キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~

万卜人

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第二章

出撃

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 空は青、というより黒に近いプルシャン・ブルーで雲一つない。中天には太陽がギラギラと輝き、無慈悲な陽光を砂漠に投げかけている。見渡す限りの砂は黄色というより白に近い色で、まるで雪山のように日の光を反射している。
 今見ている景色が今回の戦闘場所で、真っ平らな砂漠には幾つか天幕が並んで、戦闘に備えるため兵士たちがくつろいでいた。
 もしここが本物の砂漠地帯なら、僕はたちまち暑さで全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出し、ぶっ倒れているところだ。しかしこれはゲームの中なので、本物の熱射などは存在せず、ただただ見事に作り上げられた架空の世界の眺めに見とれていればいいだけだ。

 微風が天幕の布を微かに動かし、巻き起こる細かな砂が作戦会議用のテーブルに広げられた地図に積もっていた。
 作戦参謀の記章をつけた将校の一人が、苛立たしく手にした指し棒を使って、地図を指し示した。
「敵機動部隊は、谷を通過して砂漠地帯に侵入しつつある。予想会敵時間はこれより三十分後。敵の主力は装甲車と戦車で、移動砲台も多数準備している模様だ。敵の意図は明白で、この砂漠地帯を占領し、橋頭保を確保することにある。わが方はなんとしても、現在の場所を死守する必要がある。ここからここへ……」
 と作戦参謀は棒の先端をぐっと、地図上で動かして見せた。
「今示した線上に防衛ラインをもうける。歩兵連隊が防衛戦線を受け持つ。が、それだけではない」
 そこまで一気に喋って、作戦参謀は僕の顔を見て、にやっと笑った。
「つまり君には邀撃ようげき部隊を任せる、ということだ。ま、いつものことだが」
 僕も肩をすくめ、答えた。
「そうですね。いつも通りってことで」
 この作戦参謀と僕は、ゲーム初期からの顔見知りで、彼がいつも守備部隊を受け持ち、僕が敵部隊の前線を攻撃するという役割を受け持っている。もちろん、僕の役割の方が危険が大きいが、経験値の見返りも大きい。そろそろ新しいアイテムや、フィギアのデータも欲しいので、がっぽり経験値を溜めたいところだ。
「蒸汽帝国」というゲームでは経験値がお金や、魔法を使用するときのポイントとなっている。経験値を溜めればいろいろなアイテムと交換できるし、魔法攻撃するときも経験値を消費することにより、いろんな魔法を発動できる。だから魔法使いを選択すると、経験値が溜まりにくい。引き換えに魔法を使うことで、いろんな罠や、戦闘を回避できる。

 打ち合わせが終わり、テントから外へ出ると、兵士たちが控えているテントからぞろぞろと顔を出した。
 みな、僕の顔見知りの兵士たちだ。決まりの制服はなく、思い思いの格好をしている。大抵はゲームの設定に合わせて、十九世紀末前後の兵士の制服を身に着けているが、中には重そうな甲冑を身に着けている者や、場違いに日本の戦国時代の鎧兜を身に着けている奴もいた。もしあれが、本物の鎧兜や甲冑だったら、重さで一歩も動けないだろうが、そこがゲームの便利なところで、軽々と動ける。
 集まった兵士たちはほとんどがプレイヤーだが、なかにはNPCのキャラも交じっている。NPCのキャラはこのゲームの住人だから、プレイヤーと違ってお互い助け合えるのが違っている。

「作戦会議が終わった。僕らは谷の入り口で敵部隊を待ち受ける」
「おう!」と全員が声を上げ、ガチャガチャと騒音を立て、装備を身に着け始めた。全員、手慣れた様子で、出発の準備をすませる。
 兵士たちから少し離れた場所で、二人の美少女がテーブルを挟んで、親し気に話を続けていた。
 一人は藍里。もう一人はエルフの少女の姿を選択しているアイリスというプレイヤーだ。
 二人はゲームで顔を合わせた瞬間、言い合わせたように惹かれあい、あっという間に打ち解けてしまった。それからは一時も離れず、お互い夢中になって話を続けている。
 僕が近づくと、二人は顔を上げ、こちらを見て立ち上がった。
「流可男はん、もう時間でっか?」
 アイリスが立ち上がるなり、僕に大阪弁で話し掛けた。もっとも本格的な大阪弁ではなく、テレビの関西芸人の喋り方の真似、という印象を出ない。
 藍里はにこやかな笑みを浮かべ、アイリスの側に立った。藍里もまた、アイリスと出会った瞬間から、いつもの彼女らしさをかなぐり捨て、活き活きとした印象を持つようになった。いつもなら静かに僕の命令を待ち受けるだけなのに、アイリスと一緒にいると、生命が吹き込まれたように見えた。
 アイリスの大阪弁は、何でも動画サイトで日本のテレビ番組を見て、日本語を学んだそうだ。それがお笑いばかりだったので、自然、大阪弁混じりの日本語となったとは本人の弁だ。
「なあなあ、流可男はん。わて、藍里はんと組みたいなあ……。あんじょう、したってえなあ!」
 全身をもみ込むように、大げさな仕草で迫ってくるアイリスに、僕は思わず吹き出してしまった。アイリスはキョトンとしている。
「なんや、何が可笑しいねん?」
 これは説明が難しい。
 確かにアイリスの大阪弁は達者だ。ただしアメリカ人としては、だ。何といっても彼女の大阪弁は中途半端で、素人の物まねといった感じを拭えない。それがいかにもアメリカ人らしいオーバー・アクションを伴うのだから、僕としては失笑してしまう。
「いいよ。藍里と組んでくれ。アイリス、君は攻撃魔法を使えるんだったな」
 僕の答えにアイリスは、ぱっと顔を輝かせた。藍里も晴れやかな笑みを浮かべる。アイリスと同じく、藍里も魔法が使える。ただし藍里の魔法は、防御を目的とした魔法だ。この二人の組み合わせならうまくいくだろう。
 アイリスは藍里にぱっと抱き着こうとして、その体を突き抜け蹈鞴を踏んだ。
 ゲームの中で、プレイヤーは他のプレイヤーに触れることは出来ない。それがNPCであっても。うっかり触れようとすると、手が突き抜けてしまう。
 アイリスはきまり悪そうに、藍里を見た。

「出撃はすぐだぞ」
 言い残して僕は兵士たちに歩み寄った。
「おおきに!」というアイリスの叫びが、背中に聞こえた。
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