蒸汽帝国～真鍮の乙女～

理想宮

１３

「やはり行くのかね」
　翌日、パックはムカデにマリアとサンディを乗せ、ボーラン市のはずれにいた。見送りにニコラ博士とホルストが出ていた。
「いろいろ有難う。博士、それにホルストさん」
　いいさ、とホルストはうなずいた。
「ミリィを見つけたら、マリアを通じて知らせてくれ。マリアとエイダは感応しあっているから、マリアの見たものはエイダも見ることが出来るから」
　ニコラ博士の言葉にパックは頷いた。と、二コラ博士は軽くじぶんの額をたたき、つぶやいた。
「そうそう、忘れていた！　パック、あの剣のことじゃが、あれはどうするつもりかね？」
　パックは二コラ博士の質問に、軽く眉を上げた。
「どうするつもりって……ぼくは持ってゆくつもりですけど」
「わしに預けんかね？」
「えっ？」
　驚きの顔を見せたパックに、二コラはにこやかな笑みを浮かべた。
「あれはわしと、ホルストさんふたりで研究しようと思う。わしは材料の金属について、ホルストさんは、かつての歴史上に、あのような剣が作られた例がないか、調べてもらう。お前ひとりで持ち歩いていては、なにかと大変ではないのかね？　ここなら大学の図書館も利用できるし、様々な冶金の施設も完備している。それこそ、科学的な研究ができるというものじゃ！」
　二コラの説得に、パックはだんだん、納得してきた。博士の言うことは、もっともだ！
　パックは操縦席で身をひねると、剣を納めておいた包みを持ち上げた。
「それじゃあ、お願いします！　是非、博士のちからで、この剣を蘇らせてください！」
　受け取った二コラ博士は、大きくうなずいた。
「任せておけ！　必ず、この剣を元に戻してやるからな！」
　それじゃ、と手をあげパックはムカデのアクセルを踏み込んだ。
　しゅっ、しゅっと蒸気を噴き上げ、ムカデは六対の足を動かし始めた。
「それじゃあ……行ってきます！」
　別れを告げ、パックはムカデに乗って北を目指した。
　サンディはムカデの後部座席に乗り、ボーラン市をふりかえった。
　遠く、ちいさく王宮が見えていた。
　それを見送るサンディの目は、かすかに潤んでいるようだった。