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宿屋に飛び込むと、パックが待っていた。
パックはサンディの顔を見つけると、ぱっと表情を輝かせた。
「サンディ、やっと船を見つけたよ! ムカデを乗せても良いって船長がいたんだ! これで北の大陸へ渡れる」
「そう、おめでとう。でもあたし、行かない。ボーラン市に戻らなきゃ」
パックの口があんぐりと開けられた。
「で、でも……きみ……?」
「ごめんなさいね、パック。どうしても戻らなきゃいけないわけができたのよ」
そう言うと彼女はパックにカフェから持ち出した新聞を差し出した。
「読んで!」
なんだい、と言いながらパックはサンディに渡された新聞紙を手に持ち、読みすすめた。
はっ、と顔を上げる。
「これ、きみのことかい?」
裏返しにして紙面をひろげる。
それにはこうあった。
──『コラル帝国のプリンセス、サンドラ嬢婚約へ!』
見出しがあり、記事の詳細がある。
それによると王宮でひらかれた舞踏会でプリンセスが恋に落ち、婚約することになった、とある。結婚は来月で、盛大な結婚式がひらかれ、それには王宮に住まう王族、そして各地の貴族がまねかれるという。
サンディは首をふった。
「まさか! でもそのプリンセスの写真にあるのは、ネリーっていう女の子で、あたしの幼友達なの。あたしが王宮を飛び出したんで、ネリーが身代わりになったんだわ。前にも言ったけど、王宮の娘は十五才になったら結婚しなくてはならないの。だからあたしの身代わりに、彼女が結婚させられることになったんだわ」
ふうん、とつぶやきながらパックはさらに紙面を読み進めた。
と、パックもまた眉間に皺をきざんだ。
「プリンセスの相手は帝国軍の若き少佐で……その名前は!」
顔をあげる。
「ギャン少佐だって!」
パックの様子にサンディは尋ねた。
「知っている人? どんな人なの、ギャン少佐って?」
「おなじ村の人間だ」
「パックの村? たしかロロ村っていったわね」
「ああ、あいつが結婚の相手だって? とんでもない! あいつが相手なら、なにか陰謀があるに違いないよ」
「陰謀? どうして……?」
パックはギャンのことを語った。
ロロ村でのふるまい、そしてミリィへの片思い、ヘロヘロを苛めたことなど。
サンディは鼻をしかめた。
「あまり女の子に好かれる性格の男の人、って感じじゃないわね」
「当たり前さ。村では取り巻きがいたけど、それもあいつの父親の金が目当てだったんだ。みんな、あいつを嫌っていた」
「ネリーが可哀相……きっと無理やり婚約させられたんだわ……だからあたしが帰らなきゃならないのよ。彼女をたすけなきゃ!」
パックはうなずいた。
「わかった。それじゃこれから船に行って、契約をキャンセルしなきゃ」
サンディは驚いた。
「どうして? せっかく契約できたんじゃない」
「だってこれからボーラン市に戻るなら、おれが送ってやらなきゃ……」
いいわよ、とサンディは首をふった。
「ボーラン市に向かう駅馬車があるから大丈夫。あなたはミリィをさがすっていう大事な仕事があるんじゃない。それにキャンセルしたら、あとでほかの船が都合よく見つかるとは限らないわ。あたしはひとりで行くわ。ごめんなさいね」
パックは眉をさげた。
「そうか……判ったよ」
そこへマリアが入ってきた。
彼女はサンディの手荷物を用意していた。
「お話しはうかがっておりました。サンディ様のお荷物をまとめておきました。いつでも旅だてます」
サンディは首をふった。
「あんたって、気がきいているのね!」
パックはサンディの顔を見つけると、ぱっと表情を輝かせた。
「サンディ、やっと船を見つけたよ! ムカデを乗せても良いって船長がいたんだ! これで北の大陸へ渡れる」
「そう、おめでとう。でもあたし、行かない。ボーラン市に戻らなきゃ」
パックの口があんぐりと開けられた。
「で、でも……きみ……?」
「ごめんなさいね、パック。どうしても戻らなきゃいけないわけができたのよ」
そう言うと彼女はパックにカフェから持ち出した新聞を差し出した。
「読んで!」
なんだい、と言いながらパックはサンディに渡された新聞紙を手に持ち、読みすすめた。
はっ、と顔を上げる。
「これ、きみのことかい?」
裏返しにして紙面をひろげる。
それにはこうあった。
──『コラル帝国のプリンセス、サンドラ嬢婚約へ!』
見出しがあり、記事の詳細がある。
それによると王宮でひらかれた舞踏会でプリンセスが恋に落ち、婚約することになった、とある。結婚は来月で、盛大な結婚式がひらかれ、それには王宮に住まう王族、そして各地の貴族がまねかれるという。
サンディは首をふった。
「まさか! でもそのプリンセスの写真にあるのは、ネリーっていう女の子で、あたしの幼友達なの。あたしが王宮を飛び出したんで、ネリーが身代わりになったんだわ。前にも言ったけど、王宮の娘は十五才になったら結婚しなくてはならないの。だからあたしの身代わりに、彼女が結婚させられることになったんだわ」
ふうん、とつぶやきながらパックはさらに紙面を読み進めた。
と、パックもまた眉間に皺をきざんだ。
「プリンセスの相手は帝国軍の若き少佐で……その名前は!」
顔をあげる。
「ギャン少佐だって!」
パックの様子にサンディは尋ねた。
「知っている人? どんな人なの、ギャン少佐って?」
「おなじ村の人間だ」
「パックの村? たしかロロ村っていったわね」
「ああ、あいつが結婚の相手だって? とんでもない! あいつが相手なら、なにか陰謀があるに違いないよ」
「陰謀? どうして……?」
パックはギャンのことを語った。
ロロ村でのふるまい、そしてミリィへの片思い、ヘロヘロを苛めたことなど。
サンディは鼻をしかめた。
「あまり女の子に好かれる性格の男の人、って感じじゃないわね」
「当たり前さ。村では取り巻きがいたけど、それもあいつの父親の金が目当てだったんだ。みんな、あいつを嫌っていた」
「ネリーが可哀相……きっと無理やり婚約させられたんだわ……だからあたしが帰らなきゃならないのよ。彼女をたすけなきゃ!」
パックはうなずいた。
「わかった。それじゃこれから船に行って、契約をキャンセルしなきゃ」
サンディは驚いた。
「どうして? せっかく契約できたんじゃない」
「だってこれからボーラン市に戻るなら、おれが送ってやらなきゃ……」
いいわよ、とサンディは首をふった。
「ボーラン市に向かう駅馬車があるから大丈夫。あなたはミリィをさがすっていう大事な仕事があるんじゃない。それにキャンセルしたら、あとでほかの船が都合よく見つかるとは限らないわ。あたしはひとりで行くわ。ごめんなさいね」
パックは眉をさげた。
「そうか……判ったよ」
そこへマリアが入ってきた。
彼女はサンディの手荷物を用意していた。
「お話しはうかがっておりました。サンディ様のお荷物をまとめておきました。いつでも旅だてます」
サンディは首をふった。
「あんたって、気がきいているのね!」
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