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第八章
ツッパリの逆襲
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クラスを取り仕切る番長に選ばれるには、二つの方法がある。
ひとつはクラスの全員に「あいつは根性がある」「気合いが入っている」と認められること。そのためには「根性があり」「気合いが入っている」格好をすることが必要だ。ツッパリらしい服装、髪型、喋り方を徹底することで認められる。
もうひとつはタイマン勝負で勝利することだ。
これは滅多に行われない。
何しろタイマン勝負とは、喧嘩だからだ。
喧嘩をすると怪我をする怖れがある。
ツッパリは万が一にも怪我や、痛みを味わう危険は病的に避けるものだ。だからタイマン勝負をするときは、絶対に勝てる相手を選ぶ。体力的にも、精神的にも圧倒的に有利と判断しないと、勝負をしようとはしない。その点、石橋を叩いても渡らない。
明日辺流可男を相手なら、絶対負けない自信が綿貫にはあるのだろう。だからタイマン勝負を仕掛けてきた。
今まで僕がタイマン勝負に巻き込まれなかったのは、朱美の婚約者という立場に守られてきたからだ。昔風の言い方なら「女のスカートに隠れている」ってやつだ。
しかし僕が新山姉妹にデートを申し込んだ、という事実が朱美の許嫁という立場を消滅させた。
と、全校のツッパリは判断したのだろう。
今まで殺したいほど気に食わない、キモオタのしかもロリコン(と思われている)明日辺流可男をタイマンに引っ張り出せるチャンスが来て、ツッパリたちは狂喜している。
僕は誰からも好かれない。
特に僕を嫌うのは、友人を大事にし、家族を大切にし、目上を敬い、目下には親切にすることを信条とするツッパリだ。
そんなツッパリにすれば、僕は目障りでしかたない存在なのだろう。
両足を踏ん張り、ニヤニヤ笑いを浮かべる綿貫は、ジロリと周囲を見回し大きく息を吸い込んで喚きだした。
「明日辺! キモオタの癖しやがって、オラっちとタメ口を利くのは生意気なんだっぺよ! おめえなんか、オラっちとは敬語でくっ喋らないと釣り合わねえっぺ!」
綿貫は語尾に「っぺ!」とやるときに、口中の唾を溜め込み、空中に霧のように吐き出した。
うわあ……なるべく近くでは話し合いたくはないなあ……。
そんなことを反射的に思うと、つい僕の表情筋は笑い顔を作ってしまう。
僕の笑い顔を見て、たちまち綿貫の顔が茹蛸のように真っ赤に染まった。
「何、ヘラヘラ、ヘラヘラ笑ってんのだあ? オラっちを舐めてんだっぺ!」
僕は救いを求め、周囲を見回した。
当然ながら、この場を止める人間は一人も存在しない。担任の大賀は、白昼生徒同士が殴り合いの喧嘩を始めようというのに、平然と見守っている。
ひとつはクラスの全員に「あいつは根性がある」「気合いが入っている」と認められること。そのためには「根性があり」「気合いが入っている」格好をすることが必要だ。ツッパリらしい服装、髪型、喋り方を徹底することで認められる。
もうひとつはタイマン勝負で勝利することだ。
これは滅多に行われない。
何しろタイマン勝負とは、喧嘩だからだ。
喧嘩をすると怪我をする怖れがある。
ツッパリは万が一にも怪我や、痛みを味わう危険は病的に避けるものだ。だからタイマン勝負をするときは、絶対に勝てる相手を選ぶ。体力的にも、精神的にも圧倒的に有利と判断しないと、勝負をしようとはしない。その点、石橋を叩いても渡らない。
明日辺流可男を相手なら、絶対負けない自信が綿貫にはあるのだろう。だからタイマン勝負を仕掛けてきた。
今まで僕がタイマン勝負に巻き込まれなかったのは、朱美の婚約者という立場に守られてきたからだ。昔風の言い方なら「女のスカートに隠れている」ってやつだ。
しかし僕が新山姉妹にデートを申し込んだ、という事実が朱美の許嫁という立場を消滅させた。
と、全校のツッパリは判断したのだろう。
今まで殺したいほど気に食わない、キモオタのしかもロリコン(と思われている)明日辺流可男をタイマンに引っ張り出せるチャンスが来て、ツッパリたちは狂喜している。
僕は誰からも好かれない。
特に僕を嫌うのは、友人を大事にし、家族を大切にし、目上を敬い、目下には親切にすることを信条とするツッパリだ。
そんなツッパリにすれば、僕は目障りでしかたない存在なのだろう。
両足を踏ん張り、ニヤニヤ笑いを浮かべる綿貫は、ジロリと周囲を見回し大きく息を吸い込んで喚きだした。
「明日辺! キモオタの癖しやがって、オラっちとタメ口を利くのは生意気なんだっぺよ! おめえなんか、オラっちとは敬語でくっ喋らないと釣り合わねえっぺ!」
綿貫は語尾に「っぺ!」とやるときに、口中の唾を溜め込み、空中に霧のように吐き出した。
うわあ……なるべく近くでは話し合いたくはないなあ……。
そんなことを反射的に思うと、つい僕の表情筋は笑い顔を作ってしまう。
僕の笑い顔を見て、たちまち綿貫の顔が茹蛸のように真っ赤に染まった。
「何、ヘラヘラ、ヘラヘラ笑ってんのだあ? オラっちを舐めてんだっぺ!」
僕は救いを求め、周囲を見回した。
当然ながら、この場を止める人間は一人も存在しない。担任の大賀は、白昼生徒同士が殴り合いの喧嘩を始めようというのに、平然と見守っている。
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