183 / 279
侵攻
5
しおりを挟む
共和国軍の侵入を知ったのはもうひとりいた。
コールだった。
パックの友達で、村の情報通。あらゆることに鼻を突っ込む習性のあるコールは、その日村の入り口近くで街道を見張っていた。ホルンの集会があってから、コールはいつか共和国軍がやってくるのではないかと勝手にじぶんを通報係と任じていたのである。
そしてそれは報われた。
近づいてくる戦車と、軍隊にコールは立ち上がり、側に立てかけていた自転車のサドルに跨った。つい最近、両親にねだって買ってもらったものである。
ペダルを踏み込み、ホルンの家を目指す。
「ホルンさん!」
ドアを開け叫ぶ。その時ホルンは炉をおこして村人にたのまれた鍬の修理をおこなっているところだった。コールの言葉にホルンは槌をおいて顔を上げた。
「どうしたコール?」
「き……協和国軍が……!」
コールの言葉にホルンは立ち上がった。真剣な表情になっていた。
「きたか……?」
「ああ、戦車が先頭だ! それに沢山の車が……」
うなずき、ホルンは外へ出た。
街道のはるか向こうから、砂煙が近づいてくる。砂煙の先頭は、家ほどもありそうな巨大な戦車。
ホルンは唇をぐっと噛みしめ、両拳を握りしめた。
「ホルンさん! おれ、帝国軍へ報せに行くよ!」
「判った、共和国軍に掴まるなよ!」
うん、とひとつうなずいたコールは自転車に跨り、ペダルを踏み込んだ。山道を選び、共和国軍の背後から村を出る進路を選ぶ。
ホルンは接近する戦車を見守った。
じつに巨大だ。前後の砲塔がぐるぐると左右に動き、あたりを睥睨している。
戦車はホルンの家の前に停車した。
司令塔から顔を出しているガゼにホルンは目を見開いた。
「やあ」
ガゼはホルンを見おろした。
うむ、とホルンはうなずいた。
実を言うと、この再会をホルンは予測していたのかもしれなかった。ガゼの襟にひかる階級に、ホルンはつぶやいた。
「准将か……出世したな」
ガゼのやせこけた頬がほころんだ。
「まあな。お前に話しがある」
「おれに?」
「そうだ。わが共和国はふたたびこうして軍を結成して、帝国に宣戦布告することに決めた。ついてはこのロロ村を接収して、駐屯地とすることになった。おれは無益な戦いは好まない。お前から話をして、村のみんなに軽率な行動をとらないよう、よく言い聞かせてくれないか?」
がちゃ、と背後でドアが開く音がした。
ホルンとガゼはその方向を見た。
メイサが真っ青な顔で立っている。
「あなた……」
「メイサ……」
ふたりは見詰め合った。
がく、とメイサはドアによりかかった。
「生きていたのですね。なんとなく、そんな気がしていました」
「報せなくて悪かった。ミリィはどうした? 会わせてくれないか」
その言葉に、メイサはうっと声を詰まらせた。見る見る目に涙があふれる。
「どうした? あの娘になにがあった?」
彼女はドアの前にくずれおちた。
ガゼは司令塔から降りると、メイサに駈け寄った。
コールだった。
パックの友達で、村の情報通。あらゆることに鼻を突っ込む習性のあるコールは、その日村の入り口近くで街道を見張っていた。ホルンの集会があってから、コールはいつか共和国軍がやってくるのではないかと勝手にじぶんを通報係と任じていたのである。
そしてそれは報われた。
近づいてくる戦車と、軍隊にコールは立ち上がり、側に立てかけていた自転車のサドルに跨った。つい最近、両親にねだって買ってもらったものである。
ペダルを踏み込み、ホルンの家を目指す。
「ホルンさん!」
ドアを開け叫ぶ。その時ホルンは炉をおこして村人にたのまれた鍬の修理をおこなっているところだった。コールの言葉にホルンは槌をおいて顔を上げた。
「どうしたコール?」
「き……協和国軍が……!」
コールの言葉にホルンは立ち上がった。真剣な表情になっていた。
「きたか……?」
「ああ、戦車が先頭だ! それに沢山の車が……」
うなずき、ホルンは外へ出た。
街道のはるか向こうから、砂煙が近づいてくる。砂煙の先頭は、家ほどもありそうな巨大な戦車。
ホルンは唇をぐっと噛みしめ、両拳を握りしめた。
「ホルンさん! おれ、帝国軍へ報せに行くよ!」
「判った、共和国軍に掴まるなよ!」
うん、とひとつうなずいたコールは自転車に跨り、ペダルを踏み込んだ。山道を選び、共和国軍の背後から村を出る進路を選ぶ。
ホルンは接近する戦車を見守った。
じつに巨大だ。前後の砲塔がぐるぐると左右に動き、あたりを睥睨している。
戦車はホルンの家の前に停車した。
司令塔から顔を出しているガゼにホルンは目を見開いた。
「やあ」
ガゼはホルンを見おろした。
うむ、とホルンはうなずいた。
実を言うと、この再会をホルンは予測していたのかもしれなかった。ガゼの襟にひかる階級に、ホルンはつぶやいた。
「准将か……出世したな」
ガゼのやせこけた頬がほころんだ。
「まあな。お前に話しがある」
「おれに?」
「そうだ。わが共和国はふたたびこうして軍を結成して、帝国に宣戦布告することに決めた。ついてはこのロロ村を接収して、駐屯地とすることになった。おれは無益な戦いは好まない。お前から話をして、村のみんなに軽率な行動をとらないよう、よく言い聞かせてくれないか?」
がちゃ、と背後でドアが開く音がした。
ホルンとガゼはその方向を見た。
メイサが真っ青な顔で立っている。
「あなた……」
「メイサ……」
ふたりは見詰め合った。
がく、とメイサはドアによりかかった。
「生きていたのですね。なんとなく、そんな気がしていました」
「報せなくて悪かった。ミリィはどうした? 会わせてくれないか」
その言葉に、メイサはうっと声を詰まらせた。見る見る目に涙があふれる。
「どうした? あの娘になにがあった?」
彼女はドアの前にくずれおちた。
ガゼは司令塔から降りると、メイサに駈け寄った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる