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第九章
アイディア
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釜飯屋は白い歯を見せた。びっしりと小さめの歯が並んだその口は、まるで鮫を思わせた。
「コミケでは無理でも、SF大会ならどうだ? 表看板に大会を利用して、オタクたちを集める。同時にその大会で自警団結成を呼び掛ける。一石二鳥だ!」
牧野は顔をしかめた。
「会場はどうするの? SF大会、なんて看板を掲げたら、どこの会場だって貸してくれないに決まってるわ!」
「現実世界ではね」
良太がぼそりと呟いた。
牧野はギョッとした表情になって、中学生の少年を見詰めた。
「あんた、何言っているの?」
「仮想現実なら、どんな広い会場でも可能だって言ってるんだ!」
良太は立ち上がり、興奮した様子で口早に説明を始めた。
「〝蒸汽帝国〟って仮想現実ゲームがある! あれには多くのオタクが接続して、プレイしているんだ。フィギアや同人誌も、電子データとなって取引されて、いわば毎日がコミケやワンフェスみたいなもんだ! あのゲームの中に会場を用意して、みんなを集めればいい。ゲームの中の出来事だから、突撃隊にも気づかれないし」
中学生の熱弁に、一同は呆気に取られていた。いや、釜飯屋だけはニヤニヤ笑いを絶やさず悠然と構えていた。
「面白い……そのアイデアは、実に面白い……」
萩野谷は釜飯屋に向き直った。
「実現できる、というのか?」
釜飯屋はうなずいた。
「多分な」
釜飯屋の答えに、桃華はハッとなった。
「でも釜飯屋さんは……」
牧野がポカンと口を開き呟いた。
「そうよ。仮想現実に繋がるにはHMDがいるし……それに……」
目が見えないし、という言葉を牧野は呑み込んだように慌てて俯いた。
くっくっくっくっ……と釜飯屋は乾いた笑い声を上げた。
「それなら心配いらないよ。現に俺は、ずーっと前から〝蒸汽帝国〟ではプレイヤーの一人として参加しているからな」
「あんたが?」
萩野谷が心底仰天した、といった口調で叫んだ。
釜飯屋は良太に向かって話し掛けた。
「坊や、君のアイディアはいただきだ! それじゃ祝杯代わりに、一つサービスしてやろう!」
釜飯屋は素早い動きでソファから立ち上がり、一方の端にあるデスクに歩み寄った。デスクの上のスイッチを操作すると、出し抜けに部屋の中に、大きな音で勇壮な音楽が鳴り響いた。
桃華は知らなかったが、これはバリー・グレイ作曲によるサンダーバードのテーマだった。
良太が窓を向いて叫んだ。
「プールが!」
ディスプレイの映像に映し出されるプールが、静々と動き始めていた。プール全体が横に滑り、その後に空洞が現れた。
どどどどど……と腹に響く重低音が部屋を満たし、プールの下から白い煙が立ちのぼり始めた。
その煙の中から、銀色に輝く流線型の物体がゆっくりと持ち上がってきた。それはほっそりとしたロケットで、尾部からオレンジ色の炎を吐き出し、力強く上昇していった。上昇していくとき、桃華は横腹に「1」という番号をちらっと確認していた。
「サンダーバード1号の発射シーンだ……」
良太は感動した様子で、茫然と呟いていた。
なるほど……このために巨大なディスプレイを窓の代わりにしているのか、と桃華は納得していた。
まったく金持ちのオタクのやることには、際限がない!
「コミケでは無理でも、SF大会ならどうだ? 表看板に大会を利用して、オタクたちを集める。同時にその大会で自警団結成を呼び掛ける。一石二鳥だ!」
牧野は顔をしかめた。
「会場はどうするの? SF大会、なんて看板を掲げたら、どこの会場だって貸してくれないに決まってるわ!」
「現実世界ではね」
良太がぼそりと呟いた。
牧野はギョッとした表情になって、中学生の少年を見詰めた。
「あんた、何言っているの?」
「仮想現実なら、どんな広い会場でも可能だって言ってるんだ!」
良太は立ち上がり、興奮した様子で口早に説明を始めた。
「〝蒸汽帝国〟って仮想現実ゲームがある! あれには多くのオタクが接続して、プレイしているんだ。フィギアや同人誌も、電子データとなって取引されて、いわば毎日がコミケやワンフェスみたいなもんだ! あのゲームの中に会場を用意して、みんなを集めればいい。ゲームの中の出来事だから、突撃隊にも気づかれないし」
中学生の熱弁に、一同は呆気に取られていた。いや、釜飯屋だけはニヤニヤ笑いを絶やさず悠然と構えていた。
「面白い……そのアイデアは、実に面白い……」
萩野谷は釜飯屋に向き直った。
「実現できる、というのか?」
釜飯屋はうなずいた。
「多分な」
釜飯屋の答えに、桃華はハッとなった。
「でも釜飯屋さんは……」
牧野がポカンと口を開き呟いた。
「そうよ。仮想現実に繋がるにはHMDがいるし……それに……」
目が見えないし、という言葉を牧野は呑み込んだように慌てて俯いた。
くっくっくっくっ……と釜飯屋は乾いた笑い声を上げた。
「それなら心配いらないよ。現に俺は、ずーっと前から〝蒸汽帝国〟ではプレイヤーの一人として参加しているからな」
「あんたが?」
萩野谷が心底仰天した、といった口調で叫んだ。
釜飯屋は良太に向かって話し掛けた。
「坊や、君のアイディアはいただきだ! それじゃ祝杯代わりに、一つサービスしてやろう!」
釜飯屋は素早い動きでソファから立ち上がり、一方の端にあるデスクに歩み寄った。デスクの上のスイッチを操作すると、出し抜けに部屋の中に、大きな音で勇壮な音楽が鳴り響いた。
桃華は知らなかったが、これはバリー・グレイ作曲によるサンダーバードのテーマだった。
良太が窓を向いて叫んだ。
「プールが!」
ディスプレイの映像に映し出されるプールが、静々と動き始めていた。プール全体が横に滑り、その後に空洞が現れた。
どどどどど……と腹に響く重低音が部屋を満たし、プールの下から白い煙が立ちのぼり始めた。
その煙の中から、銀色に輝く流線型の物体がゆっくりと持ち上がってきた。それはほっそりとしたロケットで、尾部からオレンジ色の炎を吐き出し、力強く上昇していった。上昇していくとき、桃華は横腹に「1」という番号をちらっと確認していた。
「サンダーバード1号の発射シーンだ……」
良太は感動した様子で、茫然と呟いていた。
なるほど……このために巨大なディスプレイを窓の代わりにしているのか、と桃華は納得していた。
まったく金持ちのオタクのやることには、際限がない!
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