230 / 279
真実
3
しおりを挟む
吸血鬼は大声をあげた。
「衛士ども、なにをしておる? 曲者だぞ!」
どやどやと多数の兵士の足音が近づいた。教皇を運んできた衛士たちが、決死の表情で駆け込んでくる。先頭を走ってくる隊長らしき男が叫んだ。
「教皇さま、ご無事で……むっ!」
隊長はミリィたちを見て緊張した。さっと腰の剣に手をかける。一同のなかで武器を手にしているホーバンに数名の兵士が殺到し、剣をつきつけた。ホーバンはあきらめて手から武器を放り投げた。がちゃん、と短剣が床に落ち音を立てた。
「お前たちは何者か? ここでなにをしておるっ!」
「こやつらはコラル帝国のスパイじゃ! わしの命を狙いにやってきたのじゃ! 隊長、はやくこやつらを逮捕せよ!」
あっ、とミリィは声をあげた。
さきほどまでの魔物の姿から、吸血鬼はハルマン教皇の姿に戻っている。叫ぶ声も、ハルマン教皇の声だ。
隊長は部下たちに命じた。
「聞いたであろう! 教皇さまのお命を狙っておる曲者どもを捕らえよ!」
「待って、この教皇は偽者よ!」
ミリィは叫んだ。
隊長はあっけにとられた。
「なにい? 馬鹿なことを……」
「本当なの! あたしたちの前で魔物が正体をあらわしたんだから!」
指さす先の教皇の姿を借りた吸血鬼はうすく笑っている。かれは口を開いた。
「まったく……なにを言うかと思うと夢のようなことを……さあ、なにを愚図愚図しておるのか? さっさと逮捕するのじゃ」
はっ、と隊長は返事してミリィたちに迫った。剣をつきつけ怒鳴る。
「大人しく縛につけ! 抵抗するとこの場で殺してやる」
ミリィは唇を噛みしめた。ヘロヘロをふりむき、尋ねる。
「どうしてこの人たちには正体がわからないの? あんたのちからでなんとかならないの?」
ヘロヘロは肩をすくめた。
「催眠のちからがよほど強く作用しているのだろうな。ホーバンやワフーはもともと教皇の教えに疑問を持っていたからおれのちからで正体を見抜けたが、こいつらは骨の髄から神聖皇国と教皇に忠誠心をささげている。解除するには苦労しそうだ」
「じゃあやりなさいよ! このままじゃあたしたち、また牢屋に逆戻りよ」
やれやれとヘロヘロは教皇をふりかえる。
ヘロヘロの凝視をあび、教皇はぎくりと緊張した。あわてて隊長に命じる。
「こやつらを殺せ! 危険分子であるぞ!」
教皇の命令をうけ、隊長はびくりと剣を振り上げた。
さっとヘロヘロは隊長をふりかえり、目をほそめた。
ぎらぎらとした眼光がヘロヘロの両目からほとばしった。
そのひかりを浴び、隊長は凝固した。
からん、と手にした剣が床に落ちる。他の兵士も目がうつろになり、だらりと両腕がさがりまるで戦いの態勢にはない。教皇のすがたを借りた吸血鬼もぼんやりとしているのみだ。
さっとホーバンはその剣をさらって構えた。
早口でささやく。
「いまだ! 逃げ出すんだ!」
弾かれたようにミリィとケイは手を取り合って走り出した。
ふりかえるとヘロヘロ、ホーバン、ワフーもそそくさと逃げ出してくる。
その時になってようやく吸血鬼は立ち直ったようだ。
「曲者が逃げるぞ! 追うのだ!」
どたどたとあわただしく乱れた足音が聞こえ、兵士たちが血相をかえて追いかけてくる。
ミリィは物入れから〝案内棒〟を取り出した。
「どこに逃げたらいいか教えて!」
叫びながら〝案内棒〟を投げ上げる。
投げ上げられた〝案内棒〟はくるりと空中で一回転すると、さっとミリィの前にすべりこんで矢印の先を向けた。
ミリィたちは〝案内棒〟に導かれ、走り続けた。
