上 下
86 / 103
第九章

オタクは面倒臭い

しおりを挟む
 玄関は白い、両開きのドアになっていて、見上げるほど巨大な扉だった。
 ドアに近づくと、横の壁の一部が丸く開き、そこから金属のアームが突き出された。アームの先端には同じ材質の球体が接続されている。蓋がパカッと開くと、スピーカーらしき装置になっていた。
「用件を話せ!」
 スピーカーから、さっきと同じキンキン声が聞こえてきた。
 突き出されたスピーカーを見上げ、良太が目を輝かせた。
「わあ! ジャバ・ザ・ハットの入り口みたいだ!」
 桃華の顔色を見て、萩野谷が小声で説明した。
「〝スター・ウォーズ〟三作目の〝ジェダイの帰還〟に出てくる場面でね。ジャバ・ザ・ハットとは、有名な悪役キャラクターだ」
 桃華は「なるほど」と納得した。良太はSFオタクなのだ。中学生という年齢に関わらず、驚くほど古いSF映画や、小説に詳しい。
 良太はニヤッと笑いを浮かべると、妙に甲高い声でスピーカーに話し掛けた。
「贈り物をしに、参上いたしましたです。ジャバ様によしなに願います……」
 萩野谷が桃華に囁いた。
「同じ場面でC3POが入り口を通過するために言うセリフだ。さて通じるか?」
 萩野谷の言葉が終わる前に、巨大な扉が、静々と内側に開き始めた。萩野谷と良太は顔を見合わせ「やったね!」とばかりに満面の笑みを浮かべて頷き合った。
 二人の様子を見て、桃華は「オタクは面倒臭い」と心底思った。単に訪問するだけで、お互いのオタク知識を確認し合わなければ一歩も進めないのではないか?
 開いた扉を通り過ぎ、四人は室内に踏み込んだ。
 目が暗さに慣れると同時に、桃華を除く三人は歓声を上げた。
「おおっ! 凄え!」
 と、これは萩野谷の声。
「ビョーキよ! この家の主人は、完全におビョーキなのよ!」
 腐女子の牧野が捲し立てた。
 中学生の良太は、最初に歓声を上げたまま完全に茫然としていた。
 桃華は良太に話し掛けた。
「何が凄いのよ? ちょっと変わっている内装だけど」
 良太は呆れたように桃華を見た。
「君、〝スター・ウォーズ〟を観ていないのか?」
 良太のタメ口に、ちょっとムッとなったが、堪えて、桃華は首を横に振った。見かけが小中学生に見えるため、良太はついつい桃華に対し、同世代のような口調になる。
「ここはスター・ウォーズのデス・スター内部そっくりに作ってあるんだ。まるで映画のセットみたいだ……」
 説明する良太はうっとりとなっていた。
 全体に金属質の壁に、床は光沢のある同じく黒々とした材質だった。壁には間隔を置いて白く光る照明を配置し、メカニックな雰囲気を放っている。
 スター・ウォーズという映画を知らなくとも、この家の中がひどく金をかけ凝った作りになっていることは、桃華には判った。
 廊下の一方には、デス・スターにミレミアム・ファルコン号が強制着陸されたハンガー・デッキが再現されていた。もちろんミニチュアではあるが、巧みな遠近感の再現により、迫真のセットとなっていた。
 ハンガー・デッキに着陸したミレミアム・ファルコン号の周りには、帝国のストーム・トルーパーが、真っ白な装甲を身に着け、ずらりと整列している。無論、ミニチュアではあるが、精巧な作りで、まるで本物のデッキを覗きこんでいるように見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

処理中です...