蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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神聖皇国

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 三人が連れてこられたのは町の中心にそびえる城の大広間だった。
 なんて薄暗い部屋なのかしら。
 ミリィはのしかかるような石組みで作られた天井を見上げて思った。
 天井はアーチ型になっていて、ちいさな窓から外の光が差し込んでいる。しかし光源としてはそれだけで不足で、部屋には松明が灯され照明となっていた。松明に使われている油はあまり純度の高いものではないようで、じりじりと音を立てながら燃えていて、いやな匂いが部屋には充満していた。なるべくこんな場所は長居したくないとミリィは思っていた。
 あれからヘロヘロはぼんやりとした表情で、騎士たちに抵抗の気配もなく、大人しく言われるがまに連行されていた。角のとれたかれの顔を見て、ミリィは最初に会ったころのことを思い出していた。
 ケイはミリィにささやいた。
「ね、ヘロヘロの角、どうしてあんなに簡単にとれちゃったのかしら?」
「判らないわ……」
 ミリィは首をふった。
 黙っていろ、と背後についてきた騎士が命令した。
 と、広間に緊張がみなぎった。騎士たちは三人に跪くよう指示した。しぶしぶ三人は固い、石の床に膝をついた。
 衣擦れの音がして、広間の向こうから数人の人物が入室してくる。
 緋色と金の彩りが目を奪う。
「枢機卿のおなーりぃ……」
 ながく、尾を引くような独特な発声で従者がさけぶ。
 枢機卿……?
 顔を上げたミリィは、こちらを睨みつける目に気づいた。
 ぶくぶくと太った中年の男が、険しい目つきでこちらを見ている。足もとまでかくれるような分厚い生地の僧服を身につけ、顎がすっぽり埋まるような襟巻きをつけていた。その襟巻きから突き出た顔は、熱さのためか真っ赤にゆだっている。
「下郎! 許しがないのに顔をあげるとは無礼であろう。控えよ!」
 ミリィはあわてて顔をふせた。
「この者たちか。報せがあったのは?」
 甲高い声がミリィたちの頭上を通り過ぎる。
 はっ、と背後で身動きする気配があり、騎士のひとりが質問に答えた。
「さようでございます。ダイスの町の住民より、悪魔が襲ってきたとの報告があり駆けつけますと、この者どもがいたのでございます。見たとおりひとりはあきらかに人間の女でございますが、そのほかのふたりはそうではございません。従いまして、枢機卿のお出ましを願うことになったというわけでございます」
 ふむ、と枢機卿はうなずいたようだ。
「おぬしの判断はただしい。たしかにこの者どもは人とは思えぬ。黄色いそやつはあきらかに魔の属性をもっている。そして黒き肌をもつその娘も、人間とは違っておる。さて……まずは名前からあきらかにしなくてはならんな。即答をさしゆるす。おぬしら、名前を名乗るがよい」
 これはミリィたちにむけて言ったらしい。
 ミリィたちは顔を上げ、名前を名乗った。
「ミリィです」
「ケイ」
 ヘロヘロは黙っている。
 枢機卿はいらだった。
「これ、即答を許すと言ったろうが! なぜ黙っておる?」
「ヘロヘロ」
 ぼそりとヘロヘロは答えた。
「妙な名前じゃの。して、どこからまいった」
 三人の間で目配せがあった。結局、ミリィがこたえた。
「エルフの館からです。ここから北にある森の中にある……」
 枢機卿の眉がけわしくなった。
「エルフだと? それは伝説ではないか。エルフなどというものが、この世にいるわけがないであろう。嘘を申すな。正直に言うのだ」
「そんなことないわ! あたしはエルフよ! あたしはエルフの娘、ケイよ!」
 ケイはかっとなって叫んだ。枢機卿の顔が真赤になった。
「無礼者! 許しもなく発言するとは。この三人を即座に牢屋へ放り込め!」
 枢機卿の命令で、その場にいた兵士たちがわっとミリィたちを取り囲んだ。無数の手がミリィたちを捕まえ、有無を言わさず連行していく。ケイの弓矢はとりあげられ、ミリィの鞭も持ち去られてしまった。階段を降りると、そこは牢獄だった。薄暗い廊下の両側に、ずらりと扉がならんでいる。そのひとつが開けられ、三人は荒々しく押し込められた。
 抗議しようとしたミリィの目の前で扉がぴしゃりと閉められ、がちゃりとおおきな音をたてて鍵がかけられた。足音が遠ざかり、階段をのぼっていき、地下への扉もまた閉められる音が聞こえた。
 三人は投獄されたのだ。
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