蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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裁判

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 ずるずると引っ張られたワフー老人は広間の外へ連れ出される。その姿が窓越しに見えた。老人は建物の広場に座らされた。広場には陶器の壷に火が燃え盛っていて、鉄の棒がつっこまれていた。衛士はその棒を取り出した。先は真っ赤に焼けている。
 ワフーの両肩をほかの衛士が力任せに押さえつけている。
 鉄棒をもった衛士が、その先をワフーの額に押しつけるのをミリィとケイは見た。
 じゅうう……。
 厭な音とともにワフーの額から煙があがる。
 ぎゃあああ!
 老人は悲鳴をあげ、身体が痙攣した。
 がく、とかれは気絶し仰向けにころがった。その額に十字の印が焼き付けられていた。
 ミリィは胸が悪くなった。
 吐きそう……!
 ふん、と枢機卿は鼻を鳴らした。
 じろり、とミリィを見る。
「そこの娘、名前はなんといったかな?」
 枢機卿の背後に控えていた従者がひそひそとささやいた。
「枢機卿様、そこの娘、名前はミリィと申すようです。出身地はまだ聞いておりませんが、言葉の様子から見てコラル帝国出身者に間違いありません」
 枢機卿の眉が持ち上がる。
「コラル帝国! するとこやつらは帝国のスパイと言うことになるぞ」
「断定はまだ早いと思われますが、もしやということも……」
 うむ、と枢機卿はうなずいた。法務官のひとりが身を乗り出しささやいた。
「枢機卿殿。問題はあまりに重大でございますぞ。もしもこやつらが帝国のスパイとなると、背後関係を吐かせる必要がございましょう。この城には適当な拷問のための設備がありませぬ。やはり首都に送って、正式な尋問官に任せるべきでございましょう」
 ミリィとケイは目を見合わせた。ケイは青い顔になって口を開いた。
「拷問されるの、あたしたち?」
 わからない、とミリィは首をふった。
「まさかと思うけど」
 窓の外を見る。ワフー老人はぐったりとなって、その両腕を衛士たちがひっぱりずるずると引きずっていく。引きずられるとき、老人はかすかにうめいていた。
 ミリィはきっと枢機卿をにらんだ。
「ちょっと!」
 彼女の声は広間に意外なほどひびいた。
 枢機卿はぎくりとなって、つぎにその顔が真赤になった。
 ミリィは一歩、前へ進み出た。
「あたしたちをどうするつもりなの? 返答しだいではただじゃおかないわよ!」
 むむむ……! と、枢機卿は怒りの表情になった。
「無礼者! 許しがないのに勝手に発言するとは」
「なにが無礼よ! いきなり逮捕して牢屋に入れられたのよ。冗談じゃないわ。すぐ、あたしたちを自由にしなさい。それにワフーさんにあんなひどいことをして……焼印を押すなんて可愛そうだとは思わないの?」
 ぽんぽんとミリィの舌鋒は切り込んでいく。ばん、と法務官のひとりが机を叩き、立ち上がった。
「うるさいっ! 黙らんか! この娘の口をふさげ!」
 法務官の命令で、衛士たちがわっとばかりにミリィに殺到した。手足をおさえつけられ、喚こうとした口もとを衛士たちの手がふさぐ。ケイはそれを見て、衛士にむしゃぶりついた。
「あんたたち……離しなさいよっ!」
 衛士はものも言わずにケイの手をねじりあげた。
 痛みに、ケイはきゃあっと悲鳴をあげた。しかし大人しくしているケイではなかった。捻りあげられた肩を支点に足を振り上げると、踵が衛士の顔を襲う。わっ、とばかりに衛士は思わずその手を離す。そのケイを抑えようとほかの衛士が襲いかかる。
 ミリィもまたしゃにむに暴れ、押さえ込まれた手から逃れようとしている。
 広間は大騒ぎになっていた。
 たちつくす法務官、怒りの表情を浮かべている枢機卿。
 そのなかで、ヘロヘロひとり黙ってそれを見ていた。その視線は冷ややかといってよく、むしろわれ関せずというたたずまいであった。
 大立ち回りを演じたミリィとケイであったが、多勢に無勢完全に押さえ込まれ、ふたりとも床にうつぶせにさせられていた。ふたりとも、すっかりぐったりとなっている。
 ミリィはヘロヘロを見上げ声をかけた。
「あんた、ヘロヘロ……なにか言ったらどうなの?」
 ぐずり、とヘロヘロは薄く笑った。
「おれになにを言って欲しいのだ? おれはなにもできないよ。お前たちがどうなろうと、おれには関係ない」
 まあ、とミリィは口を開けた。
 枢機卿は怒鳴った。
「この者どもを、首都サイデーンに連れて行け! そこで尋問することにする!」
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