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第八章
夢
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夢を見ていた。
おそらく僕のもっとも古い記憶。保育園か、小学校低学年のころだ。
僕と同い年くらいの子供たちが、僕の周りを取り囲み、囃し立てている。
「キモオタ! キモオタ! 臭いぞっ、寄るなあ!」
「ロリコンだ! こいつロリコンだ!」
六、七歳の幼児に「ロリコンだ!」もないはずだが、子供にとってはどうでもいい。悪口のひとつとして「馬鹿」「アホ」その他ここでは書けない差別語と同じで、訳も分からず使っている。
僕はどうしてよいか判らず、ただ立ち竦んでいるだけだった。胸から込み上げる口惜しさと、悲しみに震えていた。
ガツッ! と僕の後頭部に小石が飛んで当たった。子供の一人が、石を投げてきたのだ。
他人から石を投げつけられた経験が、あなたにあるか?
痛みは身体より心に、より、痛切に突き刺さる。ショックで僕は座り込んでしまった。全身の力が抜け、真っ黒な絶望感と、底無しの悲哀にどっぷり全身が浸かってしまった。
誰かの足が僕の背中に当たった。
僕は顔から、地面に腹ばいになった。
子供は残酷だ。
弱い者にはきわめて残忍になり、どんな酷い扱いも平気で行える。
それが自分たちとは違う異なる個性の持ち主となると、行為はエキサイトする。
そうだ。子供は「自分たちとは違う」と認識した相手には、限りなく残忍さを発揮するものだ。
幼児期の僕の毎日は、他人からの苛めの毎日だった。
なぜ苛められるのか、なぜ他人が僕を嫌うのか、まるで理由が判らない。理由が判らないから対処の方法も判らず、僕にとって他人は潜在的に苛めてくる恐怖の存在であった。
狂騒的な子供たちの笑い声が、僕の耳朶を打ち、僕はうずくまったまま身を固くしてひたすらこの時間が過ぎるのを祈っていた。
僕は全身、汗びっしょりになって目を覚ました。
夢か!
何という悪夢を見たのだろう……。
あんな夢、最後に見たのはいつか、思い出せないほど昔のことだ。
いうまでもなく、今の僕を苛める相手など存在しない。
なぜなら僕は真兼朱美の婚約者だから。
朱美と僕の婚約が成立してから、僕を苛める者はパッタリといなくなった。
理由は簡単。
真兼家は、この真兼町できわめて大きな影響力を持つ。
真兼病院はこのあたりでただ一つの総合病院で、付属する真兼高校とともに、真兼町の様々な産業に直結している。
病院に納入する患者の食事、リネンなどの付属品、高校への納入業者など多岐にわたる。
さらに真兼家は真兼町最大の地主で、町の面積の大きな部分を所有している。
暗に陽に、真兼町民は真兼家の意思を忖度するようになっていた。
もちろん現在の真兼家の当主、朱美の母親の真兼美佐子は、町に対し影響力を行使しようとなどこれっぽっちも考えてもいないだろう。
しかし町民の方はつい、真兼家の意向をおもんばかってしまうものだ。真兼家でそんなことを露ほども考えていなくとも、その鼻息をうかがってしまう。
結果、僕は朱美と婚約してからというもの、一切の苛めから解放された。
それだけは感謝している。
しかし僕は朱美と結婚など、微塵も考えられない。朱美と一緒に暮らすことは、僕にとって悪夢以外の何物でもない。
つまり僕は朱美の婚約者という立場だけを利用して苛めから逃れ、高校卒業の暁には真兼町から脱出しようと画策している最低の男ってわけだ。
いいんだもん!
誰がどう言おうと、僕は関係ないね!
だって僕はキモオタだもの。
おそらく僕のもっとも古い記憶。保育園か、小学校低学年のころだ。
僕と同い年くらいの子供たちが、僕の周りを取り囲み、囃し立てている。
「キモオタ! キモオタ! 臭いぞっ、寄るなあ!」
「ロリコンだ! こいつロリコンだ!」
六、七歳の幼児に「ロリコンだ!」もないはずだが、子供にとってはどうでもいい。悪口のひとつとして「馬鹿」「アホ」その他ここでは書けない差別語と同じで、訳も分からず使っている。
僕はどうしてよいか判らず、ただ立ち竦んでいるだけだった。胸から込み上げる口惜しさと、悲しみに震えていた。
ガツッ! と僕の後頭部に小石が飛んで当たった。子供の一人が、石を投げてきたのだ。
他人から石を投げつけられた経験が、あなたにあるか?
痛みは身体より心に、より、痛切に突き刺さる。ショックで僕は座り込んでしまった。全身の力が抜け、真っ黒な絶望感と、底無しの悲哀にどっぷり全身が浸かってしまった。
誰かの足が僕の背中に当たった。
僕は顔から、地面に腹ばいになった。
子供は残酷だ。
弱い者にはきわめて残忍になり、どんな酷い扱いも平気で行える。
それが自分たちとは違う異なる個性の持ち主となると、行為はエキサイトする。
そうだ。子供は「自分たちとは違う」と認識した相手には、限りなく残忍さを発揮するものだ。
幼児期の僕の毎日は、他人からの苛めの毎日だった。
なぜ苛められるのか、なぜ他人が僕を嫌うのか、まるで理由が判らない。理由が判らないから対処の方法も判らず、僕にとって他人は潜在的に苛めてくる恐怖の存在であった。
狂騒的な子供たちの笑い声が、僕の耳朶を打ち、僕はうずくまったまま身を固くしてひたすらこの時間が過ぎるのを祈っていた。
僕は全身、汗びっしょりになって目を覚ました。
夢か!
何という悪夢を見たのだろう……。
あんな夢、最後に見たのはいつか、思い出せないほど昔のことだ。
いうまでもなく、今の僕を苛める相手など存在しない。
なぜなら僕は真兼朱美の婚約者だから。
朱美と僕の婚約が成立してから、僕を苛める者はパッタリといなくなった。
理由は簡単。
真兼家は、この真兼町できわめて大きな影響力を持つ。
真兼病院はこのあたりでただ一つの総合病院で、付属する真兼高校とともに、真兼町の様々な産業に直結している。
病院に納入する患者の食事、リネンなどの付属品、高校への納入業者など多岐にわたる。
さらに真兼家は真兼町最大の地主で、町の面積の大きな部分を所有している。
暗に陽に、真兼町民は真兼家の意思を忖度するようになっていた。
もちろん現在の真兼家の当主、朱美の母親の真兼美佐子は、町に対し影響力を行使しようとなどこれっぽっちも考えてもいないだろう。
しかし町民の方はつい、真兼家の意向をおもんばかってしまうものだ。真兼家でそんなことを露ほども考えていなくとも、その鼻息をうかがってしまう。
結果、僕は朱美と婚約してからというもの、一切の苛めから解放された。
それだけは感謝している。
しかし僕は朱美と結婚など、微塵も考えられない。朱美と一緒に暮らすことは、僕にとって悪夢以外の何物でもない。
つまり僕は朱美の婚約者という立場だけを利用して苛めから逃れ、高校卒業の暁には真兼町から脱出しようと画策している最低の男ってわけだ。
いいんだもん!
誰がどう言おうと、僕は関係ないね!
だって僕はキモオタだもの。
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