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第四章
暴君登場!
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ぽかりと意識が浮かび上がり、僕は目を覚ました。
視界がぼんやりしている。
言うまでもなく、眼鏡がないからだ。
僕の視力では、眼鏡なしではほとんど何も判別できない。
眼鏡、眼鏡、眼鏡はどこだ!
僕はジタバタと腕を振り回し、存在しない眼鏡を探した。
と、視界の中に人影が浮かび上がり、僕の顔に眼鏡を架けてくれた。
急激にハッキリとした視界に、女性の顔が浮かび上がった。
卵型の理想的な顔の形に、ぱっちりとした大きな瞳。栗色の髪の毛は、複雑な形に編み上げている。
藍里だ……。
「良かった! お目覚めになられましたね」
僕はガバッと起き上がった。
ベッドに寝かされている。
消毒薬の匂いがした。
ということは、ここは保健室か?
「目が覚めたのか?」
野太い声に、そちらを見ると担任の大賀が壁際の椅子に腰かけ、不機嫌そうな表情を顔に貼りつかせて僕を睨んでいる。
ジロリと僕の側にいる藍里を見やって、ふらりと立ち上がり、近づいた。
「さっきのふざけたセリフは何だ?」
大賀に睨まれても、藍里は一切動揺を見せなかった。相変わらずにこやかな表情を保ったまま、平然と答えた。
「何のことでしょう?」
大賀は唸り声のような口調で詰問した。
「明日辺の恋人だ、とかいう戯言だよ。一体、どういうつもりなんだ?」
藍里は艶やかな微笑を浮かべ答えた。
「あら、本当にあたしは流可男さんの恋人なんです」
大賀は歯をむき出し、吠えた。
「馬鹿な! 大体、お前が転校したのは今日じゃないか。どうやって明日辺と恋人なんかになれるものか」
大賀は相当腹を立てているらしい。その証拠に、今まで一度も「だっぺ」を語尾につけていない。
僕は今までのやりとりに完全に置き去りにされたまま、茫然としていた。
見れば見るほど、眼前の女の子は僕のパートナー・キャラ佐々木藍里そのものだ。
しかしそんなことはあり得ない。
藍里はゲームの中のキャラだ。
現実の人間のはずがない。
しかし現に今、僕の横に存在し、さらに僕の顔に眼鏡を架けてくれた。
ということは藍里は僕に触れることができる。
では僕は藍里に触れることが出来る?
僕は無意識だが、右手を上げ藍里の顔に近づけた。
僕の動きに気づき、藍里はにこやかな表情で待ち受けた。
僕の指先が藍里の頬に触れた。
柔らかな感触が伝わってきた。
ゆっくりと藍里は頷いた。
藍里の表情は「そうです。あたしは存在しています」と宣言しているようだった。
大賀は怒りの表情で、僕と藍里を睨みつけていた。
その時ズシン、と保健室が軽く揺れた。
はっ、と大賀は顔を上げた。
表情に恐怖が浮かび上がっている。
度つきサングラスの奥の、両目が跳び出さんばかりにぐわっと大きく見開かれ、口がポカリと丸く開かれていた。
ズシン、ズシンと保健室の振動が繰り返され、何かが近づく気配がした。
大賀は浮足立ち、あたふたと周囲を見回している。
「そ、その話は後だ……俺はちょっと用事を思い出したので……」
なぜかチョコチョコとした歩き方で、足早に保健室を逃げ出した。
「どうかしましたか?」
藍里がぼんやりと呟いた。
僕は答えなかった。
いや、答えられなかった。
なぜなら僕も、近づきつつある存在の正体を知っていたからだ。
まさに真兼高校恐怖の象徴!
暴君登場!
視界がぼんやりしている。
言うまでもなく、眼鏡がないからだ。
僕の視力では、眼鏡なしではほとんど何も判別できない。
眼鏡、眼鏡、眼鏡はどこだ!
僕はジタバタと腕を振り回し、存在しない眼鏡を探した。
と、視界の中に人影が浮かび上がり、僕の顔に眼鏡を架けてくれた。
急激にハッキリとした視界に、女性の顔が浮かび上がった。
卵型の理想的な顔の形に、ぱっちりとした大きな瞳。栗色の髪の毛は、複雑な形に編み上げている。
藍里だ……。
「良かった! お目覚めになられましたね」
僕はガバッと起き上がった。
ベッドに寝かされている。
消毒薬の匂いがした。
ということは、ここは保健室か?
「目が覚めたのか?」
野太い声に、そちらを見ると担任の大賀が壁際の椅子に腰かけ、不機嫌そうな表情を顔に貼りつかせて僕を睨んでいる。
ジロリと僕の側にいる藍里を見やって、ふらりと立ち上がり、近づいた。
「さっきのふざけたセリフは何だ?」
大賀に睨まれても、藍里は一切動揺を見せなかった。相変わらずにこやかな表情を保ったまま、平然と答えた。
「何のことでしょう?」
大賀は唸り声のような口調で詰問した。
「明日辺の恋人だ、とかいう戯言だよ。一体、どういうつもりなんだ?」
藍里は艶やかな微笑を浮かべ答えた。
「あら、本当にあたしは流可男さんの恋人なんです」
大賀は歯をむき出し、吠えた。
「馬鹿な! 大体、お前が転校したのは今日じゃないか。どうやって明日辺と恋人なんかになれるものか」
大賀は相当腹を立てているらしい。その証拠に、今まで一度も「だっぺ」を語尾につけていない。
僕は今までのやりとりに完全に置き去りにされたまま、茫然としていた。
見れば見るほど、眼前の女の子は僕のパートナー・キャラ佐々木藍里そのものだ。
しかしそんなことはあり得ない。
藍里はゲームの中のキャラだ。
現実の人間のはずがない。
しかし現に今、僕の横に存在し、さらに僕の顔に眼鏡を架けてくれた。
ということは藍里は僕に触れることができる。
では僕は藍里に触れることが出来る?
僕は無意識だが、右手を上げ藍里の顔に近づけた。
僕の動きに気づき、藍里はにこやかな表情で待ち受けた。
僕の指先が藍里の頬に触れた。
柔らかな感触が伝わってきた。
ゆっくりと藍里は頷いた。
藍里の表情は「そうです。あたしは存在しています」と宣言しているようだった。
大賀は怒りの表情で、僕と藍里を睨みつけていた。
その時ズシン、と保健室が軽く揺れた。
はっ、と大賀は顔を上げた。
表情に恐怖が浮かび上がっている。
度つきサングラスの奥の、両目が跳び出さんばかりにぐわっと大きく見開かれ、口がポカリと丸く開かれていた。
ズシン、ズシンと保健室の振動が繰り返され、何かが近づく気配がした。
大賀は浮足立ち、あたふたと周囲を見回している。
「そ、その話は後だ……俺はちょっと用事を思い出したので……」
なぜかチョコチョコとした歩き方で、足早に保健室を逃げ出した。
「どうかしましたか?」
藍里がぼんやりと呟いた。
僕は答えなかった。
いや、答えられなかった。
なぜなら僕も、近づきつつある存在の正体を知っていたからだ。
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暴君登場!
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