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北へ
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港湾事務所の所長は怒りを抑えかねていた。
じろりと事務所を占拠しているゴラン海軍の兵士を見やる。かれらは我が物顔に事務所を占拠し、すべての書類を押収した。所長はなすすべもなく、かれらの銃の脅しに屈していた。
「すぐ済みます。あんたには悪いが、これも作戦のひとつでね」
にやにや笑いを浮かべつつ、事務所を占拠した大佐は所長のデスクに腰をおしつけ、筆記具をおもちゃにしている。
「どういうことですかな? アンガスの町はコラル帝国の領土となって半世紀になります。ゴラン皇国の干渉をうける筋合いではない。それどころか、これはあきらかな条約違反だ! 宣戦布告と見なされてもしかたがないのですぞ!」
大佐は所長を見上げた。
所長ははっ、となった。
「まさか……ゴラン皇国は……本当に?」
大佐はうなずいた。
「さよう……わがゴラン皇国は貴国のコラル帝国へ宣戦布告をするつもりです。アンガスの港の封鎖は、その第一歩だ」
ゆらり……と、所長の視界が揺らいだようだった。ふいに見慣れた事務所の内部が、よそよそしい場所に映る。
宣戦布告……。
当のゴラン皇国の大佐が明言したのだ。嘘ではありえない。
「このアンガスの港は戦略上、どうしても手放せない拠点だ。本日より、この港はゴラン皇国の直轄領となり、海軍の基地として機能することになるだろう。あなたには協力を願うことになる」
所長はちからなく来客用の椅子にすわりこんだ。ぼんやりと自分の手を見つめる。
どうすればいいのだ!
そんな所長を見て、大佐は優しげに話しかけた。
「まあ、そう悩むことはありません。いつもの業務を続けてくれれば良い。ただし、コラル帝国の艦船が来航したときは、別ですがな……」
じろりと事務所を占拠しているゴラン海軍の兵士を見やる。かれらは我が物顔に事務所を占拠し、すべての書類を押収した。所長はなすすべもなく、かれらの銃の脅しに屈していた。
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にやにや笑いを浮かべつつ、事務所を占拠した大佐は所長のデスクに腰をおしつけ、筆記具をおもちゃにしている。
「どういうことですかな? アンガスの町はコラル帝国の領土となって半世紀になります。ゴラン皇国の干渉をうける筋合いではない。それどころか、これはあきらかな条約違反だ! 宣戦布告と見なされてもしかたがないのですぞ!」
大佐は所長を見上げた。
所長ははっ、となった。
「まさか……ゴラン皇国は……本当に?」
大佐はうなずいた。
「さよう……わがゴラン皇国は貴国のコラル帝国へ宣戦布告をするつもりです。アンガスの港の封鎖は、その第一歩だ」
ゆらり……と、所長の視界が揺らいだようだった。ふいに見慣れた事務所の内部が、よそよそしい場所に映る。
宣戦布告……。
当のゴラン皇国の大佐が明言したのだ。嘘ではありえない。
「このアンガスの港は戦略上、どうしても手放せない拠点だ。本日より、この港はゴラン皇国の直轄領となり、海軍の基地として機能することになるだろう。あなたには協力を願うことになる」
所長はちからなく来客用の椅子にすわりこんだ。ぼんやりと自分の手を見つめる。
どうすればいいのだ!
そんな所長を見て、大佐は優しげに話しかけた。
「まあ、そう悩むことはありません。いつもの業務を続けてくれれば良い。ただし、コラル帝国の艦船が来航したときは、別ですがな……」
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