぬよう、お前、十八になるまで、何が何でも初体験を済ませるんだ。とにかく、お前の尻の青さを消しておしまい! それでなければ、但馬家の長男ではない!」
 世之介は驚きに仰け反った。
「そんな、無茶な!」
「無茶でも何でも、童貞を捨てるんだ。そうでなければ、お前は廃嫡はいちゃく、勘当だ!」
「はっ、廃嫡! か、か、か、勘当っ!」
 世之介は叫んでいた。
 膝をにじらせ、省吾が世之介と父親の中間に位置を変え、口を開いた。
「大旦那様……。世之介坊っちゃんも、初めて聞くお話で、大層な混乱をなさっておいでです。ここは一つ、この木村省吾めにお預けになすっては、如何で御座いましょう」
 父親は意外そうに省吾を見た。
「お前が? 何か腹案があるのかえ?」
「はい」と省吾は自信ありげに頷いた。父親は顎を引き、何か考え込む視線で、大番頭を眺めた。
 やがて重々しく「よかろう」と頷く。
「お前に任せよう」
 省吾は深々と頭を下げ「有難う御座います」と礼を言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒトシと一緒!

ねこにごはん
SF
 (゚)(゚) 彡  と & (´・ω・`)

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

【改訂版】異世界転移で宇宙戦争~僕の専用艦は艦隊旗艦とは名ばかりの単艦行動(ぼっち)だった~

北京犬(英)
SF
本作はなろう旧版https://ncode.syosetu.com/n0733eq/を改稿したリニューアル改訂版になります。  八重樫晶羅(高1)は、高校の理不尽な対応で退学になってしまう。 生活に困窮し、行方不明の姉を探そうと、プロゲーマーである姉が参加しているeスポーツ”Star Fleet Official edition”通称SFOという宇宙戦艦を育てるゲームに参加しようと決意する。 だが待ち受けていたのは異世界転移。そこは宇宙艦を育てレベルアップさせることで生活をする世界で3年縛りで地球に帰ることが出来なかった。 晶羅は手に入れた宇宙艦を駆り、行方不明の姉を探しつつデブリ採取や仮想空間で模擬戦をして生活の糧とします。 その後、武装少女のアバターでアイドルになって活動したり、宇宙戦争に巻き込まれ獣耳ハーレムを作ったりします。 宇宙帝国で地位を得て領地経営で惑星開発をしたり、人類の天敵の機械生命との戦闘に駆り出されたり波瀾万丈の生活をおくることになります。 ぼっちのチート宇宙戦艦を育てて生き残り、地球への帰還を目指す物語です。 なろうでも公開していますが、最新話はこちらを先行公開する予定です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...