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第十章
相談
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双子姉妹に何があったんだ……。
僕は今の光景に、恐怖すら覚えていた。
今まで新山姉妹に抱いていた印象は、大人しくて他人の言うことを素直に聞く、可愛い妹、といったものだった。
実際、メールでの遣り取りでも、双子は僕に対し、しきりと「お兄様」という呼びかけをしてくれる。そのたびに、僕の心の中でぐいっと何かが揺さぶられたのだが、親衛隊女子を視線だけでねじ伏せた今の光景は、まったく信じられないものだった。
僕は立ち上がり、急ぎ足で学食を出た。
出入り口に立つと、廊下の向こうに双子の後ろ姿が目に入った。
僕はほとんど駆け足になって、双子に追いついた。
「ねえ、ちょっと……」
呼びかけにするにはちょっと変だと思うが、双子は僕の声にくるっと一挙動で振り向いた。踵を支点にして、まるでバレエのターンのように素早く動いた。
スカートの裾がふわりと開き、二人のポニー・テールとツイン・テールの髪が遅れて揺れた。
うう……萌えるじゃないか!
いかん!
これじゃあの親衛隊のリーダーが言った通り、完全にキモオタのロリコンだ!
僕はぶるっと頭を振って、双子の魅力に負けまいと心の中の「萌え」を追い出した。
「お兄様、どうしたの?」
姉の檸檬が小さく小首を傾げた。
「汗をかいているわ」
妹の蜜柑が同じように小首を傾げて僕を見上げた。全く同じ顔の双子が、大きな瞳を見開き、瞬きもしないで僕を見つめる。
僕は大きく息を吐き出すと、必死の思いで呼吸を整え、言葉を押し出した。
「い、今のは、何があった?」
僕の問いに二人は同じ顔を見合わせ「だってねえー」と声を合わせる。
「あの人たち、あたしたちが芸能界デビューしないといけない! っていうんだもの」
「そんなのあたしたちの勝手じゃないの。そう言ったら」
「まるであたしたちが悪いことしたみたいに言うのよお」
「これって人権侵害だわ」
双子は、交互に言葉をしりとりゲームのように繋げて言い合う。
今まで双子はドラクエのプレイヤー・キャラのように「はい」か「いいえ」の二言しか口にしなかった。信じられないことに、今では怒涛のように様々な言葉を僕に向かって発していた。
僕はどう言えばいいか、焦って両腕を風車のようにぶんぶんと振り回していた。
「そうじゃなくって、どうして君らが睨んだだけで、女子生徒がいっぺんに尻もちをついたか、ってことなんだ。君ら、あいつらに手も触れなかった。それなのに、あいつらバタバタと倒れて……」
「いやーだ!」
檸檬が満面の笑みを浮かべ、ふざけた様子で手を振って僕の腕を叩いた。蜜柑が同じように僕を見上げ、言葉を引き取った。
「それじゃあたしたち、超能力者みたいじゃないの?」
蜜柑の「超能力者」という言葉に、僕は凝然となった。
そうだ……ここ数日の奇妙な出来事……双子だけじゃなく、僕自身、そして真兼朱美に起きた変化……それを繋ぐ鍵として、もしかして超自然的な出来事が関わっているのかもしれない。
不意に僕の脳裏に、佐々木藍里の姿が浮かんでいた。
これには絶対、藍里が何らかの形で関わっている……。
それは確信となって、僕の胸の奥深くにどっしりと居座った。
「じゃあお兄様!」
「明日のデート、忘れないで」
ふふふふ……軽やかな笑い声を残し、双子は足早に去っていった。
あれ、今のは檸檬が先に言ったのか、それとも蜜柑だっけ?
僕はポケッと、馬鹿のように廊下の真ん中で立ち尽くしていた。
朱美に相談しよう……。
僕の脳裏に、天啓のようにそんな思い付きが浮かんでいた。
僕は今の光景に、恐怖すら覚えていた。
今まで新山姉妹に抱いていた印象は、大人しくて他人の言うことを素直に聞く、可愛い妹、といったものだった。
実際、メールでの遣り取りでも、双子は僕に対し、しきりと「お兄様」という呼びかけをしてくれる。そのたびに、僕の心の中でぐいっと何かが揺さぶられたのだが、親衛隊女子を視線だけでねじ伏せた今の光景は、まったく信じられないものだった。
僕は立ち上がり、急ぎ足で学食を出た。
出入り口に立つと、廊下の向こうに双子の後ろ姿が目に入った。
僕はほとんど駆け足になって、双子に追いついた。
「ねえ、ちょっと……」
呼びかけにするにはちょっと変だと思うが、双子は僕の声にくるっと一挙動で振り向いた。踵を支点にして、まるでバレエのターンのように素早く動いた。
スカートの裾がふわりと開き、二人のポニー・テールとツイン・テールの髪が遅れて揺れた。
うう……萌えるじゃないか!
いかん!
これじゃあの親衛隊のリーダーが言った通り、完全にキモオタのロリコンだ!
僕はぶるっと頭を振って、双子の魅力に負けまいと心の中の「萌え」を追い出した。
「お兄様、どうしたの?」
姉の檸檬が小さく小首を傾げた。
「汗をかいているわ」
妹の蜜柑が同じように小首を傾げて僕を見上げた。全く同じ顔の双子が、大きな瞳を見開き、瞬きもしないで僕を見つめる。
僕は大きく息を吐き出すと、必死の思いで呼吸を整え、言葉を押し出した。
「い、今のは、何があった?」
僕の問いに二人は同じ顔を見合わせ「だってねえー」と声を合わせる。
「あの人たち、あたしたちが芸能界デビューしないといけない! っていうんだもの」
「そんなのあたしたちの勝手じゃないの。そう言ったら」
「まるであたしたちが悪いことしたみたいに言うのよお」
「これって人権侵害だわ」
双子は、交互に言葉をしりとりゲームのように繋げて言い合う。
今まで双子はドラクエのプレイヤー・キャラのように「はい」か「いいえ」の二言しか口にしなかった。信じられないことに、今では怒涛のように様々な言葉を僕に向かって発していた。
僕はどう言えばいいか、焦って両腕を風車のようにぶんぶんと振り回していた。
「そうじゃなくって、どうして君らが睨んだだけで、女子生徒がいっぺんに尻もちをついたか、ってことなんだ。君ら、あいつらに手も触れなかった。それなのに、あいつらバタバタと倒れて……」
「いやーだ!」
檸檬が満面の笑みを浮かべ、ふざけた様子で手を振って僕の腕を叩いた。蜜柑が同じように僕を見上げ、言葉を引き取った。
「それじゃあたしたち、超能力者みたいじゃないの?」
蜜柑の「超能力者」という言葉に、僕は凝然となった。
そうだ……ここ数日の奇妙な出来事……双子だけじゃなく、僕自身、そして真兼朱美に起きた変化……それを繋ぐ鍵として、もしかして超自然的な出来事が関わっているのかもしれない。
不意に僕の脳裏に、佐々木藍里の姿が浮かんでいた。
これには絶対、藍里が何らかの形で関わっている……。
それは確信となって、僕の胸の奥深くにどっしりと居座った。
「じゃあお兄様!」
「明日のデート、忘れないで」
ふふふふ……軽やかな笑い声を残し、双子は足早に去っていった。
あれ、今のは檸檬が先に言ったのか、それとも蜜柑だっけ?
僕はポケッと、馬鹿のように廊下の真ん中で立ち尽くしていた。
朱美に相談しよう……。
僕の脳裏に、天啓のようにそんな思い付きが浮かんでいた。
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