キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~

万卜人

文字の大きさ
上 下
101 / 103
第十章

邂逅

しおりを挟む
 三人が席に落ち着くとほどなく、ガンガガンのイベントショーが開幕した。演台に司会の女性が立って、かぶりつきに座っている熱心なファンに向かって煽り立て、スピーカーからはガンガガンのアニメ主題歌が、音量を限界まで大きくして流されていた。
 ガンガガンと敵のオータック大魔王の戦いがあって、ガンガガンが不利になる。すると観劇している幼児、小学生の間から悲鳴が上がった。
 すぐさま楽屋通路から、リームのコスチュームを身に着けた新たな演者が登場した。リームはガンガガンに代わってオータック大魔王の配下と戦い、形勢は逆転した。
 たちまち子供たちの間から、リームに向かって声援が飛んだ。

 その時、美登里とリームの視線が絡み合った。
 いや、リームを演じている演者は、コスチュームを身に着け、すっぽりと顔を覆うマスクを被っているため、視線が合ったとは言い難いが、美登里にははっきりとリームのマスク越しに、自分を認めている相手の視線を感じることが出来た。
 美登里はアイリスを見た。
 アイリスは強く頷いていた。
「美登里はん。なんやしらん、ウチはこのために日本に来た……そんな気になってきましてん……。ウチ、変やろか?」
 美登里は大きく首を横に振り、腕を伸ばしてアイリスの手を握りしめた。
「そんなことないわ! あたしも同じこと感じているの……」

 二人が早口に話し合っているのを、神山はポカンと大口を開けて見守っていた。
 気が付くと、あれほど大きな音量で流されていたガンガガンのテーマ音楽が途絶えていた。美登里がショーに目をやると、リームの姿が消えている。
 驚いて美登里が周囲を見回すと、意外にもすぐそばにリームのコスチュームを身に着けた演者が立っていた。
 こうしてすぐ近くに立っている姿を見ると、意外に小柄だと美登里は思った。
 その演者は腕を上げ、リームのマスクを自分で外した。現れたのは幼い顔立ちの、少女と言えるほどの女の子の顔だった。
 彼女は美登里とアイリスに向かって、震え声で話し掛けた。
「あんたたち、何者? あんたたちの姿が目に留まった瞬間、何もかも放り出してしまいたいと思ったのよ。何が起きているの?」
 そこまで口にして、改めて気が付いたように自己紹介を始めた。
「あたしは松野桃華。このガンガガンのスーツアクター。初めて会うけど、産まれる前から知り合いのような気がしてならないの」

 美登里が何か言いかけた瞬間、別の方角から新たな声が聞こえてきた。
「そこにいるのは崎本美登里と、翻訳のアイリス加藤だな!」
 美登里とアイリスが驚いて声の方角を見ると、そこには奇妙な四人組が立っていた。
 まず目につくのは真っ赤な髪の毛をした、ピンク色の縁の眼鏡を架けた女の子。傍には一卵性双子らしき同じ顔立ちの二人の女の子。三人は同じ高校の生徒らしく、制服を身に着けていた。三人はどれも甲乙つけがたい美少女で、その背後にはどことなく茫洋とした風貌の男子高校生が立っていた。
 声を掛けたのは、ピンク色の縁をした眼鏡の女の子らしかった。づかづかと彼女は美登里に近づくと、ニヤッと笑いかけた。
「オイラがあんたらが探している紅蓮だよ。まあ、会えてよかったと言っておこう」
 ガンガガンの作者に会えた、という驚きを美登里は感じるべきだったのだが、今はそんなものを感じる余裕はなかった。
 それよりも美登里は、背後で所在無げに立っている男子高校生に目が離せなかった。
 アイリスも同じで、息をつめ、その男子高校生を熱っぽく見詰めている。
 いや、リームを演じた松野桃華と名乗った女の子も、同じように男子高校生から視線を離せないでいた。
 三人の熱っぽい視線を浴び、男子高校生は明らかに戸惑っていた。ぱくぱくと何度も口を開き、おどおどと周囲を見回した。
「あ、あの……どういうこと?」
「ようやく会えましたね」
 穏やかだが、威厳のこもった女性の声が響いた。
 そちらを見ると、亜麻色の髪の毛を複雑な形に編み上げた、すらりとした痩身の女性が大股に近寄ってきたところだった。年齢は見当がつかず、美登里より年上のように見えるし、あるいはずっと年下のようにも見えた。
「藍里!」
「藍里はん!」
 男子高校生とアイリスが同時に叫んだ。叫んだ二人は顔を見合わせ「あーっ!」とお互いを指さした。
「あんた流可男はんやないか?」
「そういう君はアイリスか!」
 美登里は完全に混乱していた。
「アイリス、その男の子、知り合いなの?」
 アイリスは激しく頷いた。
「そや! ウチが『蒸汽帝国』ちゅうゲームで知り合ったプレイヤーや! そこの藍里はんも同じや!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...