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裁判
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三人は衛士たちによって外の広場に連れ出された。
そこには後部が檻になっている馬車が停まっている。ミリィたちはその檻にあらあらしく押し込まれた。がちゃり、と檻の扉が閉まり、鍵がかけられた。
ミリィとケイは檻の鉄棒に手をかけ、あたりを眺めた。
広場にはミリィたちの押し込められた檻つきの馬車のほかに、枢機卿や法務官たちが乗り込む豪華な馬車が停まっている。兵士たちが声を掛け合い、馬車の用意をしている。枢機卿たちが衛士たちに守られ、つぎつぎと馬車に乗り込んだ。出発の準備をしているようだ。
ぴしり、と場所の外で鞭が鳴らされる音がして馬のいななく声が聞こえ、ごっとんと音を立て馬車は動き出した。
ごろごろと車輪が路面をかみ、キャラバンが出発を開始した。
ううむ……、と背後でうめく声がして、ミリィはふりかえった。
見ると、あのワフー老人が檻の奥に横になっているところだった。
ミリィは揺れる檻のなかを這うように近づいた。
老人の額に痛々しく火傷の跡がある。肌がやけ爛れ、腫れ上がっていた。
「お爺さん、ワフーさん……大丈夫?」
ミリィの声にワフーは薄く目を開けた。
「あんたか……ここはどこだ?」
「馬車の中。なんでも首都へあたしたちを連れて行くんだって」
なんじゃと、とワフーは起き上がった。
ずきん、と額が痛むのかうめきつつ手で押さえた。
「なんとか命は助かったようじゃな……やれやれ、この年で奴隷に落ちぶれるとは、なさけないことじゃわい」
じろり、とミリィの顔を見つめる。
「あんた、さっきわしらが首都へ連れて行かれると言ったな? サイデーンに行くのか」
「そのようね。サイデーンというのが、首都の名前なの?」
「そうじゃ。ハルマン教皇の住まう聖なる都じゃよ。ということは、わしもそこへ行くことになるのか」
「ハルマン教皇? だれなのそれ」
ワフーは呆れたような顔になった。
「お前さん、そんなことも知らんのか! なるほど、たしかにあんたはよそ者じゃ。よろしい、教えよう。ハルマン教皇は、わがゴラン神聖皇国の象徴じゃ。わしをふくめ、すべての聖職者を統括する重要な役目を負っておられる。教皇殿は神秘のちからをもち、永遠の命を持つといわれておるのじゃ」
ハルマン教皇のことを語るワフー老人は、なにか怖ろしいものを語っているようで、声はひくくなり表情には畏敬の色がうかんでいた。
その話しにヘロヘロがなぜか興味を持った。
「神秘のちから? それはなんだ」
ワフーはヘロヘロの顔を見た。
「教皇殿は神のちからを得たのじゃという噂じゃ。指先から電光を発し、その目はすべてを見通す。なんのささえもなく空中に浮き、逆らうものは即座の死をたまわう」
ミリィとケイは顔を見合わせた。どこかで聞いたような話ではないか?
ヘロヘロの目は見開かれた。
「ほほお、それは面白いな。まるでおれが魔王でいたころのちからのようではないか」
「魔王? なんじゃ、それは?」
ヘロヘロは肩をすくめた。
「なんでもない。忘れてくれ」
そう言うとくるりと背を向け、馬車の外に目を向けた。
馬車は街道を走っているのか、道の両側にひろびろと草原がひろがり、丘陵のむこうに遠く山脈が見えている。夕暮れが近く、空はおどろくほど真っ赤にそまり、オレンジ色の雲には金色の残照が映えていた。
そこには後部が檻になっている馬車が停まっている。ミリィたちはその檻にあらあらしく押し込まれた。がちゃり、と檻の扉が閉まり、鍵がかけられた。
ミリィとケイは檻の鉄棒に手をかけ、あたりを眺めた。
広場にはミリィたちの押し込められた檻つきの馬車のほかに、枢機卿や法務官たちが乗り込む豪華な馬車が停まっている。兵士たちが声を掛け合い、馬車の用意をしている。枢機卿たちが衛士たちに守られ、つぎつぎと馬車に乗り込んだ。出発の準備をしているようだ。
ぴしり、と場所の外で鞭が鳴らされる音がして馬のいななく声が聞こえ、ごっとんと音を立て馬車は動き出した。
ごろごろと車輪が路面をかみ、キャラバンが出発を開始した。
ううむ……、と背後でうめく声がして、ミリィはふりかえった。
見ると、あのワフー老人が檻の奥に横になっているところだった。
ミリィは揺れる檻のなかを這うように近づいた。
老人の額に痛々しく火傷の跡がある。肌がやけ爛れ、腫れ上がっていた。
「お爺さん、ワフーさん……大丈夫?」
ミリィの声にワフーは薄く目を開けた。
「あんたか……ここはどこだ?」
「馬車の中。なんでも首都へあたしたちを連れて行くんだって」
なんじゃと、とワフーは起き上がった。
ずきん、と額が痛むのかうめきつつ手で押さえた。
「なんとか命は助かったようじゃな……やれやれ、この年で奴隷に落ちぶれるとは、なさけないことじゃわい」
じろり、とミリィの顔を見つめる。
「あんた、さっきわしらが首都へ連れて行かれると言ったな? サイデーンに行くのか」
「そのようね。サイデーンというのが、首都の名前なの?」
「そうじゃ。ハルマン教皇の住まう聖なる都じゃよ。ということは、わしもそこへ行くことになるのか」
「ハルマン教皇? だれなのそれ」
ワフーは呆れたような顔になった。
「お前さん、そんなことも知らんのか! なるほど、たしかにあんたはよそ者じゃ。よろしい、教えよう。ハルマン教皇は、わがゴラン神聖皇国の象徴じゃ。わしをふくめ、すべての聖職者を統括する重要な役目を負っておられる。教皇殿は神秘のちからをもち、永遠の命を持つといわれておるのじゃ」
ハルマン教皇のことを語るワフー老人は、なにか怖ろしいものを語っているようで、声はひくくなり表情には畏敬の色がうかんでいた。
その話しにヘロヘロがなぜか興味を持った。
「神秘のちから? それはなんだ」
ワフーはヘロヘロの顔を見た。
「教皇殿は神のちからを得たのじゃという噂じゃ。指先から電光を発し、その目はすべてを見通す。なんのささえもなく空中に浮き、逆らうものは即座の死をたまわう」
ミリィとケイは顔を見合わせた。どこかで聞いたような話ではないか?
ヘロヘロの目は見開かれた。
「ほほお、それは面白いな。まるでおれが魔王でいたころのちからのようではないか」
「魔王? なんじゃ、それは?」
ヘロヘロは肩をすくめた。
「なんでもない。忘れてくれ」
そう言うとくるりと背を向け、馬車の外に目を向けた。
馬車は街道を走っているのか、道の両側にひろびろと草原がひろがり、丘陵のむこうに遠く山脈が見えている。夕暮れが近く、空はおどろくほど真っ赤にそまり、オレンジ色の雲には金色の残照が映えていた。
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