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第七章
隊長
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アイリスは出入り口に向き直った。
出入り口のドアは、今にも破れそうだ。
みしみし……と蝶番が軋み、ついに「バアン!」と爆発音のような轟音を立て、ドアは弾け飛んだ。
がったん! とドアが内側に倒れ込み、出入り口一杯にがっしりとした体格の憲兵が姿を現した。革の長靴と、制帽を被っているが、なぜか上半身は白いタンクトップひとつだ。
「はっはあ~! いたなあ~!」
てらてらした丸顔に、凶悪な笑顔を張り付け、憲兵はアイリスを睨みつけ大声で吠えたてた。
アイリスは眼前の憲兵の正体を知っていた。
赤田斗紀雄。
青少年健全育成突撃隊の隊長。
もとオタク文化評論家。
今は〝転びオタク〟として、すべてのオタクの恐怖の象徴になっている。
赤田は店内を見回し「ふん!」とひとつ鼻で笑った。
「裏口へ客を逃がしたのだろうが、無駄、無駄! そんなことはとっくに承知だ。今頃別動隊が、裏口に回って、ここにいたキモオタたちを一斉検挙しているさ!」
アイリスは悔しさに全身を震わせた。
かっとなって、赤田に食って掛かった。
「なんでや! なんであんたらは、罪もないオタクをこんなに差別するんや!」
赤田は冷笑を浮かべ、アイリスに向かって諭すように答えた。
「罪がない? バカな! この国ではオタクであることがすなわち罪なのだ。いいかね、我が国は長年、少子高齢化に悩まされてきた。オタクたちはいい年をして結婚もせず、ゲームだの、マンガだの、フィギアに血道を上げているじゃないか。それだから日本は出生率も下がり、今に年寄りだけの国になる。そうならないために、全国民がヤンキー、ツッパリになる必要があるんだ。ヤンキー、ツッパリこそが正しい生き方で、オタクはその正反対だ! だからこの国からすべてのオタクを正しいツッパリに更生させる必要がある。俺は愛国心でやっているんだ!」
アイリスは素早く言い返した。
「あんたもオタクの一人やったやないか!」
アイリスの反論に、赤田はちょっとばかり顔をしかめた。
「まあな、あの頃の俺を思い返すと、恥ずかしいばかりだ。しかし今の俺はこんなに健康だ!」
赤田は上半身の筋肉にぐっと力を入れて、アイリスに誇示した。
「オタクで俺のようなナイスボディがいるか? どうせ自宅にこもって、一日中ゲームに浸っているか、動画サイトでエロい動画を見ているだけだろう? まるっきりなっちゃいねえ!」
赤田の自己自賛に、アイリスは呆れかえった。アイリスの感情が顔に出たのだろう、赤田はいきなり怒りの表情を浮かべた。
「もうお前とグタグタ喋っている暇はねえ! オタク幇助容疑で逮捕する! 大人しくお縄を頂戴しろ!」
赤田は手錠を取り出し、アイリスに向かってのっしのっしと大股で近づいた。手錠には白いロープがついていた。
出入り口のドアは、今にも破れそうだ。
みしみし……と蝶番が軋み、ついに「バアン!」と爆発音のような轟音を立て、ドアは弾け飛んだ。
がったん! とドアが内側に倒れ込み、出入り口一杯にがっしりとした体格の憲兵が姿を現した。革の長靴と、制帽を被っているが、なぜか上半身は白いタンクトップひとつだ。
「はっはあ~! いたなあ~!」
てらてらした丸顔に、凶悪な笑顔を張り付け、憲兵はアイリスを睨みつけ大声で吠えたてた。
アイリスは眼前の憲兵の正体を知っていた。
赤田斗紀雄。
青少年健全育成突撃隊の隊長。
もとオタク文化評論家。
今は〝転びオタク〟として、すべてのオタクの恐怖の象徴になっている。
赤田は店内を見回し「ふん!」とひとつ鼻で笑った。
「裏口へ客を逃がしたのだろうが、無駄、無駄! そんなことはとっくに承知だ。今頃別動隊が、裏口に回って、ここにいたキモオタたちを一斉検挙しているさ!」
アイリスは悔しさに全身を震わせた。
かっとなって、赤田に食って掛かった。
「なんでや! なんであんたらは、罪もないオタクをこんなに差別するんや!」
赤田は冷笑を浮かべ、アイリスに向かって諭すように答えた。
「罪がない? バカな! この国ではオタクであることがすなわち罪なのだ。いいかね、我が国は長年、少子高齢化に悩まされてきた。オタクたちはいい年をして結婚もせず、ゲームだの、マンガだの、フィギアに血道を上げているじゃないか。それだから日本は出生率も下がり、今に年寄りだけの国になる。そうならないために、全国民がヤンキー、ツッパリになる必要があるんだ。ヤンキー、ツッパリこそが正しい生き方で、オタクはその正反対だ! だからこの国からすべてのオタクを正しいツッパリに更生させる必要がある。俺は愛国心でやっているんだ!」
アイリスは素早く言い返した。
「あんたもオタクの一人やったやないか!」
アイリスの反論に、赤田はちょっとばかり顔をしかめた。
「まあな、あの頃の俺を思い返すと、恥ずかしいばかりだ。しかし今の俺はこんなに健康だ!」
赤田は上半身の筋肉にぐっと力を入れて、アイリスに誇示した。
「オタクで俺のようなナイスボディがいるか? どうせ自宅にこもって、一日中ゲームに浸っているか、動画サイトでエロい動画を見ているだけだろう? まるっきりなっちゃいねえ!」
赤田の自己自賛に、アイリスは呆れかえった。アイリスの感情が顔に出たのだろう、赤田はいきなり怒りの表情を浮かべた。
「もうお前とグタグタ喋っている暇はねえ! オタク幇助容疑で逮捕する! 大人しくお縄を頂戴しろ!」
赤田は手錠を取り出し、アイリスに向かってのっしのっしと大股で近づいた。手錠には白いロープがついていた。
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