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第八章

視線

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「腹が減った!」と訴える朱美のために、院長は出前を頼み、僕は院長の診察で「異常なし!」というお墨付きをもらって保健室を出た。
 高校の廊下は僕の足音だけがペタペタと響いて、森閑としていた。
 奇妙だった。
 授業中ではあるが、こんなに静まり返っているのは少し異常だ。普通は教師の講義の声や、校庭では運動部などの活動する物音が聞こえていなければならない。
 何より生徒の大半を占めるツッパリ、ヤンキーたちが教師の講義に冷やかしや、揶揄いの邪魔をする蛮声が上がって、高校中がざわめいているはずだ。
 まるで無人の校舎を歩くような気持ちになって、僕はつい「今日は休日だっけ?」と思っていた。
 無論、そんなことはない。
 僕の足は、自分のクラスへと向かっていた。
 何しろ僕は歴とした真兼高校二年生だ。平日なら、きちんと授業を受けなければならない。
 ツッパリやヤンキーだって、授業時間にはきっちりと教室に入って、講義を受ける。
 意外でしょ?
 ツッパリやヤンキーとは不良のことだ。不良が真面目に授業を受けるなんて、信じられないだろう。でも結構、奴らはきちんきちんと出席している。不良っぽい格好をしているが、実は卒業証書だけはバッチリ手に入れることが大切だからだ。
 僕だって卒業証書は手に入れたい。
 うっかり留年なんてことになったら、真兼町脱出という僕の目標が遠ざかる。
 首をひねりながら、僕は渡り廊下を歩いた。
 保健室のある第二校舎と、僕のクラスのある本校舎とは、中庭の渡り廊下で繋がれている。渡り廊下からは、校舎の教室の窓が目に入った。
 何だ?
 校舎の窓がほとんど開け放たれ、そこには生徒たちが鈴なりになって渡り廊下を歩く僕を、じーっと観察していた。
 理由が判らず、僕はことさら生徒たちを無視して歩き続けた。視線は粘りつくようで、背中に突き刺すようだった。
 少なくとも好意の視線ではない。
 あるのは何かを待ち受ける、意地の悪い期待感だ。
 渡り廊下から本校舎へ入り、僕のクラスの教室へ向かう。
 入り口の引き戸を開けた瞬間、クラス中の視線が僕に集中した。
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