蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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侵攻

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 共和国軍の侵入を知ったのはもうひとりいた。
 コールだった。
 パックの友達で、村の情報通。あらゆることに鼻を突っ込む習性のあるコールは、その日村の入り口近くで街道を見張っていた。ホルンの集会があってから、コールはいつか共和国軍がやってくるのではないかと勝手にじぶんを通報係と任じていたのである。
 そしてそれは報われた。
 近づいてくる戦車と、軍隊にコールは立ち上がり、側に立てかけていた自転車のサドルに跨った。つい最近、両親にねだって買ってもらったものである。
 ペダルを踏み込み、ホルンの家を目指す。
「ホルンさん!」
 ドアを開け叫ぶ。その時ホルンは炉をおこして村人にたのまれた鍬の修理をおこなっているところだった。コールの言葉にホルンは槌をおいて顔を上げた。
「どうしたコール?」
「き……協和国軍が……!」
 コールの言葉にホルンは立ち上がった。真剣な表情になっていた。
「きたか……?」
「ああ、戦車が先頭だ! それに沢山の車が……」
 うなずき、ホルンは外へ出た。
 街道のはるか向こうから、砂煙が近づいてくる。砂煙の先頭は、家ほどもありそうな巨大な戦車。
 ホルンは唇をぐっと噛みしめ、両拳を握りしめた。
「ホルンさん! おれ、帝国軍へ報せに行くよ!」
「判った、共和国軍に掴まるなよ!」
 うん、とひとつうなずいたコールは自転車に跨り、ペダルを踏み込んだ。山道を選び、共和国軍の背後から村を出る進路を選ぶ。
 ホルンは接近する戦車を見守った。
 じつに巨大だ。前後の砲塔がぐるぐると左右に動き、あたりを睥睨している。
 戦車はホルンの家の前に停車した。
 司令塔から顔を出しているガゼにホルンは目を見開いた。
「やあ」
 ガゼはホルンを見おろした。
 うむ、とホルンはうなずいた。
 実を言うと、この再会をホルンは予測していたのかもしれなかった。ガゼの襟にひかる階級に、ホルンはつぶやいた。
「准将か……出世したな」
 ガゼのやせこけた頬がほころんだ。
「まあな。お前に話しがある」
「おれに?」
「そうだ。わが共和国はふたたびこうして軍を結成して、帝国に宣戦布告することに決めた。ついてはこのロロ村を接収して、駐屯地とすることになった。おれは無益な戦いは好まない。お前から話をして、村のみんなに軽率な行動をとらないよう、よく言い聞かせてくれないか?」
 がちゃ、と背後でドアが開く音がした。
 ホルンとガゼはその方向を見た。
 メイサが真っ青な顔で立っている。
「あなた……」
「メイサ……」
 ふたりは見詰め合った。
 がく、とメイサはドアによりかかった。
「生きていたのですね。なんとなく、そんな気がしていました」
「報せなくて悪かった。ミリィはどうした? 会わせてくれないか」
 その言葉に、メイサはうっと声を詰まらせた。見る見る目に涙があふれる。
「どうした? あの娘になにがあった?」
 彼女はドアの前にくずれおちた。
 ガゼは司令塔から降りると、メイサに駈け寄った。
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