「衛士ども、なにをしておる? 曲者だぞ!」
どやどやと多数の兵士の足音が近づいた。教皇を運んできた衛士たちが、決死の表情で駆け込んでくる。先頭を走ってくる隊長らしき男が叫んだ。
「教皇さま、ご無事で……むっ!」
隊長はミリィたちを見て緊張した。さっと腰の剣に手をかける。一同のなかで武器を手にしているホーバンに数名の兵士が殺到し、剣をつきつけた。ホーバンはあきらめて手から武器を放り投げた。がちゃん、と短剣が床に落ち音を立てた。
「お前たちは何者か? ここでなにをしておるっ!」
「こやつらはコラル帝国のスパイじゃ! わしの命を狙いにやってきたのじゃ! 隊長、はやくこやつらを逮捕せよ!」
あっ、とミリィは声をあげた。
さきほどまでの魔物の姿から、吸血鬼はハルマン教皇の姿に戻っている。叫ぶ声も、ハルマン教皇の声だ。
隊長は部下たちに命じた。
「聞いたであろう! 教皇さまのお命を狙っておる曲者どもを捕らえよ!」
「待って、この教皇は偽者よ!」
ミリィは叫んだ。
隊長はあっけにとられた。
「なにい? 馬鹿なことを……」
「本当なの! あたしたちの前で魔物が正体をあらわしたんだから!」
指さす先の教皇の姿を借りた吸血鬼はうすく笑っている。かれは口を開いた。
「まったく……なにを言うかと思うと夢のようなことを……さあ、なにを愚図愚図しておるのか? さっさと逮捕するのじゃ」
はっ、と隊長は返事してミリィたちに迫った。剣をつきつけ怒鳴る。
「大人しく縛につけ! 抵抗するとこの場で殺してやる」
ミリィは唇を噛みしめた。ヘロヘロをふりむき、尋ねる。
「どうしてこの人たちには正体がわからないの? あんたのちからでなんとかならないの?」
ヘロヘロは肩をすくめた。
「催眠のちからがよほど強く作用しているのだろうな。ホーバンやワフーはもともと教皇の教えに疑問を持っていたからおれのちからで正体を見抜けたが、こいつらは骨の髄から神聖皇国と教皇に忠誠心をささげている。解除するには苦労しそうだ」
「じゃあやりなさいよ! このままじゃあたしたち、また牢屋に逆戻りよ」
やれやれとヘロヘロは教皇をふりかえる。
ヘロヘロの凝視をあび、教皇はぎくりと緊張した。あわてて隊長に命じる。
「こやつらを殺せ! 危険分子であるぞ!」
教皇の命令をうけ、隊長はびくりと剣を振り上げた。
さっとヘロヘロは隊長をふりかえり、目をほそめた。
ぎらぎらとした眼光がヘロヘロの両目からほとばしった。
そのひかりを浴び、隊長は凝固した。
からん、と手にした剣が床に落ちる。他の兵士も目がうつろになり、だらりと両腕がさがりまるで戦いの態勢にはない。教皇のすがたを借りた吸血鬼もぼんやりとしているのみだ。
さっとホーバンはその剣をさらって構えた。
早口でささやく。
「いまだ! 逃げ出すんだ!」
弾かれたようにミリィとケイは手を取り合って走り出した。
ふりかえるとヘロヘロ、ホーバン、ワフーもそそくさと逃げ出してくる。
その時になってようやく吸血鬼は立ち直ったようだ。
「曲者が逃げるぞ! 追うのだ!」
どたどたとあわただしく乱れた足音が聞こえ、兵士たちが血相をかえて追いかけてくる。
ミリィは物入れから〝案内棒〟を取り出した。
「どこに逃げたらいいか教えて!」
叫びながら〝案内棒〟を投げ上げる。
投げ上げられた〝案内棒〟はくるりと空中で一回転すると、さっとミリィの前にすべりこんで矢印の先を向けた。
ミリィたちは〝案内棒〟に導かれ、走り続けた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる